07

 な、


 何、これ……。


 「敵襲」のその一言に、ベニーくんはすぐさま立ち上がって走り出した。


 慌ててその後を追っていくと、この船と対峙するもう一つの船。


 私の目を引いたのは、この船にめりこんでいる巨大な鉄の塊だった。さっきの衝撃の犯人らしい。


 何人かがそれの犠牲になってしまったのか、血まみれのまま呻いている。


「医療班は怪我人の手当てに専念してくれ! 他のもの全員で迎え討つぞ!」


 おおおおおっ! と猛々しく船が揺れる。


 ……なに? 今から何が起こるの?


 忙しなく海賊たちが行ったり来たりしている。


 その中で一人、放心して立ち尽くしてしまった。


 ……どうしよう。私、何をしたら


「***」


 突然の呼びかけに、身体がびくついて揺れる。


「せ、船長さん……!」

「今からここに敵が乗り込んでくる。おまえはここにいろ」


 そう言って腕を引かれた先は、そこから少しだけ離れた小部屋だった。


「せ、船長さ」

「ここは部屋とは分かりにくい。下手に目の届かない地下にいるよりはいいだろう……それから」


 船長さんはおもむろに私の手をとって、何かを握らせた。


 ひやっと固く、重みがある。


「いざとなったら……撃て」


 そっと手元を見ると、銃が握られている。


 う、撃てって……そんな……!


 心臓が耳元に移動したんじゃないかというくらい、ばくばくしている。


「私っ、銃撃つなんてできません……! 撃ったことないしっ、それに……!」

「***!」


 船長さんの怒号に、大きく肩が跳ねた。


「落ち着け」

「……」

「死にたくないなら、ここでは戦うしかない」

「……」


 ふわりと、大きな手が頭に降ってくる。


「……エース隊長に会うんだろう?」


 優しくほほえんで、ぽんぽんと頭を叩かれた。


「エース……」


 ……そうだ。こんなところで、死ぬわけにはいかない。


 自分の身は自分で守るって、船長さんと約束したんだ。


「できるな? ***」

「はっ、はいっ!」


 よし、と笑うと船長さんは私を部屋に押し込んだ。


 しばらくすると、剣と剣が交わる音や、人の叫び、銃を撃つ音、さっきのような大きな衝撃が鳴り響いた。


 この部屋のすぐ目の前でも誰かと誰かが戦っているらしく、時たまドアに人が激しくぶつかってくる。


 ……怖い。


 ドラマでも、映画でもない。これは、作り話じゃないんだ。


 命のやりとりが、すぐそこで行われている。


 ぎゅうっと銃を握りしめて、目を瞑った。


 早く終わって……!





 どれくらい経ったのか。


 しばらくすると、外の喧騒が小さくなってきた。


 そっと目を開けて、小さな小窓から外の様子をそっと窺う。


 人がそこらじゅうに転がっている。


 目を覆いたくなるほどの惨状だった。


 船長さんやベニーくんは……?


 目だけをきょろきょろと動かして辺りを探ると……。


「……あっ」


 いた……!


 船長さん、ベニーくん、それに副船長さんが立っているのが見えた。


 よかった……!


 よくよく見ると、この船で見かけた人たちが多く目につく。


 どうやらこの海賊団が見事に勝利を治めたらしかった。


 ほっと一息ついて、座り込んだ


 ――その時。


 バァァァンッ!


 突然、乱暴にドアが開かれた。


 弾かれたようにカオを上げると、そこには……。


「ちらちら人影が見えると思ったら……」


 もはや息も絶え絶えの血まみれになった大男が、大きな剣を片手に立ちはだかっている。


「あ……」


 がたがたと身体が震えて、立ち上がることもできない。


 明らかに、この船の人ではない。充血した目が、殺意に満ちていた。


「お嬢ちゃん……悪いが死んでもらう」


 そう言って、剣を振り上げる。


「***……! 撃て……!」


 やけに遠くで、船長さんの叫び声が聞こえた。


 振り下ろされてくる剣が、スローモーションのようにゆっくり見える。


「***……!」


 視界の端から、ベニーくんが走ってくるのが見える。


「撃つんだ……!」


 撃つ? 何を言ってるの?


 そんなことしたら、人殺しになっちゃうよ。


「死ねェェェ!」


 ……でも、このままじゃ、私、










『***』










 エース……!










 とっさに銃を握って、目を瞑って引き金を引いた。


 パァンッと、渇いた音が船内に鳴り響く。


 ……あれ。痛く、ない……?


 そっと目を開けると、さっきの大男が手を抑えながら転げ回っている。


 どうやら、私の撃った弾が、剣を持っていた手に命中らしい。


「***っ!」


 気が付いたらベニーくんがすぐ隣に来てくれていた。


「大丈夫かっ? おいっ!」

「ベ、ベニーく」


 かたかたかた、と、手が震え始めた。


「***……」


 船長さんが、私のカオを覗き込む。


「銃を離そう、***……もう大丈夫だから」


 そう言って、強く握られた銃をそっと取り上げた。


「ベニー、***を部屋へ。休ませてやってくれ」

「はいっ! ***、行こう」


 立ち上がれない私の身体をひょいと抱えて、ベニーくんは私の部屋へと向かった。


[ 7/56 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -