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それから10日ほど経ったある日。


私は予期せず、ローの様子がおかしかった理由を知った。


「ダリアさん!」


息を切らしながらその名を呼ぶと、ダリアさんは私を見てパァッと華が咲くように笑った。


もう今日という日も終わりかけているというのに、その美しさはとどまることを知らない。


「***ちゃん!久しぶりね!」

「はい!あっ、お待たせしてしまってすみませんでした…!」

「いいのよ、私が誘ったんだから。よく私がここに座ってるってわかったわね。」

「はい、ダリアさん浮いてるので。」

「え、ええっ?私浮いてるの?」


サァッとカオを蒼くしてそう言ったダリアさんに、私は思わず笑ってしまった。


もちろん、イヤミで言ったわけではない。


居酒屋で長い足を組んで煙草を吸うダリアさんが、まるで草むらに咲いたバラのようにアンバランスだったからだ。


そう説明すると、ダリアさんは照れたように頬を紅くした。


「や、やだわ***ちゃん!おだてたって何も出ないわよ!」

「あいだだっ、ダリアさん力が強っ…!」


いやだわいやだわ、なんてうれしそうに私の身体を叩くダリアさん。


か、かわいい…


綺麗なのに、お医者さんなのに、少しも気取ったところがなくて、どんな時でもどんな人にでも真っ正面から向き合える人。


それに比べて私は、


そんなダリアさんに、ずっと嘘を吐き続けてきた。


………………でも、


それも、今日でおしまい。


私は今日、ダリアさんにすべてを打ち明けるつもりでここへ来た。


…………………たとえ、ダリアさんに嫌われることになってしまったとしても。


「それで***ちゃん!私に話ってなんだったの?」

「あっ、はっ、はい!ええっと…」


いっ、いきなりきた…!


心の準備はしてきたはずが、いざその時が来ると、私はモゴモゴと口を噤んでしまった。


「いやァね、私ったら!来て早々そんな矢継ぎ早に!」


そんな私を見かねたのか、ダリアさんはおどけたようにそう笑ってみせる。


「いいわ、もう少し落ち着いてからにしましょ!」

「ダ、ダリアさん、あの、」

「ふふっ、***ちゃんが私に話なんて初めてだからうれしくなっちゃって…気を悪くしないで?」

「そっ、そんなことは…!」


私が慌ててそう否定すると、ダリアさんはホッとしたように息をついた。


「そうだわ!先におみやげをあげてもいいかしら?」

「あっ、はっ、はい!ありがとうございます!」


そう言うと、ダリアさんは意気揚々と紙袋を取り出した。


「わっ、そっ、そんなに…!」

「ふふっ、そうなのよォ。***ちゃんのこと考えながら選んでたらいつのまにかこんなになっちゃってて…」

「ダ、ダリアさん…」

「海外旅行でもないのに…ふふっ、変よね。」


そう言って笑いながら、ダリアさんは楽しそうに袋からおみやげの品々を取り出してテーブルの上に置いていく。


そこに並んだのはすべて、私好みのお菓子や飾りもの、手鏡や化粧品まで。


私がこういうの好きだって、いつ話したっけ…


…………………小さなことでも、きっと覚えてくれてるんだろうな…


胸がキュッと狭くなって、私は泣き出したくなる衝動に駆られた。


…………………どうしよう。


言うの、やめようかな。


私やっぱり、ダリアさんに嫌われたくない。


…………………でも、それじゃいつまで経ってもこのまんまだし。


厳しいことを言ってまで応援してくれたロビンを裏切るようなこと、できない。


でも、だって、


…………………どうしよう。


膝の上でギュッと拳を握りながらああでもないこうでもないと考えていると、ダリアさんが思わぬことを口にした。


「フランスに行っても、***ちゃんにたくさんおみやげ買って送るわね!」

「…………………………え?」

「そうだわ、忘れないうちに住所教えて?」


思い立ったようにそう言うと、ダリアさんはバッグの中から手帳を取り出した。


「***ちゃん!ここに書いてもらっていいかし、」

「え、え?ダ、ダリアさん、…………………フランスに行かれるんですか?」

「…………………………え…?」


二人して目を丸くしながら見つめ合う光景は、さぞ滑稽だろう。


「え、ええ…」

「ご、ご旅行とかですよね?すぐ帰ってきますよね?」

「…………………いいえ、あっちに勤めることになったから、すぐには戻らないわ。」

「…………………そんな…」


とんでもない真実に、私は愕然とした。


……………そんな…


ダリアさんが、フランスに…


え、ちょ、ちょっと待って。


「ダリアさん、それってローはもちろん知ってるんですよね?」

「…………………。」

「そ、そっか、だからローの様子がおかしかったのかな…」

「***ちゃん、」

「あ、あの、じつはこのあいだ二人で出掛けたときに、」

「***ちゃん!」


私の言葉を遮って私の名を叫ぶように呼んだダリアさんのカオは、真っ青だった。


「まさかとは思うけど、もしかして、…………………なにも聞いてないの…?」

「…………………え…?」


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