どうか、君の愛を---Happy Merry Christmas!2012--- -1
「あっ、エース見て見て!あのトナカイかわいい!」
テレビに映っている青っ鼻のトナカイを見て、***は子どものようにはしゃいだ。
***のそんな楽しそうなカオを見て、エースの頬も自然と緩む。
「このトナカイ、ルフィも好きでいっつも会いに行ってるんだ。」
「そうなんだ!いいなー…」
「……………来月の連休にでも一緒に行くか?」
「!……………う、うん!行きたい!」
「お、おう!んじゃ予定立てとくな!」
「うん、ありがとう!」
よかった…!!
これでまた会う約束ができたな…
うれしそうにそう答えた***に、エースは内心、ホッと息をついた。
***がアメリカから戻って2ヵ月。
エースと***は、いまだ同僚以上、恋人未満という関係に納まっていた。
なぜかというと…
「まだ返事もらってねェんだよなー…」
「ん?なにか言った?エース。」
「いっ、いやっ、なんでもねェ!!」
「?」
***は不思議そうに首を傾げながらも、再びテレビ画面に視線を戻した。
そう。
あの日の、エースの告白に対する、***の気持ちをまだ聞いていない。
問いただしてもいいのだが、『***が許すまでいくらでも待つ』と言った手前、それもためらわれる。
そんなこんなで『ちょっと仲の良い同僚』から抜け出せず、エースは日々悶々としていた。
どうしたもんか…
正直、……………そろそろ我慢もきかなくなってきている。
***と離れてる2年間、そして、この2ヵ月、***はおろか、他の女ともセックスしていない。
***のいない2年間に至っては、別に恋人がいるわけじゃないし、惚れてはいても***とは別れていたのだから、しても問題はなかったのだが…
好みの女に誘惑されて、キスやその少し先まで進んでも、なんとなく寂しいような空しいような気持ちにしかならなくて、自然とその行為から遠ざかっていった。
ましてやこの2ヵ月は、***のことでますます頭がいっぱいになって、しかも***を振り向かせたいとやっきになっていたから、女を抱きたいなんて微塵にも思わなかった。
……………けど、
惚れた女が目の前にいれば、それはまた別の話で…
エースは、***に気付かれないように小さく溜め息をついた。
***の気持ちが、まるでわからない。
デートも何回かしてるし、家に呼べばこうして来てくれる。
おまけに、今日はクリスマスだ。
エースが決死の覚悟で言った『お、おれの家でパーティーでもしねェか?……………二人で!』という誘いにも、***は『うん、いいよ!』というそれはそれはあっさりとした答えだった。
それなのに。
それなのに、だ。
あの告白に対しては、2ヵ月経った今でもお預けをくらっている。
「どうしたもんか…」
「なにが?あ、ケーキ?もう食べちゃう?」
平和にへらっと笑った***に、エースは密かに小さく項垂れた。
「エース?ケーキ食べる?」
「……………食う。」
「じゃあ切ってくるね!」
そう言って***は元気よく立ち上がって、キッチンへと向かった。
冷蔵庫からケーキを取り出して、うれしそうにそれを切り分ける***。
くそ…
かわいいなァ、もう。
やっぱり、
……………好きだなァ。
早く、またおれのもんにしたい。
モタモタしてたら、だれかにかっさらわれるかもしれねェ。
それだけはぜったいダメだ。
***が他の男と、なんて、
ちょっと考えただけで、息ができなくなる。
…………………でも、
おれは***を、ずっとこんな気持ちにさせてたんだよな…
やっぱり、そんなおれが***に答えを迫るのは、まちがってるのかもしれない。
いやでも、ここで遠慮して、いつのまにか***が他の男に惚れちまって、
けっ、……………結婚なんてことになったら…!!
「どうしたの?エース。」
一人ああでもないこうでもないと悶絶していたら、ケーキを切り終わった***がいつのまにか戻ってきていた。
「あ、い、いや、なんでもねェ。……………おお!うまそうだな!」
「でしょ?ほら!エースが好きなあそこのケーキ屋さん!あそこで買ってきたんだよ!」
「!…わざわざあそこまで買いに行ってくれたのか?遠かっただろ?」
「あ、で、でも、……………エースが喜んでくれるかなって思って…」
そう言って、照れたように笑う***。
あ、まずい。
今の、相当きた。
もう正直、ケーキより***を食いたい。
「いただきまーす!」
「…………………。」
「おいしいね、エース!」
「…………………。」
「……………エース?どうしたの?食べないの?」
「***、」
そう***を呼び掛けると、エースは姿勢を正して***の方へ身体を向ける。
心臓の音が、うるさい。
「あ、あのさ、」
「う、うん、」
「……………その、」
「…………………。」
「っ、……………***!おれっ、」
ピリリリリリ…
思いきって気持ちを聞き出そうとしたエースの決意は、その着信音にじゃまされた。
「あ、……………ち、ちょっとだけごめんね、エース。」
「お、おう…」
そのエースの答えを聞くと、***は携帯を手にリビングを出た。
「…………………。」
んだよ!!
だれだよ、こんなときに!!
ぐったりと項垂れた後、エースはパクパクとケーキを頬張る。
あ、うめェ。
***が買ってきてくれたケーキを見つめながら、エースは考える。
……………やっぱり、もう少し待ってみよう。
今のところ、他の誰よりも、おれが一番***に近い距離にいる。(というか、他の男を***に近寄らせないようにしている。)
あんだけ傷付けたんだ。
その傷が癒えるのも、おれの信用が戻るのも、きっとまだまだ時間がかかる。
今は、***がおれにそうしてくれたように、***の気持ちを一番に考えてやりたい。
……………よし、よく言ったぞ、おれ。
そう一人で自己完結していると、***が電話を終えて戻ってきた。
「ごめんね、エース。食べてる最中に…」
「いや、かまわねェよ。」
エースのその返答に、***は安堵したようにふわりと微笑んだ。
「だれだったんだ?」
「アメリカにいたときにお世話になった人だよ。日本に帰ってきてからもよくあっちから連絡くれるんだ。」
その***の言葉に、ピクリ、エースの身体が揺れる。
「へ、へェ……………お、……………男か?」
「ん?うん、ボブっていう人。」
「!!」
やっぱり…!!
忘れもしない。
『ボブ』。
アメリカからボニー宛に送られてくる***の写真(見せてもらうときはボニーにピザ10枚を献上)に写っていた男。
必ず***のとなりをキープし、***の腰辺りにいやらしく手を添えて写っていたその男は、まちがいなく***に惚れてる。
じゃなきゃ、アメリカからわざわざ連絡寄越したりしない。
……………ま、まさか…
付き合ってたり、……………しねェよな…
だらだらと冷や汗をかきながら、エースは***を盗み見た。
***はというと、未だテレビの中の青っ鼻トナカイに夢中だ。
っていうかおまえ、おれとの話が途中だったの忘れてんだろ。
青っ鼻に敗けた現実にうちひしがれながらも、エースは一つ咳払いをすると、***に声を掛けた。
「……………あ、あのさ、***、」
「ん?あっ、ごめん!そういえば話途中だったね。」
「いや、ひとまずそれはいいんだ。そうじゃなくて、」
「?」
「あっ、いやっ、そのっ、ほらっ、わっ、わざわざアメリカから連絡してくるなんて、よっぽどの用件だったのかって気になってよ!」
「え?」
「いやっ…!!変な意味じゃねェぞ!?べっ、別に勘繰ってるとかいうんじゃなくて…!!」
「ああ、もしかして会社のことだとおもった?大丈夫だよ!私の用件だから。」
「…………………。」
いや、それが気になってんだけど。
「そ、……………そうか!ならよかった!てっきりアメリカ支社でなんかあったのかと思ってよ!」
「ふふっ、エースは本当にうちの会社が好きだね。会社っていうかオヤジさんか。」
「あ、あァ、まァ…」
「心配しないで、お正月休みのことだから。」
「し、正月休み?」
***のその言葉に、エースは目をまるくする。
「うん、ほら!冬期休暇中にアメリカ旅行に行くって言ってたでしょ?」
「………………へ?」
な、なんだよそれ…
そんなこと、聞いてねェぞ…!!
「え、あ、あれ?言ってなかったっけ?」
呆けたカオをしたエースを見て、***は慌てたようにそう言った。
「き、……………聞いてねェ。」
「うそ!ごっ、ごめん!すっかり言ったつもりでいた!」
「…………………。」
「ご、ごめんね?エース…」
「……………いや、いいんだ。」
***が謝ることじゃない。
冬期休暇をどこでだれと過ごすかなんて、おれに伝える義務はねェんだから。
だって、おれたちはただの同僚だ。
そのことを改めて実感して、エースの胸はズキズキと悲鳴を上げる。
「あ、……………ホっ、ホテルとかよくとれたな!正月なんて混むだろ?」
気を取り直してそう聞いたエースの心は、***の答えによってどん底まで沈むこととなる。
「ああ、ホテルじゃなくて、ボブのところに泊まるの!」
「…………………………は?」
「だから大丈夫だったんだ!」
そう嬉しそうに笑って答える***。
いやいやいやいや…!!
全っ然大丈夫じゃねェ!!
「あっ、あっちにいるあいだずっとか?」
「うん、行ったことないところもいろいろ案内してくれるって!」
楽しみだなァ、と、遠い目をして***はアメリカ旅行に思いを馳せている。
……………そ、そんな…
男と女がひとつ屋根の下で過ごして、何もないわけがない。
ましてや、ボブは***に惚れている。
おれがボブだったら、このチャンスを逃す手はない。
***だって、恋人でもない男の家に泊まりに行くってことは、きっと満更でもないんだろう。
これでもし、二人が付き合ったりしたら…
当然、結婚も考えることになって…
そしたら***は、アメリカから帰ってこないかもしれない。
よりを戻せるどころか、
…………………もう会えなくなって…
「エースにもおみやげいっぱい買ってくるからね!」
「…………………。」
「やっぱり食べものがいい?甘いのとしょっぱいのどっちが、……………エース?」
「…………………。」
「あ、そ、そうだよね!どっちかなんてケチくさいよね!じゃあ両方、」
「行くなよ。」
「へ?」[ 10/11 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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