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「ほら、良い天気だろう?***。」

「そ、そうですね、ペンギンさん。気持ち良いです。あ、ありがとうございま」

「そうか?なんか曇ってきてんじゃねェか、あの辺。」

「…………………***、退院したらピクニックでも行こうか。たまにはのんびり自然を楽しむのもいいだろう?」

「は、はい…!ぜひ行きたいです…!や、山登りとかしてみた」

「あァ、それはダメだな。退院しても当分運動はできねェ。……………医者が付き添えば話は別だがな。」

「…………………。」

「…………………。」


車椅子を押してくれていたペンギンさんの足がピタリと止まった。


「……………なんなんですか、キャプテン。おれは***に話してるんです。」

「それは奇遇だな、おれも***に話してる。」

「だいたいあなたは仕事中でしょう。こんなところで油売ってていいんですか。」

「あァ?仕事してんだろうが。患者の車椅子押して散歩。」

「押してるのはおれです。キャプテンはいりません。」

「おれもおまえはいらねェ。車椅子はおれが押すからおまえはとっとと帰れ。」


二人の視線が、私の真上で冷たく絡み合う。


あ、あれ。


なぜこんなことに。


『今日は天気が良いから散歩でもしよう』と、車椅子を引いてペンギンさんが病室にきてくれたのが30分ほど前。


病室を出たところで、回診が終わったらしいローに見つかり…


今に至る。


私はチラリと周りを見回した。


……………目立ってる。


もんのすごく、目立ってる。


お医者さん、患者さん、ナースさん、お見舞いにきたひとたちまで、私たち……………いや、二人を見ている。


ローはもちろんいろんなイミで目立つから見られてあたりまえなんだろうけど…


ペンギンさんもスタイルが良くてカッコいいから、やっぱり人目を引いていて。


真ん中に小さく存在しているちんちくりんな私が、なんとも可哀想…


ど、どうしよう、これ。


「とにかくキャプテンはもう仕事に戻ってください。***のことはおれにまかせて、」

「ふざけんな。おまえなんかにまかせられるか。***が孕む。」

「え。……………えぇっ!?」

「人聞きの悪いこと言わないでください。それに、それはキャプテンにだけは言われたくありません。」

「おれはそのへんうまくヤる。」

「***のまえで下品なこと言うのやめてもらえますか。」

「あっ、あの…!」


終わりが見えないやりとりに終止符を打つべく、私は思いきって声を上げた。


「な、なんかお腹が空きませんか?び、病室に戻ってペンギンさんが持ってきて下さったフルーツいただきたいです…」


そう言うと、ペンギンさんはとてもうれしそうに笑って、ローはギロリと私を睨んだ。


ご、ごめんね、ロー。


でも、なんとなくローの仕事のジャマをしてる気がしてならない…


「じゃあそろそろ戻るか、***。フルーツはおまえの好きなものばかり買ってきた。」

「ほ…!ほんとですか…!ありがとうございます…!」

「…………………。」


突き刺さるような視線を感じて、私はそろりとその方を見た。


「ロ、ローは一緒にこられないよね…?」

「……………果物なんか好きじゃねェし、そんなにヒマじゃねェ。」


ふいっと目を逸らすと、ローはペンギンさんを見た(というか睨んだ)。


「食いモンでコイツを釣るな。コイツはおれの幼なじみだ。」

「そうですね。でも***はおれの友だちです。」

「口の減らねェヤツだな。」

「キャプテンこそ。」


そうこうしていたら、遠くからナースさんがこちらに向かって走ってきた。


「トラファルガー先生、そろそろよろしいですか?」

「…………………。」


ローはそれには答えず、ギロリと私とペンギンさんを睨むと、私に一言『手懐けられんじゃねェぞ』と言って去っていった。


そしてついでにナースさんにも睨まれた。


す、すみません…


こんなちんちくりんが、素敵な男性を二人も独り占めしてすみません…


ナースさんと、突き刺さるような視線を送り続けていた皆様に心の中で謝罪すると、私は小さく溜め息をついた。


「悪いな***。疲れさせた。」

「え…?あ、ち、違います…!疲れたとかそういうんじゃなくて…!」

「…?」


私のその言葉に、ペンギンさんは大きな目をまるめて首をかしげた。


お、おぉっ…!


か、かわいい…!


イケメンってなにしても様になるからズルい。


…………………そういえば、


ペンギンさんって、お付き合いしてるひといないのかな…


聞いたことないや。


というよりは、あたりまえに『いる』と思っている。


だって、こんなにカッコ良くて、スタイルも良くて、やさしくて、紳士的で…


女性が寄ってこないはずがない。


ローみたいにクセもないし…


あ、ご、ごめんなさい、ロー。


「どうしたんだ?***…なにか考えごとか?」

「へ…?あ、いえ…!……………あの…」

「ん?どうした?」

「その……………いつも、すみません…」


私の突然のそんな謝罪に、ペンギンさんはまた目をまるくした。


「なんだ、いきなり。」

「ま、毎日お見舞いにきてくださって…お気を遣わせてしまっているので…」

「……………気なんか遣ってない。」

「で、でも…」

「***。」


ペンギンさんは、ピタリと足を止めると、車椅子の前に回りこんで膝をついた。


「***は……………おれが、キャプテンやおまえに気を遣っているから、毎日ここにきていると思っていたのか?」

「え…?」

「だとしたら……………傷付くぞ。」

「……………ペ、ペンギンさ」


ハの字に眉を寄せて、弱々しく笑ったペンギンさんが、その大きな手で私の頬に触れた。


「***……………おれは…」

「ペンギンさん…?」


なにかと葛藤しているかのように、ペンギンさんは深く俯いた。


それを見て、なぜか、胸がぎゅっとしめつけられる。


すると、ゆっくりとカオを上げたペンギンさんが、いつものようにフワリと笑った。


「おまえの身を案じてるのは、キャプテンだけじゃない。」

「……………ペ、ペンギンさ」

「シャチも、他の奴らも……………おれも。皆、おまえのことを思ってる。……………それを忘れないでくれ。」

「……………は、はい…あ、あの…私、」


私が謝ろうとしていることを悟ったのか、ペンギンさんはポンポンと頭をやさしく叩いてから立ち上がった。


また、車椅子がゆっくりと進み出す。


……………正直、


ペンギンさんが毎日きてくれるのは…


もしかしたら、ローに頼まれているのかもしれないと思っていた。


私の様子を毎日見にくるようにと。


そう言われてるのかもしれないって…


…………………私、バカだ。


本気で心配してくれていたペンギンさんに、なんて失礼なこと…


「泣きそうになったのは……………キャプテンだけじゃない。」

「え?」


ぐるぐると考えこんでいたら、ふとペンギンさんが呟くようになにかを言ったのが聞こえてきた。


「ペ、ペンギンさん、いまなにか…?」

「…………………いや?なにも。」

「……………そ、そうですか…」

「……………あァ。」

「…………………ペンギンさん、」

「ん?なんだ?」


謝るのは、なんか違う。


そう思った私は、


「ありがとうございます。」


振り返って、ペンギンさんに満面の笑みを見せた。


「……………あァ。」


そしたら、ペンギンさんもいつものように笑ってくれて。


私は、なんだかとても、暖かい気持ちになった。


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