18

トボトボと歩いていると、小さな公園が目についた。


引き寄せられるようにブランコに座ると、それがギィっと音をたてる。


「出てきちゃった…」


悪いことしたな…


せっかくの、ローの誕生日パーティーだったのに…


シャチくんも、楽しんでって言ってくれたのに…


…………………でも…


一緒に並んで座っていたふたりの映像が、目に焼きついて離れない。


………とても、あそこにはいられなかった。


バッグをごそごそとあさって、今頃ローの手元にあるはずだったそれを引っ張り出す。


不恰好な白くまが、私を哀しげに見上げた。


「……………やっぱり、大の大人に…しかもお医者さんにこんなのあげられないよね…」


そうだよ。


これでよかったんだ。


今回はちょっと失敗しちゃったけど、また来年もあるし…


「………………来年…」


私、


行けるかな、来年…


……………こんな、


こんな、卑怯な私が、


いつまでも、ローと一緒にいていいのかな。


そんなことを考えていたら、視線を落としていた白くまがぐにゃりと歪んだ。


それがこぼれ落ちないように、眉に力をいれる。


嗚咽が出そうなのを我慢しているため、喉がズキズキと痛い。


泣くのは、おかしい。


勝手に逃げて、


勝手に嫉妬して。


なんの努力もしていない私が、


泣くのはおかしいよ。


「ごめんね、ベポ…」


せっかく応援してくれたのに、


頑張れなくて、ごめん。


ベポのカオを思い浮かべたら、こらえていたものが、またこぼれ落ちそうになってしまった。


それをぐっと我慢して、空を見上げた時だった。










「…なにしてる。」










思わず、身体がびくりと揺れた。


「……………おい。」


うしろを向いているため、カオは見えていない。


見えていないけど、


……………どうしよう…


……………この声っ…!!


「聞こえてんだろ、***。」


……………ローっ…!!


とっさに手にしていたぬいぐるみをバッグに詰めた。


なっ、なっ、なっ、


なんでローがここにっ…!!


ふ、振り向かないとっ…!!


答えないとっ…!!


でも、ちょっ…


ちょっとまってっ…!!


目に溜まったこれをどうしようかとぐるぐると頭を働かせているうちに、ローはすぐ傍まで迫っていて…


「!!」


うしろから顎をつかまれて、強引に上を向かされた。


その拍子に、目に溜まっていた涙がボロッと流れ落ちてしまった。


「…なに泣いてやがる。」

「……………ロー…」


少し困ったような、そのカオを見て、またじわりと涙が溢れた。


「…どうせほかの奴らのプレゼント見て、勝手に怖じけづいたんだろ。」

「…………………。」

「バカか、おまえは。」


ローは大きく溜め息をついた。


「おれがいつおまえに高価なモンよこせって言った。」

「…………………。」

「アイツらが、そんなことで笑うような奴らだと思ってんのか。」

「そっ、そんなことっ…思ってなっ…」

「だったら、勝手にいじけてんじゃねェ。」


そう言って私の顎から手を離すと、となりのブランコに座った。


長い足が少し窮屈そうだ。


「……………ご、ごめん…」

「………んなこと言ってるヒマあったら、さっさと出せ。」

「…………………へ、」

「へ、じゃねェよ。ちゃんともってきてあんだろ。」


そう言って、私のバッグを顎でしゃくる。


「……………あ、いや……………でも、これは」

「出せ。」

「ハイ。」


その迫力にまけて、おずおずとバッグに手をいれた。


一瞬出すのをためらったが、突き刺すような視線をピリピリと感じて、それをそっとバッグから出す。


「あ、あの、ほんとに大したものじゃなくて、」


ごもごもとしゃべっていたら、ローがおもむろに私の手元からそれをとりあげた。


「あっ、ちょっ、」


30分もかけたラッピングが、一瞬のうちに引き裂かれた。


そのうち、ローの動きが止まって、大きくて綺麗な手の上に白くまがちょこんと座る。


「…………………。」

「……………あ、あの……………なにがいいか、ほんとに迷って、」

「…………………。」

「……………今回、その……………お金もあんまりなくて、」

「…………………。」

「……………そ、そしたらたまたま白くま園のバスがきて、」

「…………………。」

「……………ベポの毛でぬいぐるみをつくろうっていう企画やってて……………その……………あの、」

「…………………。」

「…………………。」


…………………に、


逃げ出したい。


「……………あ、あの、それはそれで………うけとってもらえると………また、あの、あれ………ちゃんとしたやつ用意するか」

「おまえがつくったのか。」

「……………へ、」


その問い掛けに反応してローを見ると、手元のぬいぐるみをジィっと凝視していた。


「……………あ……………うん。」

「……………下手くそ。」

「う、」

「ベポのカオはこんなに不細工じゃねェ。」

「ご、ごもっとも…」


そ、


そんなにまじまじと見られると…


すごい恥ずかしいんだけど…


「ロ、ロー…やっぱり違うものあげるからそれは…」


『かえして』と続けようとして、カオを上げた瞬間、


思わず、言葉を失ってしまった。










ローが、とても穏やかな表情で、それを見つめていたから。










「……………ロー…」

「…なんだ。」


……………大切なこと、言うの忘れてた。










「…お誕生日、おめでとう。」










そう言うと、ローは口に綺麗な弧を浮かべて笑った。










ローに出会えて、ほんとによかった。










「…おまえ、日曜空けとけ。」


そう言いながら、ローはブランコから降りて立ち上がる。


「え?」

「ベポんとこ、付き合えよ。」


くるりと振り向いて、いつものように意地悪く笑う。


「この不細工なぬいぐるみ見てたら、会いたくなった。」


まァ、おまえに拒否権ねェけどな、と続けて、スタスタと歩いていく。


………………………。


…………………あれ、


……………私…


さっきまで、なんで泣いてたんだっけ。


「…なにヘラヘラ笑ってやがる。さっさと戻るぞ。」

「……………うん!」


小走りでローに追いつくと、私はその数歩うしろをスキップまじりで歩いていった。


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