27

「***、具合はどうかしら?」

「ロビン!」


あの奇跡の目覚めから5日目、麗しい親友がお花と一緒にひょっこりと現れた。


「ロビン、いそがしいのに毎日ありがとう。でもムリしなくていいからね?」


ロビンはあの日から毎日私を見舞ってくれた。


お仕事だけでも休む暇ないのにな、ロビン…


「あら、私が***に会いたいだけよ。迷惑だったかしら?」

「まっ…!まさかっ…!すごくうれしいよ!私もロビンに会いたいし…」


慌ててそう言うと、ロビンはうれしそうにフワリと笑ってくれた。


「これはなにかしら…?」

「あ、それはシャチくんが退屈だろうからって持ってきてくれて…」

「ふふっ…マンガ本なんて、あのコらしいわ。………あら、お花は先客がいたのね。」


花びんに挿された花束を見て、ロビンは頬を弛ませる。


「あ、うん。さっきまでペンギンさんがいてくれて…ペンギンさんも毎日きてくれるんだ。」

「あら………ふふっ…そう。」


私がそう言うと、ロビンはなぜか楽しそうに笑った。


「退院まではまだかかるのかしら?」

「うん、もう少しかかるだろうって…ローが。」

「そう…一時はどうなるかと思ったけれど……術後も良好で本当に良かったわ。」

「ほんとだよ。刺されたのがすれ違いざまの1回だけだったから、手術が終わっちゃえばあとは大したことないみたい。」


私のまえに運ばれてきたひとは何回も刺されてしまって即死だったとローに聞いた。


自分もそうなっていたかもしれないと思ったら、さすがに身体が震えてしまう。


「第一発見者の方に感謝ね。」

「え?」

「その方がちょうど通り掛かってくれたおかげで、犯人は***にとどめをささずに逃げたみたい。」

「そ、そうだったんだ…」


それを聞いて、私は最後に見た犯人の姿を思い出していた。


大きく振りかざされたその腕を見て、また刺されるんだと思ったのを覚えている。


だから、どうして刺し傷が1ヶ所だけだったんだろうってずっと思ってたんだけど…


そういうことだったんだ…


「退院したらお礼を言いにいきましょう?連絡先なら知ってるの。」

「えっ…!そ、そうなの?どうして?」

「ふふっ…ヒミツ。」


そう言って、ロビンは妖しげな表情を浮かべて笑う。


「…そ、そっか!ありがとう、ロビン!」

「ふふっ…どういたしまして。」


あいかわらずふしぎな子だ…


あまり深く聞かないでおこう…


ロビンとそんな話をしていたところで、病室のドアをノックする音がした。


「***ちゃん、おじゃましてもいいかしら?」

「ダリアさん!」


白衣を着たダリアさんがたくさんの器具と一緒に病室に訪れた。


「じゃあ私はお暇するわね。」


その様子を見てロビンが立ち上がる。


「今日もありがとう、ロビン。退院したらまたゆっくり会おうね?」

「えぇ、もちろん!」


そう笑ってから病室のドアへ向かう途中、ロビンはダリアさんをチラリと見た。


ダリアさんはというと、ロビンと目を合わせることなく、床に視線を下げている。


……………あ、あれ…?


いつもならお見舞いにきてくれるひとたちにもニコニコ笑ってくれるのに…


……………どうしたんだろう、ダリアさん…


ロビンがあんまり綺麗でびっくりしたのかな。


ロビンが出てパタリとドアが閉められると、ダリアさんはパッとカオを上げた。


「じゃあ***ちゃん、傷口見せてもらってもいいかしら?」

「あっ、はっ、はい!」


やっぱり、いつものダリアさんだ。


私は言われるまま、着ていたパジャマをペラリとめくった。


「……………うん、だいぶいいわ!もしかしたら予定よりも早く退院できるかもしれない!」

「ほ、ほんとですか?………良かった…!」


どんな理由であっても、仕事をこんなに長く休んでいるとやっぱり落ち着かないもので…


私はダリアさんのその一言に安堵した。


「そういえばずっと思ってたんですけど………どうしてここにはナースさんがこないんですか?」


私が目覚めてから5日。


点滴を代えるのも食事を運ぶのもすべてローがしてくれていた。


そういうのはナースさんがしてくれるイメージがあったから、ずっとふしぎに思っていた。


ローに聞いても「うるせェな。おれじゃ不満か。」としか言われないし…


不満なわけはもちろんないけど…


むしろうれしいんだけど…


大先生・ロー様直々にそんなことをしてもらうなんて、それこそ治療代かさみそう…


「ふふっ…」


私のその問い掛けに、ダリアさんはなにかを思い出したように笑った。


「トラファルガー先生の指示なのよ。***ちゃんの病室には、だれも近寄るなって。」

「ロ、ローが…ですか?」

「えぇ、男性のドクターには睨みまできかせちゃって………あの時のトラファルガー先生のカオ、すっごく怖かったんだから!」


そう言いながら、ダリアさんは楽しそうに笑う。


「いつもはこんなことないのよ?」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ、***ちゃんくらい安定してきたら、あとは他のドクターに引き継ぐの。他にトラファルガー先生しか対応できない重症な患者さんがたくさんいるし…」


そうなんだ…


そんなにいそがしいのに、ローは私の世話まで…


「どんなに安定してきても、きっと心配でたまらないのね。……………***ちゃんだから。」

「…………………。」


……………ど、どうしよう。


ちょっと…


いや、かなり…


……………うれしい。


「私はようやくトラファルガー先生の許可がおりたの。これからは私も一緒に診させてもらうわね?」

「あっ、はっ、はい!よろしくおねがいします…!」


私が頭を下げると、ダリアさんはニコリと笑った。


「お酒はまだ当分ダメだけど………治ったら、またご飯でも食べに行きましょうね?」

「あ、ぜひ!通り魔の犯人も逮捕されたし、病院も少し落ち着きますもんね!」

「…!……………え、えぇ…」

「それにしても驚きましたよね。私が刺されてからすぐですもんね、逮捕されたの。」

「…………………。」

「ニュースで、『犯人は心身喪失状態で自首してきた』って言ってましたけど…」

「…………………。」

「そんな繊細そうなひとには見えなかったんですけどね………っていってもあんまり覚えてはいないんですけど…ははっ…」

「…………………。」

「なにかあったんでしょうかね……………って…あ、あれ?…ダリアさん?」


ふとダリアさんに目をやると、その視線が宙に浮いている。


表情が蒼ざめているようにも見えて、私は不安を覚えた。


「だっ、大丈夫ですかダリアさんっ…!具合でもっ、」

「ち、違うのよ***ちゃん…!ごめんなさい…」


ダリアさんは慌てたようにそう言うと、ぎこちなく笑った。


「***ちゃんのカオ見たら安心しちゃって………なんだかぼぉっとしちゃったわ!」

「ダ、ダリアさ」

「ごめんなさいね、ほんとに…」


震える手で、器具をひとつひとつ片付けていく。


「…………………***ちゃん…」

「え…?」


ダリアさんはピタリと動きを止めると、私を見ずに言った。


「………………***ちゃんと……………トラファルガー先生って……………ほんとに…」

「……………え?」


……………ロー…?


「私とローが……………なんですか?」

「……………いえ、なんでもないわ…!………じゃあ私、行くわね!」


ダリアさんはあいまいに笑ってそそくさと病室をあとにした。


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