赤ずきんは、狼の腕の中で眠る

私はいま、苦しんでいる。


とても、苦しんでいる。


ひとに相談するほどでもないけど、本人としてはなかなか深刻なんです…


原因は、これ。


むくりと身体を起こすと、私はだれにともなく呟いた。


「…………………眠れない…」


ダメだ。


今夜もダメだった。


ぜんっぜん、眠れない。


羊を数えても犬を数えてもはたまたチョッパーを数えてみても…


ウトウトともしない。


私は大きく溜め息をついた。


最近、私は深刻な不眠症に苛まれていた。


なぜかはわからない。


とくに大きな悩みがあるわけでもないし、それなりに身体も動かすようにしてるから疲れてるとも思うんだけど…


「……………困ったな…」


それが原因で、身体もダルいし、精神的にもまいってきてしまっている。


……………やっぱりそろそろチョッパーに相談してみよう。


こんなことでかわいい船医の手を煩わせたくはなかったけど…


眠れないって地味にツライんだよね。


よし、そうときまったら今夜どう過ごすか考えよう。


このままベッドでゴロゴロしててもヒマだしな…


だれか話し相手でもいてくれたらいいんだけ


………………………。


「…………………あ。」


いたよ、ひとり。


この時刻でも起きてるであろうお方が。


私はベッドから出ると、カーディガンを肩に掛けて外へ出た。


―…‥


「あ、やっぱりいるいる。」


キッチンの小窓から光がもれているのを見て、私はドアノブを回した。


その音が聞こえたのか、キッチンの主は紫煙を揺らしながら驚いたように振りむく。


「…***ちゃん?どうしたんだい?こんな夜中に…」


サンジくんは目をまるくして私を見た。


「ちょっと目が覚めちゃって……………ジャマかな?」

「そんなわけないだろ?………暖かいココアでもどう?」

「ありがとう、うれしい。」


そう答えると、サンジくんはふわりと笑いながら椅子を引いてくれた。


うーん、ジェントルメン。


「サンジくんっていつもこんな夜中まで起きてるの?」

「ん?うーん…まァそうかな?レシピとか考えてるといつもこのくらいになっちまって…」


そう言いながらサンジくんは眉をハの字にして笑う。


……………かわいいな、もう。


「そうなんだ…えらいな、サンジくんは…」

「ははっ…まァ好きでやってるからね。」


そう言いながら、サンジくんはコトリとテーブルにココアを置いた。


「わ、おいしそう!いただきます!」

「めしあがれ、プリンセス。」


目を細めて私を見つめるそのまなざしに、思わず胸がトクリと鳴る。


……………綺麗だな、ほんと。


そんなことを考えながら、私は目のまえに座ったサンジくんをチラリと見上げた。


サラサラと流れるブロンド。


長いまつげ。


細くて綺麗な指。


涼やかな切れ長の瞳。


……………見れば見るほど、王子様みたい。


自分がこんなに綺麗だと、恋人になる女のひとも相当綺麗じゃないと満足しないんだろうな、きっと。


それこそ、ほんとにお姫様みたいな………さ。


そういえば、このまえ町でたまたま見掛けたサンジくんのとなりにいたのは、とてもスタイルのいい美女だった。


……………誘われてたんだろうな、あれは。


ふとそんなことが思い出されて、私の胸はツキツキと針を刺されているようにいたくなる。


それを感じて、私はふるふると首を振った。


「***ちゃん?大丈夫?」

「えっ、あっ、うっ、うんっ…!だ、大丈夫…」


私は動揺をかくすように、ココアをすすった。


ほっこりとした暖かさと甘みが、身体中に広がる。


「……………***ちゃん、もしかして悩みでもある?」

「……………へ?」


サンジくんに突然そんなことを聞かれて、私は思わずほうけてしまった。


「クマ………日に日に濃くなっていっちまってる。……………眠れてねェんだろ?」


そう困ったように笑いながら私の目の下を綺麗な親指でなぞる。


煙草の匂いがふわりと香って、私の胸はドキドキと高鳴っていった。


「あっ、いやっ、あのっ………なっ、悩みとかはとくにないんだけど………なんでか眠れなくて…」


私はしどろもどろになりながら、なんとかそう答えた。


「そっか…」

「う、うん………困っちゃうよねぇ、原因もわからないと………ははっ…」


サンジくんを困らせないようにと、私は努めて笑って見せた。


……………が、サンジくんの表情はいまだ曇ったままだ。


「***ちゃん、おれにできることないかな?」

「え?」

「なんでも言ってくれよ。***ちゃんの力になりたいんだ。」

「サンジくん…」


…………………ほんとにやさしいな、サンジくんは…


………一瞬でもいいから、


このひとを、独り占めしてみたい。


「…………………じゃ、じゃあ…」

「ん?」


私はコクリと喉を鳴らすと、おそるおそる続けた。


「……………一緒に寝てくれる?」

「…………………え?」


サンジくんの綺麗なスカイブルーの瞳が、大きく見ひらかれる。


「ほっ、ほらっ!ひとの体温ってなんか安心するでしょ?だれかがとなりにいてくれたら眠れたりするのかな………なんて…」

「…………………。」


私はまくし立てるように早口でそう告げた。


サンジくんはというと、なにかを考えこむようにうつむいている。


「な、なんてうそうそ!ジョーダンジョーダ」

「いいよ。」

「……………へ?」


サンジくんは煙草を灰皿に押しつけると、立ち上がってソファへと歩き出した。


「ここでいいかな?」

「え、あ、い、いや、あの、」


まさかのサンジくんの行動が信じられなくて、私の頭は混乱してしまった。


「***ちゃん……………おいで?」


甘いテノールで誘われて、クラクラと目眩がする。


射抜くようなイロっぽい視線が突き刺さって、胸が苦しい。


…………………ど、どうしよう…


ま、まさかほんとに…


そんな…


「くくっ…」

「……………え、」

「自分から言ったのに……………怖じけづいた?」

「そ、そんな、あの…」

「なんにもしないよ。」


ふわりと笑いながら、サンジくんはコロンとソファへよこたわった。


「………***ちゃんの力になりたいんだ。………ただ、それだけだよ。下心はない。」

「…………………。」


……………そうだよね。


そりゃそうだよ。


サンジくんはただ仲間として私を助けたいと思ってくれてるだけで…


私ごときで、サンジくんが理性をなくすなんて…


……………ないな。


まず、ない。


私は安心したような哀しいようななんとも言えない気持ちにならながら、ソファへと足を進めた。


ソファのまえまでくると、サンジくんは掛けていた毛布をペラリとめくる。


「し、しつれいします…」


私は、導かれるがまま、おそるおそるサンジくんに身を寄せた。


…………………う、わ…


ひらかれたシャツから、サンジくんの綺麗な鎖骨が見えて、私は思わず強く目をつむった。


「……………***ちゃん……………もっとこっち…」


そう耳元で囁いて、私の身体を自分のほうへ引き寄せる。


ち、ちょちょちょっ…


ちょっとっ…!


「サっ…!サンジくんっ…!あのっ、」

「………あったけェ…」

「……………え、」

「おやすみ、***ちゃん…」


その直後、耳に届く規則正しい呼吸音。


それを聞いて、私の身体中からいっきに力が抜けた。


……………やっぱり…


下心があるのは私だけだったか…


…………………でも…


私は、そっとサンジくんの胸にカオを埋めた。


煙草と料理の匂いを胸いっぱい吸いこむと、ウトウトとおちてくる重いまぶた。


「…おやすみ、サンジくん。」


いつか、


いつか、サンジくんがドキドキするような…


そんなひとに、なれるといいな…


そんなことを想いながら、私は深い夢の中へおちていったー…‥・


赤ずきんは、の腕の中で眠る


(もしかして***ちゃん、おれの気持ち知っててこんなこと…くそ、抱きてェ。)


(……………むにゃ、サンジくん…)


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