16

「うーん…」


カレンダーのその日付とにらめっこしながら、私は小さくうなりごえを上げた。


10月6日。


ローの誕生日だ。


『我らがキャプテン!サプライズバースデーパーティーのお知らせ!』


そんな件名でシャチくんからメールが送られてきたのは、つい先日のこと。


毎年恒例のローのバースデーパーティー。


シャチくんやペンギンさんの主催で行われるそれには、何百人というひとたちが一堂に会する。


そして、今年もその日がやってくるわけなんだけど…


「どうしよう…」


………困ってます。


ほんとに。


なにがって、それはもちろん…


「プレゼントどうしよう…」


そう。


毎年必ず頭を悩ませるのが、ローへの誕生日プレゼント。


今回もさりげなく調査してみたけれど、結局ローのほしいものはわからずじまいだった。


それに、今回は困ったことがもうひとつ。


ジィと、財布の中身をのぞく。


どんなに見つめても、あたりまえのことながら中身がかわることはない。


「どうしよう…」


考えててもなにも始まらない。


そう思いたった私は、ローへの誕生日プレゼントを求めに出掛けることにした。


―…‥


「疲れたっ!」


ドカっと近くのベンチになだれこむと、私は大きく溜め息をついた。


信じられない…


6時間も歩き回ったのにきまらないなんて…


あまり高いものは買えないし、せめてほかのひとがあげないようなものをあげたいなと思ったんだけど…


あーでもないこーでもないと考えていたらなんかもうますますわからなくなってしまい…


いまに至る。


「どうしよう…」


ほんとにどうしよう。


このままじゃまさかの手ぶら…


…………………ん?


深く項垂れていると、一台のバスが止まったのが目の端に写る。


なんとなくそれに視線を向けると、その行き先は…


「……………あ。」


考えるより早く、私はそのバスに乗りこんだ。


―…‥


バスを降りると、懐かしい獣の匂いがした。


『ハートの白くま園』


相変わらずのかわいらしい看板に、思わず笑みが溢れる。


「ローと最近きてないなー…」


恐ろしいことに、ローはここの常連さんだ。


ニコリともせず、ジィっと白くまを見つめているあの姿は、なんとも言えず………その………怖い。


ローがなぜここに通いつめるかというと…


「……………あっ!!ベポ!!」


その姿を見つけて走り寄ると、ベポも大きな身体を揺らしながら突進してきた。


「ベポーっ!!久しぶりだねっ!!」


檻に手をいれて頭をなでてやると、ベポはキモチよさそうに目をウットリと閉じた。


「ごめんね、今日は私ひとりなんだ。ローはいないの。」


そう言うと、うっすら目をあけて少しだけ哀しげに眉を寄せた。


ローいわく、ベポはひとの言っていることがわかるらしい。


「ベポー…ローの誕生日プレゼント、なにがいいかな…」


ボソッとそう呟くと、ベポは少し考えこむようなカオをした。


あなたほんとに白くまですか。


ベポはなにかを思い立ったように閃いたカオをすると、あるところに視線を移す。


その先を辿ると…


「『ベポの毛100%!オリジナルぬいぐるみをつくろう!』…?」


ベポを見ると、心なしか誇らしげなカオをしている。


どうやら、冬に向けてベポの毛が衣替えをしたらしく、抜けたベポの毛を利用してぬいぐるみをつくろうという企画らしい。


ローにぬいぐるみ…


あまりにもアンバランスすぎてだれも思いつかないかも…


ローはいそがしくてなかなかベポに会いにこられないだろうし…


…………うん、いいかもっ…!


「ベポっ!!ありがとうっ!!」


ベポはコクリとうなずいて、ニッコリと笑った(ように見えた)。


……………ロー、よろこんでくれるといいな。


歩き疲れていたのがうそのように、私はぬいぐるみづくりに全力をつくした。


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