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「へっくしょんっ…」


汚れひとつない天井をぼんやりと見つめながら、私は小さくくしゃみをした。


「***?大丈夫?」

「あ、ロビン…」


それを聞きつけたのか、ロビンがキッチンからカオを出してくれる。


綺麗な薄紫のエプロンが、ビックリするくらいに似合っていてビックリした。


「うん、大丈夫だよ。げほっ、ごめんね。泊めてもらったのに熱まで出しちゃって…」

「ふふっ、そんなこといいのよ。お粥、もう少しでできるわ。お薬も買ってきたから。」

「ううっ、何から何までほんとにごめんね…」

「ふふっ、それ以上謝ったりしたら***もお粥と一緒に煮詰めてしまうわよ?」

「……………あ、はは、ご、ごめ、いやっ、ありがとう…」


カオをひきつらせながらそう言うと、ロビンは満足げに微笑んでキッチンへと戻っていった。


こ、怖かった。


ほっと小さく息をつくと、私は再び天井を見上げた。


あれからロビンは、泣き続けていた私を、ずっとだきしめてくれていた。


いつのまにか眠っていたと思ったら、目が覚めた途端、身体が動かないくらいにダルくなってしまい…


こんな情けない現状となってしまった。


けほけほと小さく咳をしながら、私はゆっくり目を閉じた。


『おれは、…おまえのことを、そんなふうにみたことはねェ。』


……………フラれちゃった。


なくなっちゃった、なにもかも。


あんなに長いあいだ、大切にしてきた想いだったのに。


結局私は、ローも、ローへの恋心の行き先も、なにもかも失ってしまった。


これはきっと、今まで嘘を吐き続けてきた私への罰なのかもしれない。


「っ、」


瞑った目の中で、また涙が溢れ出してきた。


私は、なんて弱いんだろう。


こんなことで、すぐに心が壊れてしまいそうになって。


いつだって私は、だれかに頼らないと生きていけない。


刺されたときも、空き巣のときも、ペンギンさんやシャチくん、ロビン、


それに、ロー。


みんなに助けてもらえないと、頑張れなくて。


こんなに弱い私を、


ローみたいな強い人が、好きになんてなるわけないのに。


「…***?」

「…!」


突然、カオの上からロビンの声が聞こえてきて、私はハッと目を開けた。


その拍子に涙がボロッと溢れて、慌ててそれを拭う。


「あ、ははっ…」

「…………………。」

「……………ごめん。」

「…お粥、できたわ。起き上がれる?」


優しく目を細めて、ロビンは私の手をそっと引いてくれた。


「わー…おいしそう!」

「口に合うといいけれど、どうかしら。」


困ったように笑うロビンに、私は大きく首を横に振った。


ロビンの作る料理が不味かったことなんてない。


それを証明するかのように、お茶碗からはダシの効いてるおいしそうな匂いが立ち上っていた。


いただきます!と、ほんとに病人なのかと思うくらいに元気よく手を合わせると、れんげに乗せたお粥をはふはふと口に運んだ。


「…!おっ、おいしい…!」

「そう?ならよかったわ。」


パクパクと休むことなくお粥を平らげていく私を見て、ロビンはうれしそうに微笑んだ。


「おかわり、あるわよ。」

「ほんとっ?食べる!ごほっ、」

「ほらほら、落ち着いて食べなさい。」

「……………ねェ、ロビン?」

「なにかしら。」


優雅に頬杖をつきながら、ロビンは小さく首を傾げた。


「私、……………間違ってなかったよね?」

「…………………。」

「これで、……………よかったんだよね…?」


ほわほわと漂っている湯気に向かってそう呟くと、ロビンはクスリと笑った。


「***は、言わなければよかったと思っているの?」

「…………………。」


その質問に、私はゆっくりと首を横に振った。


「…あー、スッキリした!」

「…………………。」

「それにしても、あははっ、あんなに唖然としたロー、初めて見たよ。」

「…………………。」

「口なんて呆けちゃってさ!」

「…それはおもしろそうね。」

「あ、写真撮ればよかったね!…ロビン、おかわり!」

「ふふっ、はいはい。」


私からお茶碗を受け取って、ロビンは立ち上がった。


「ロビン…!」

「?」


目を丸くして振り向いたロビンに、私は満面の笑みで言った。


「…ありがとう。」

「…………………。」

「ロビンがいてくれて、ほんとによかった。」


そう告げると、ロビンもまるで、子どもみたいに笑ってくれた。


ねェ、ロー。


ローのいない未来を思うと、正直まだとても怖いけど。


でも、私は一人じゃないから。


みんなを守れるように、私もきっと、ローみたいに強くなるよ。











ダリアさんから連絡があったのは、それから数日後のことだった。


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