従順な犬のしつけ方-Thanks 10,000-

「トラファルガーさん、このあと二人でどこか行きませんか?」

「あァ?」


数時間前、勤務先で待ち伏せていたお調子者のキャスケット帽子に無理やり引っ張られて来てみれば、予想どおりの光景にローは溜め息をついた。


「キャプテンの名前使うとかわいい子がたくさんきてくれるんすよぉっ!」と浮かれぎみに言ったその男は、今まさにその「かわいい子」たちに囲まれてだらしなくヨダレをたらしている。


そのなかでも、とくにシャチが褒めちぎっていた女が、上目遣いでローを誘った。


……………まァまァだな。


今日はコイツでいいか。


ローは承諾の意で立ち上がると、その女は他の女たちに誇らしげなカオをした。


……………アホくせェ。


ローは冷めた目でそれを見るが、大した感情は沸かない。


一夜限り、ただ身体を重ねて終わる相手だ。


外に出るなり女はローの腕に絡みついた。


「触んじゃねェ。」

「ふふっ、これからもっといろんなところ、触るのに…」


そう言ってまた上目遣いをする。


……………うぜェ女。


身体は悪くなさそうだから、まァいい。


ローは面倒になって、そのまま歩き出した。


……………が、


少し離れたところに見えた光景に、ローの足がピタリと止まった。


「トラファルガーさん?」


不思議そうにローのカオを覗きこむ。


「ねぇ、じらしてるの?早く行きましょうよ。……………ロー。」


ふふふっと上機嫌に笑った途端、絡めた手を弾かれた。


「なっ!なにすんのよっ!」

「……………名前呼ぶんじゃねェ。」


そう言って睨みつけるローの表情に、女は息をのんで立ち竦んだ。


しかし、ローの意識はもうすでにそこにはない。


ローは歩みを進めると、先程見かけたよく知る二人のあとを追った。


長い足はすぐにその二人に追いつき、その一人の頭を思いきり掴む。


「…っ!!いった…!!」

「***?どうし……………なんだ、キャプテンか。」


そのとなりを歩いていた男が、ローを見るなり小さく溜め息をつく。


「あ、あれ?ローだ。どうしたのこんなところで……………いだだだっ!」

「どうしたじゃねェんだよ、アホ女。てめェこそなにしてやがる。」


ローはへらっと笑った***にイラつきを覚えて、手に力を入れた。


「キャプテン、***の頭がつぶれてしまいますよ。」

「うるせェ、ペンギン。てめェどういうつもりだ。こんな時間にこんなショボい女と会うほどヒマじゃねェだろ、てめェは。」


睨みながらそう言ったローに、ペンギンは薄く笑った。


「さっきたまたまそこで会って。危ないから送ってやろうとしただけですよ。」

「…………………。」


そのまま***を睨みつける。


「ほ、ほんとだよ。うそついてどうするの。き、機嫌悪いね。どうしたの、まさかフラれ……………いだだだっ!」

「おれがフラれるわけねェだろ。てめェじゃねェんだ。」

「キャ、キャプテン。」


見かねたペンギンはローの腕を掴んで、***の頭から引き剥がした。


「やりすぎですよ……………大丈夫か、***。」

「大丈夫です、ペンギンさん。ありがとうございます。」


そう言ってペンギンに微笑みかける。


ますます機嫌が悪くなっていくローに、ペンギンは口元を緩めた。


「じゃあおれは帰る。またな、***。」

「えっ!?ペ、ペンギンさん帰っちゃうんですか!?」

「あァ。でないとおれの命が危うい。じゃあな。」


そう言って長い足でスタスタと去っていった。


「…………………。」

「…………………。」


***は、そぉっとローを見上げた。


「す、すみません。」

「なにがだ。」

「わかりません。」


そう答えて、***は、しゅん、と小さくなった。


「へらへらしてんじゃねェよ。」

「し、してないよ。」

「してんだろうが。気にいらねェ。」


ローは***の顎をつかんで上を向かせた。


「んなっ!!なっ!!なにするのっ…!!」

「うるせェ。」


ぐいっとさらに引き寄せると、***はますますカオを赤くした。


「自分の飼い犬が他のヤツにシッポふってたらおもしろくねェだろうが。」

「……………はい?」

「おれにだけ飼いならされときゃいいんだよ、おまえは。わかったか、バカ。」


そう言って***の顎をピンっと弾いた。


「い……………犬…」

「なんだ。なんか不満でもあんのか。」

「……………いえ、ないです。」


***が大きく項垂れる。


まるでそれが、主人に怒られた犬のようで、ローは満足げに口の端を上げた。


「メシ食ったのか。」

「え、あ、いや、まだだよ。さっき仕事終わって帰るところだったから。」

「相変わらず仕事遅ェな。」

「うっ、」

「おら、行くぞ。」

「え?」


***がそう聞き返すより早く、ローはスタスタと歩き出した。


「なに食いてェんだよ。」

「あ、あれ、もしかしてローも食べてないの?」


長い足で歩いていくローに、***は少し早足で着いていく。


……………ほんとに犬みてェ。


ローの機嫌はたちまち良くなっていった。


「食わせてやるからついてこい。餌付けしねェとふらふらしやがるからな、このダメ犬は。」


ローが意地悪くそう言うと、***はふくれっツラをしながら、それでもうれしそうにそのあとを追っていった。



順な犬のしつけ方



ねぇロー、私って犬でいうとなにかな。


あァ?……………ペキニーズ。


……………カ、カオつぶれてて足短いけど愛嬌はあるね、うん、悪くない。


…………………めでてェヤツ。


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