幼なじみと12月25日 -Killer-
「メ、メリークリスマス!」
「…………………。」
「…………………。」
「どうしたの、キラー。」
「キ、キラーじゃない。サンタさんだ。」
「仮面つけてる筋肉ムキムキなサンタさんなんて見たことないよ。キラーだよ。」
「…………………。」
「…まァ、入りなよ。」
「…じゃまする。」
しょぼくれたように肩をおとしながら、キラーはいつものように身体を小さく屈めて玄関をくぐった。
ムキムキサンタを茶の間へ促せば、おずおずとキラーの定位置に座る。なんだ、やっぱりキラーじゃん。
「どうしたの、その衣装。買ったの?っていうか、どこで着たの?」
「ト、トナカイから預かってソリの上で着た。」
「…………………。」
「…インターネットで買って車の中で着た。」
「そっか。ありがとうね。かなりクリスマス気分味わえた。」
「そうか。ならよかった。」
「うん。あ、何か食べる?」
「みかんをもらおう。」
「承知した。」
台所にあったみかんを数個掴むと、私はキラーのいるコタツへ戻った。
キラーはもぞもぞとサンタの衣装を脱いでいた。
「えっ、なに、脱いじゃうの?」
「正体がバレた。もう必要ない。」
「そんなことないよーかわいいよー着ててよ。」
「…かわいいなんて言われてもうれしくない。」
「ちぇ。はい、みかん。」
「あァ、ありがとう。」
二人してみかんを頬張りながら、コタツでテレビを見る。
ああ、今年も終わるなァ。
「ねェ。」
「なんだ。」
「どうして今日、来たの?」
「?どうしてって?」
「だってさ、今日クリスマスだよ。」
「知っている。」
「特別な日じゃん。華やかに過ごす日じゃん。」
「まァ、世間的にはそうだろうな。」
「キラーみたいな華やかな人が、こんなところにいていいの?」
「華やか?べつにおれは華やかじゃないだろう。」
「キラーはね、もうちょっと自分をちゃんと知った方がいいよ。」
「それに、」
「うん?」
「おれは、おれのしたいようにしているだけだ。」
「…………………。」
「…………………。」
「…そんなこと言われたらさ、」
「あァ。」
「…期待しちゃうよ。」
「き、期待?なんの期待だ?」
「クリスマスに、わざわざ会いに来られたらさ。もしかしてそうなのかなって、だれでも思っちゃうよ。」
「そ、そうなのかなって、なんだ?」
「もう、とぼけちゃってさー。」
コタツの下で、つんつんとキラーの足を突いた。すると、大きな身体をぴくりと揺らして、キラーはあたふたと私を見た。
「と、とぼけているわけじゃないが…」
「うん。」
「き、期待なら、…その、」
「うん。」
「…しても、いいんじゃないか。」
「えっ、」
「…………………。」
「ほ、ほんとに…?」
「…あァ。」
「キラー…」
「…は、ははっ、こんな時、どういうカオしていいか、」
「そんな照れなくてもいいじゃん。…はいっ!」
ずいっ、と手をキラーの方へ伸ばせば、キラーはしばらく唖然とした。
「…なんだ?この手は。」
「なにって、…あるんでしょ?プレゼント。」
「プ、プレゼント?」
「ええっ?ないの?だって期待していいって言ったじゃん。」
「…なるほど。そうか。そういうことか。どうりでうまくいきすぎだと…」
「なァんだ。ないのか。」
「…ないとは言っていない。」
「えっ、ほんと?あるの?」
きらきらとギラついた目でキラーを見れば、キラーは傍に置いた紙袋の中から小さな箱を取り出した。
「…メリークリスマス。」
「わあい!キラーありがとう!だいすき!」
「…なぜだ。素直に喜べない。」
「ねェねェ、開けてもいい?」
「あァ、もう好きにしろ。」
「やったー!」
なぜかふてくされているキラーを横目に、私は包装紙を丁寧に剥がしていった。
品のいい小ぶりな箱の蓋を開けると、中には星型のかわいいチャームが付いたネックレスが入っていた。
「わー!かわいい!かわいいよキラー!」
「そうか。よかった。」
「あれっ?これなんか見たことある。あっ、今月のファッション誌に載ってたやつだ!」
「そうなのか?」
「そうだよこれっ、人気でどこも品切れってテレビで言ってたのに…!」
「そうか。そんな希少価値の高いものだとは思わなんだ。」
「すごい!よく手に入ったね!」
「一緒に選んでくれた女が、その店のオーナーと知り合いでな。」
「…え?」
「無理言って在庫を出してもらったんだ。」
「…………………。」
「やはり、女ものの贈りものは、女に選んでもらうにかぎるな。」
「…………………。」
「おれが選んだんじゃあ、そんなに喜んではもらえ、」
「…………………。」
「ど、どうした?どこか気に食わなかったか?」
「えっ、…ううん!まさか!」
「そうか。なら安心した。」
そう言うと、キラーは満足げに頷きながら緑茶をずずっとすすった。
私はしばらくネックレスを見つめると、そっと箱の蓋を閉めた。
「…さっき、」
「うん?」
「どうして今日来たのかと、そう聞いたな。」
「え?うん。」
「じ、…じつはな、」
「うん。」
「おまえに、は、…話しておきたいことが、あるようなないような…」
「話しておきたいこと?なに?」
「いや、まァ、なんだ。その、」
歯切れ悪くそう言うと、キラーはぬるくなったお茶をいっきにのみ干して大きく咳払いをした。
「ま、…真面目な話なんだ。」
「え、う、うん。」
「笑わないで聞いてくれるか?」
「もちろん。なに?」
「お、…おれは、」
「うん。」
「物心ついてから、ずっと、」
「うん。」
「…お、」
「…………………。」
「…おまえのことを、」
「私?うん。」
「…あ、」
「あ?」
「…愛、」
「あい?」
「愛、し、」
「愛知?」
「…………………。」
「…………………。」
「…あ、……………哀川翔に似てると思ってた。」
「えええっ!うそっ!うそでしょっ?」
「…………………。」
「ちょっ、ちょっ、えっ、どのへんがっ?カオ?カオの話?」
「…いや、もういい。いいんだ。忘れてくれ。」
そう言って、キラーは哀しげなカオでゆっくりと首を横に振る。いやいや、ぜんっぜん忘れられないしそのカオは私がしたい。
「ね、ねェねェキラー、怒らないから言って?私哀川翔にどこが似てるの?」
「はァ、おれはほんとにダメな男だ…」
「ちょっ、なんか知らないけど落ち込むならあとにして。やっぱりカオ?カオなの?カオだとしたらどのへん?まさかぜんぶじゃないよねっ?」
「…肌の質感が少しな。」
「ええっ!私あんなにテラッテラしてるのっ?」
ショック。化粧品を変えよう。
今年ももはや終わるというのに、このタイミングで今年一番の衝撃を受けてしまった。哀川翔はもう応援できそうにない。
二人して肩をおとしながら、やたら賑やかしいバラエティ番組を無表情で見た。そうだ、今日クリスマスだった。
「…あのさァ、キラー。」
「…なんだ。」
「センス悪くてもダサくでも流行りものじゃなくても安いものでもいいからさ、」
「?あァ。」
「私、やっぱり、」
「あァ。」
「プレゼントは、キラーが選んでくれたものがほしいよ。」
「…………………。」
「…………………。」
「そ、そうなのか。」
「うん。」
「…そういうもんか。」
「そういうもんです。」
「…………………。」
「…………………。」
「それ、買い直そう。」
「イヤ。これはほしい。」
「強欲だな。」
「ありがとう。」
「誉めてない。」
「…ははっ。」
「…………………。」
「…………………。」
「…来年も、一緒にいような。」
「…いいともー。」
ま、
あなたがとなりにいてくれれば、他に何もいらないんだけどね。
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