注意!突然、噛みつきます---機種 Penguin---

「おはよう、***。」

「うー…ん…」

「そろそろ起きないか?」

「やだー…あと10分だけスヌーズして…」

「そうか、わかった。あと10分だな。」


10分後―…‥


「***、おはよう。」

「うー…」

「そろそろ起きような。」

「あと5分…」

「…あと5分な。」


5分後―…‥・


「おはよう、***。」

「うー…もう5分たった?」

「たった。そろそろ起きないと朝飯が食えなくなるぞ。」

「……………それはやだ。」

「ふっ…じゃあ起きよう。」


そう笑いながら、布団の中でうだうだとしている私を横目に、いそいそとキッチンに向かう。


どうやらお弁当をつくってくれているらしい。


一見、おかんのように見えます「これ」は、機種ペンギン(性別、男)。


私の携帯電話です。


『お母さんみたいにいろいろしてくれる、やさしい機種なんですよ。』


その店員さんの言葉に、なんのこっちゃと最初は思ったものだが…


いまとなってはその言葉に深くうなづくことができる。


家事を手伝ってくれるのはあたりまえ。


ゴミ出しに食料品の買い物、はたまたお風呂上がりのマッサージまで…


あげたらキリがない。


おまけにスタイルもいいし、カオもカッコいいし…


不満なんて、探しても見当たらない。


唯一、困ったことがあるとすれば…


「***…これは?」


そう言って、ペンギンは床に転がっていたスカートを手にした。


「ん?…ああ、それ今日着ていくの。」

「……………これを?」


そう言うと、ペンギンはこれでもかというほど眉をしかめる。


「…ずいぶん短いな。」

「え?そ、そうかな?」


つい先日、友だちにもう履かないからと、何の気なしにもらってきたスカート。


言われてみれば、たしかにいつも履いてるものよりは短い。


「でもかわいいでしょ?」

「…………………。」

「今日は飲み会だし、少しくらいかわいらしいの着てもいいかなって。」

「…………………。」


そう答えると、ペンギンはまたジッとスカートを見つめた。


「……………男もくるんだろう?」

「ん?うん、くるよ。」

「…そうか。」


そう呟くように答えると、ペンギンはおもむろにクローゼットを漁った。


「ペ、ペンギン?なにして、」

「これはどうだ?***。」


そう言ってペンギンが取り出したのは、スカートはスカートだが、結構なロング丈。


「ええ…やだよー…今日は暖かいし…」

「夜は冷えるだろう?それにこれだってスカートだ。かわいいぞ。」

「…………………。」


……………困ったな。


その感情を素直に表情に表すと、ペンギンはゆっくりと口を開いた。


「男の前で、しかも酒の席で、こんなに足を出したら、今夜持ち帰ってくださいと言ってるようなもんだ。」

「そ、そんな大げさな…だれもそんなこと思わないよ…」

「いいや、思う。」


キッパリと言い放ったペンギンに、私は少し怯みながらも反論した。


「わ、私は大丈夫だよ。」

「たしかにおまえがホイホイ男に着いていくような女だとは思ってない。だが、」

「いや、そうじゃなくて…今日くる女の子、皆かわいいから。」

「?……………だからなんだ?」


私のその返答に、ペンギンは眉を寄せて首をかしげた。


そんなペンギンを横目に、私は出掛ける準備をしながら話し続ける。


「かわいい子がたくさんいるなかで、わざわざ私を持ち帰ろうなんて思うひと、いないでしょ?」

「…………………。」

「だから、私がどんな格好してようが、ぜーんぜん問題な、」

「おまえはかわいい。」


ペンギンの思わぬその言葉に、動かしていた手がピタリと止まる。


「……………は?」

「おまえはかわいい。」

「!!…なっ、なに言って、」

「そうだな…おれが一番好きなのは飯を食ってるときのうれしそうなカオだな。」

「ちょっ、ペンっ、」

「あと、テレビを観ながら大口開けて笑ってるところも捨てがたい。」

「まっ、ちょっ、まっ、」

「あァ、やっぱりよだれ垂らしながら眠ってるときがいちば、」

「もっ、もういいから…!」


なっ、なっ、なっ、


なに言い出すのこのひと!


……………あ、いや、携帯。


「現におれのデータフォルダにはおまえの画像がたくさんある。」

「ええ!?…あっ!まさかあのロック掛かってるフォルダ!?」


なんか見覚えのないフォルダだと思ったら!


「本体はおれだからな。容易いことだ。」

「ちょっ、勝手に、」

「とにかく。」


私の言葉をさえぎって、ペンギンはキッパリと言う。


「あんな短いスカートはダメだ。」

「…………………。」


…………………やっぱり、この感じ。


「もう…わかったよ。」

「よし、いい子だ。」


渋々そう言うと、ペンギンはふわりと笑って私の頭をなでた。


「ほんと、お母さんみたい。」

「『お母さん』?」

「ペンギンのこと!面倒見よくてやさしくて、」

「…………………。」

「たまーに口うるさいとことかもう、」

「***。」

「へ?……………わっ!!」


突然、ぐるんとひっくり返る視界。


落ち着いてからそっと目を開けると、見えてきたのはペンギンの真面目なカオと天井。


え…


えっ…!


ええっ…!?


「ペっ…!!ペンギっ、」

「『お母さん』とは…見くびられたもんだな。…言っておくが、***、」


そこで言葉を切ると、ペンギンは私の着ているパジャマのボタンに手を掛ける。


ドクドクドクと、狂ったように加速していく身体中の脈。


「おれは、こんなくたびれたパジャマ姿のおまえにも欲情する。」

「…!!」


思いもよらないその言葉と、見たことのない欲を含んだ瞳に、汗がぶわっと噴き出した。


「もう少し警戒心を持て。…わかったな?」


私は言葉にならないまま、コクコクと必死で首を上下に振った。


「よし。」


そう言っていつものように笑うと、ペンギンは私の上から退けて立ち上がった。


「…………………。」


…………………なに…


なにっ、いまのっ…!!


なにドキドキしてんの私…!!


「***ー、早く着替えるんだぞ。」


キッチンから呑気に叫ぶペンギンの声。


「…………………はい…」


そう小さな声で答えながら、私はのそのそと着替えていく。


ペンギンの選んだスカートを履くと、トクトクと胸が小さく音を立て始めた。


注意!突然、みつきます


ねぇ、私の写真っていったい何枚くらい撮ってたの?


そうだな、いまのところ…………………6758枚だ。


………………………。(ストーカー?)


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