09
「おはようございます!」
「***っ?」
翌朝、だるそうにキッチンの戸を開けたベニーくんと出くわした。
「お、おはよう。って早くねェか? まだ4時だぞ?」
「ははっ、下っ端ですから」
そう言って笑うと、ベニーくんは目をまるくしたが、すぐに笑ってくれた。
「それもそうだな! よし! 今日はおれもサボらずにやるかな!」
そう言って、手に持っていたモップを床に滑らせる。
「おまえ、もう身体は大丈夫なのか?」
「はい。昨日は本当にありがとうございました。ミルク、おいしかったです」
そう言うと、ベニーくんは照れたように視線をそらした。
「せっ、船長に頼まれたからな! 笑ってんだよ! 今日はこき使うから、覚悟しとけよ!」
「はあい」
「はい、は伸ばすな!」
「はあい」
私にできることを頑張ろう。海賊初心者の私にできることなんて限られてるけれど。
私にできることすべてで、この人たちに恩返しがしたい。
昨日の夜、心からそう思った。
私は頬を叩いて気合いを入れると、ベニーくんに負けじとモップを大きく滑らせた。
*
「ふう……」
さすがに7時間も動きっぱなしは疲れるな。少し、休もうかな。
近くにあった木箱に座って、一息つく。
ベニーくんとは途中で仕事を分担したため、今は一人だ。
今、何時くらいかな。時計がないから分からないや。
ここ、窓もなくて外の様子も分からないし。
ポケットに手を入れて、忍ばせておいた「もの」を掴んだ。
かわいげのない牛のようなそれと目が合う。
「エース……」
会えるんだ。今日。
いざそうなってみると、まったく実感がない。
もう会えるはずのない人だったから。
……。
あら? なんか、緊張してきたな。
どうしよう。何話そう。始めの一言は、なんて言おうか。
『ひさしぶり』? 『元気?』とか。
いっそ『きちゃった(ハート)』とか。
いやいや、それはさすがに。
考えれば考えるほどまとまらない。
でも。
言いたいことは、全部言わなきゃ。
もう、あんなやりきれない思いはしたくない。
『どうしても帰らなきゃダメ?』
あんなこと言って、困らせてごめんって。
それから……それから。
私は、エースのこと
「***ー! どこだー!」
遠くから私を呼ぶベニーくんの叫びが耳に入った。
その声に、慌ててドアを開ける。
「はいっ、ここですっ」
ベニーくんを見つけて手を振ると、なぜか慌てたように走ってくる。
あれ? なんか、みんな忙しない。
部屋にこもっていたため、船内の様子がまったく分からなかったが、皆どたばたと走り回っている。
「おまえこんなところにいたのか!」
「す、すみません。何かあったんですか?」
もしかして、また敵襲……?
「おまえ、さっきの聞こえなかったのか? まァ、こんな船の端っこにいたんじゃ当たり前か」
「? さっきのって?」
そう問いかけると、ベニーくんは一呼吸置いて口を開いた。
「島に着いたぞ」
「……えっ」
島に着いた。ってことは……!
「モビーディック号も来てる。
外に、エース隊長がいるぞ」[ 9/56 ][*prev] [next#]
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