13

「ダリアさん、こちらシャチくんです。シャチくん、こちらが………シャチくん、よだれふこうか。」

「あ、いけね。」


ダリアさんに見とれてほうけてたシャチくんにそう言うと、シャチくんは口元をぐいっとぬぐった。


「ふふふっ…シャチくん、ね。おもしろい子。よろしくね。」

「はっ、はいっ!よろしくおねがいしますっ!」


そう言いながら元気よく頭を下げる。


「ダリアさん、今日はありがとうございます。お疲れのところ…」

「ふふっ…いいのよ、***ちゃんの頼みなら。」


そう言ってふわりと笑う。


………あいかわらずお美しい。


「シャチくんがトラファルガー先生のお友達ってほんと?」

「はいっ!ほんとですっ!トラファルガー先生のお友達です!」


………………………。


シャチくん、緊張しすぎ…


お辞儀直角だし…


「キャプテンがいつもお世話になってますっ!」

「キャプテン?」

「あ、ローのことです。なぜかローのお友達は、みんなローのことそう呼ぶんです。」


そう答えると、ダリアさんはまた綺麗に笑った。


「おもしろい!トラファルガー先生ってほんと不思議!………ねぇ、どうしてあなたそんなふうに呼ばれてるの?」

「…………………へ?」


…………………あ、


……………あなた?


よく見ると、ダリアさんの視線が、私とシャチくんのうしろにいっている。


…………………ま、


……………まさかっ…!!


シャチくんもおなじことを思ったのか、二人で一緒にそぉっと振り向くと…


「キャっ…!!キャプテンっ…!!」

「!!」


そこには、このうえなく不機嫌なカオをしたローがいた。


シャチくんはびっくりしすぎて、椅子から転げ落ちている。


私に至っては声もでていない。


「キャっ…!!キャプテンっ…!!なっ…!!なんでここにっ…!!」

「知るか、呼び出されたんだよ。………なにが重症人がいるだ、てめェ。」


そう言って、ダリアさんをぎろりと睨みつける。


だがダリアさんはまったく意に介さずニコニコと笑っていた。


……………あいかわらず強い。


「あら、いるわよ。重症人。」

「どこにだよ。」

「あなたよ。」

「…あァ?」


ダリアさんのその答えに、ローは眉を思いきりしかめた。


「だから治せるお医者さんに会わせなきゃと思って。………ねっ!***ちゃん!」

「…は、はい?」


ダリアさんがそう言うと、ローは鋭い視線で私を見る。


………………こわい。


こわすぎる。


「ふざけたことぬかしてんじゃねェ。………帰るぞ。」

「そんなこと言わずにっ!ここ座って!ほらほら!」


そう言ってぐいぐいとローの腕を引っ張ると、ムリヤリ席に座らせた。


ダっ、ダリアさん殺されちゃうよっ!


ローが暴れだすんではないかとハラハラしながら見守ったが、ローにそんな素振りはない。


ため息をつきながら、そのまま席につく。


「ふふふっ…ほんとに素直じゃないんだから。」

「なにがだ。」

「***ちゃんに会いたくてしかたなかったくせに。」


ダリアさんのそのセリフに、ちょうどよくお酒を口にふくんでいた私は思いきりむせてしまった。


「……………馬鹿か、おまえ。誰がこんなガキくせェ聞きわけのねェ女。」

「…………………。」


……………根にもってる。


このまえのこと、まだ根にもってるんですね…


「あら、そんなこと言って。***ちゃん、トラファルガー先生ったらここ最近ずっと機嫌が悪いのよ。」

「そ、そうなんですか…」


ちらりとシャチくんを見ると、ほらみろと言わんばかりに大きくうなずいた。


「患者さんからも苦情がきてて、処理に追われるこっちの身にもなってほしいわ。」

「……………知るか、んなこと。」


そ、そんなことが…


すみません、病院の皆さん…


どうやら私のせいです…


「………んなことより、」


そう言ってぎろりと私とシャチくんにその視線を突き刺す。


…………………き、きた。


「……………なんでおまえらが一緒にいる。」

「……………あ、いや、これは、その、」


予想どおりのそのローの言葉に、私は思わず口ごもってしまった。


「ちっ!!違うんですキャプテンっ!!おれが会いたかったのはあくまでもダリアさんでっ!!けして***に会いたかったわけじゃなくっ!!」


そう叫びながら必死に首を振るシャチくん。


ち、ちょっとシャチくん…


ナイスフォローといいたいところだけど…


私ちょっと切ない。


「ペンギンにあきたらずシャチにまでシッポ振りやがって…」


そう吐き捨てるように言って、私を睨みつける。


「べっ、べつに私がどこでなにしてようがローには関係ない…」

「あァ?」

「あ、うそです。ごめんなさい。」


命の危険を感じて、即座に謝罪する。


すると、


「ふふふっ…!ようやく仲直りね!よかった!」

「…へ?」


そう言って、ダリアさんはうれしそうに笑った。


「もしかしてダリアさんっ…!キャプテンと***を仲直りさせるためにっ…!」


シャチくんが感激したように涙目で言うと、ダリアさんは困ったように笑った。


「だってシャチくん!ほんとに大変だったのよ!シャチくんもトラファルガー先生と付き合いが長いからわかるでしょう?」

「わかりますっ…!痛いほどっ…!」


そう賛同して勢いよく首を上下に振る。


「じゃあ苦労がわかるもの同士、今日は楽しみましょうね!」

「はいっ!」


そう言ってふたりはカチンっとグラスを合わせた。


どうやらもう仲良くなったらしい。


盛り上がるふたりをよそに、ローはグラスに口をつけた。


その様子をチラリと盗み見る。


…………………ローだ。


久しぶりのローだ。


……………うぅ、


あいかわらず、カッコいい…


久しぶりのローの姿に、いまさらながら胸がドキドキと高鳴る。


思わず目をそらせずにいると、ふいにローと目が合った。


「…なんだよ。」

「な、なんでもないよ…」

「…………………。」


あいかわらず不機嫌そうなカオだけど…


きっともう怒ってはいない。


わかりにくいひとだけど、付き合いが長いだけあって微妙な違いでもよくわかる。


……………よかった、仲直りできて。


ダリアさんに感謝だ。


……………ほんとにいいひとだな、ダリアさん。


ローとダリアさんを一緒に視界にいれる。


……………お似合いだ。


まさに美男美女。


おまけにふたりともお医者さんなんて、誰もがうらやむカップルそのものだ。


それに、ダリアさんは見た目だけじゃなく、性格もいい。


見た目の美しさと比例している。


……………こんなに素敵なひとなのに、


それでもローは好きにならないのかな。


惹かれてはいるよね、きっと。


それとも、もう…


そこまで考えたところで、ズキンと胸が悲鳴をあげた。


それを振りきるように、私はグイっとお酒を流しこんだ。


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