04
『今日家来い』
……きょうけらい?
あ、いえこい、か。
昼食のサンドイッチをくわえようと、口を開けた瞬間にメールを受信した。
お腹空いた。サンドイッチ食べてから返――。
……だめだ。この前一分以内に返せって言われてた……!
サンドイッチを慌てて袋に戻して、スマートフォンを手にする。
『何時頃行けばいい?』
よかった。四十秒くらいだったと思う。
安心して、サンドイッチを袋から出す。
いーただーきま
ブブブっ。
返信早っ!
力いっぱい突っ込んでしまった。もちろん、心の中で。
お医者さんって暇なのか。
『終わったらさっさと来い』
『いいけどロー家にいるの?』
『いなかったら待ってろ』
『じゃあローが家に着いたら向かいます』
『俺を待たせる気か ふざけるな お前が待ってろ』
『でも私外で待つんだよ。怖いよ。襲われたらどうするの』
『自分の色気のなさ分かってないのか 無駄な心配すんな』
『じゃあ行かない』
……。
……。
『分かりました。待ってます。ごめんなさい』
『分かればいい』
負けた。勝てるとは思ってなかったけど。不毛な戦いを挑んでしまった。
結局、サンドイッチは食べられなかった。
*
ピンポーン。
軽快な音が響く。珍しく定時で上がれたため、少し早く着いてしまった。
まだいないかもな……。どこか座れそうなところを探そう。
そう思って、引き返そうとした時だった。
『……入れ』
鳴らしたインターフォンから、不機嫌な声が聞こえた。
聞こえもしないだろうが、思わず「はい」と返事をした。
ロビーの自動ドアが開く。いつ来てもすごいマンションだ。私なんて安アパートなのに。
掃除の行き届いている綺麗な床を、遠慮がちに歩いていった。
*
「おれを待たせるなんて、いい度胸だな」
「こ、これでもいつもより早かったんだけど」
「でもおれより遅ェじゃねェか。おれに合わせて仕事終わらせろよ」
「そ、そんな殺生な」
とりあえずいつものやりとりを一通り終わらせて、部屋に入った。
相変わらず殺風景な部屋だ。生活感がまるでない。
その中で壁一面に置かれた大きな本棚と、それを埋め尽くすたくさんの洋書が異彩を放っている。
「***、こっち来い」
本棚に気をとられていると、ふと声を掛けられた。
声のした部屋へ入って、思わず絶句した。
「な……なにこれ」
「本」
見れば分かる。バカにするにも程がある。
私が言ってるのは、その光景のことだ。
ぽつんと置かれたソファの周りに、大量の本が無造作に置かれていた。
「いちいち片付けに行くのが面倒でな。気付いたらこうなってた」
「き、気付いたらって……そんなレベルの量じゃないよね。ここまでなったら嫌でも気付くよね。見て見ぬふりしたんでしょ。そうなんでしょ」
……嫌な予感がする。
まさか私を呼んだのって……!
「ロ、ロー。私そういえば今日急用が」
「そうか。この前のCDは気に入らなかったか。じゃあ他のやつに高値で売りつけるとしよう」
「ありがたく片付けさせて頂きます」
深々と頭を下げると、ローは満足そうに口の端を上げた。
そのカオを見て、私は深い深いため息をついた。[ 4/70 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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