---機種 Law---

「………………。」

「………………。」

「………………。」

「………う、ん………ロー…?」

「……………やっと起きたか。」

「……………ロー、……………今何時…?」

「8時。」

「8時!?」


その答えに、ガバっと勢いよく起き上がった。


ちっ、ちっ、ちっ、遅刻!!


「ひどいよロー!!なんで起こしてくれなかったの!!」

「スヌーズ設定してなかったおまえが悪い。」


こっ、このやろうっ…


悠然と本を読むローを一睨みして、バタバタと部屋中を走り回る。


「メールきてたぞ。」

「あ、読んでっ!」

「ない。」

「……………は?」

「消した。」

「なっ、なんで!?」

「送信者が男だった。内容もウザかった。」

「ちょ、ちょ、ちょっ!!誰から!?なんて!?」

「知らねェ、忘れた。」


ローはしらっと言い放った。


「もうっ!!なんでそういうことばっかりするの!!」

「てめェが浮わついていやがるからだろうが。あんなちょっと背が高ェだけの男に言い寄られたからっていい気になりやがって。」

「べ、別にいい気になってなんか…」


言い寄ってきた、背が高い…


たぶんあの人だ。


仕方ない。


ローがいないときにでもなんとかして連絡を…


「おい。」

「なっ、なに?」

「おれに隠れて会おうなんざ考えるなよ。そんなことしてもムダだからな。」

「………………。」


一見束縛がひどい恋人にみえます「これ」は、機種 トラファルガー・ロー。


私の携帯電話です。


細身でスタイリッシュ、おまけに高性能ということでコイツを選んだが最後。


口は悪い、性格も悪い、束縛がひどいの三重苦だった。


「メールもう一件きてるぞ。」

「だれ?」

「例の女。」

「……………ああ。」


またか。


最近入社した新入社員にローを会わせたところ、えらくローを気に入ってしまい、自分のものと交換してほしいと言われているのだ。


「なんて返す。」


ローは口の端を上げながら、私の反応を楽しんでいる。


「……………別にいいよ、どっちでも。ローが決めたら?」

「……………そうだな。おまえなんかよりイイ体つきしてたし、悪くねェな。」

「……………エロケータイ。」

「なんだ、嫉妬か。」

「ちがいます。」


ローはなぜか女性にモテる。


前の持ち主もすべて女性だったそうな。


ローいわく、持ち主に飽きたら何も言わずに自分から去っていくらしい。(つまり勝手に解約している。)


どんな携帯。


「そろそろ私にも飽きたでしょうから、お好きにどうぞ。」


素直に行かないでと言えない私は、ほんとにかわいくない。


いつローに捨てられてしまうのかと、ほんとは毎日びくびくしているくせに。


「……………かわいくねェ女。」

「………………。」

「でもまァ…」

「?」

「もうしばらくここにいてやってもいいぜ。」

「……………なんでそんな上からなの。」


緩む頬を見られないように、ローに背を向けた。


「あーあ、やっと横暴な携帯から解放されると思ったのになー。」

「………………。」

「せっかくかわいい新機種のモンキー・D・ルフィにしようと思ってたのになー。ざんね、」

「おい。」

「え?」


低い声がして振り返ると、ローがいつのまにかすぐ後ろに立っていた。


「なっ、なっ、なにっ、カオこわっ、」

「おれから逃げられると思うなよ。逃げようもんなら首輪付けて一生柱にでもつないでやるからな。」


永久契約決定です。


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