09

「おはようございます!」

「***っ?」


 翌朝、だるそうにキッチンの戸を開けたベニーくんと出くわした。


「お、おはよう。って早くねェか? まだ4時だぞ?」

「ははっ、下っ端ですから」


 そう言って笑うと、ベニーくんは目をまるくしたが、すぐに笑ってくれた。


「それもそうだな! よし! 今日はおれもサボらずにやるかな!」


 そう言って、手に持っていたモップを床に滑らせる。


「おまえ、もう身体は大丈夫なのか?」

「はい。昨日は本当にありがとうございました。ミルク、おいしかったです」


 そう言うと、ベニーくんは照れたように視線をそらした。


「せっ、船長に頼まれたからな! 笑ってんだよ! 今日はこき使うから、覚悟しとけよ!」

「はあい」

「はい、は伸ばすな!」

「はあい」


 私にできることを頑張ろう。海賊初心者の私にできることなんて限られてるけれど。


 私にできることすべてで、この人たちに恩返しがしたい。


 昨日の夜、心からそう思った。


 私は頬を叩いて気合いを入れると、ベニーくんに負けじとモップを大きく滑らせた。





「ふう……」


 さすがに7時間も動きっぱなしは疲れるな。少し、休もうかな。


 近くにあった木箱に座って、一息つく。


 ベニーくんとは途中で仕事を分担したため、今は一人だ。


 今、何時くらいかな。時計がないから分からないや。


 ここ、窓もなくて外の様子も分からないし。


 ポケットに手を入れて、忍ばせておいた「もの」を掴んだ。


 かわいげのない牛のようなそれと目が合う。


「エース……」


 会えるんだ。今日。


 いざそうなってみると、まったく実感がない。


 もう会えるはずのない人だったから。


 ……。


 あら? なんか、緊張してきたな。


 どうしよう。何話そう。始めの一言は、なんて言おうか。


『ひさしぶり』? 『元気?』とか。


 いっそ『きちゃった(ハート)』とか。


 いやいや、それはさすがに。


 考えれば考えるほどまとまらない。


 でも。


 言いたいことは、全部言わなきゃ。


 もう、あんなやりきれない思いはしたくない。


『どうしても帰らなきゃダメ?』


 あんなこと言って、困らせてごめんって。


 それから……それから。


 私は、エースのこと


「***ー! どこだー!」


 遠くから私を呼ぶベニーくんの叫びが耳に入った。


 その声に、慌ててドアを開ける。


「はいっ、ここですっ」


 ベニーくんを見つけて手を振ると、なぜか慌てたように走ってくる。


 あれ? なんか、みんな忙しない。


 部屋にこもっていたため、船内の様子がまったく分からなかったが、皆どたばたと走り回っている。


「おまえこんなところにいたのか!」

「す、すみません。何かあったんですか?」


 もしかして、また敵襲……?


「おまえ、さっきの聞こえなかったのか? まァ、こんな船の端っこにいたんじゃ当たり前か」

「? さっきのって?」


 そう問いかけると、ベニーくんは一呼吸置いて口を開いた。


「島に着いたぞ」

「……えっ」


 島に着いた。ってことは……!


「モビーディック号も来てる。










外に、エース隊長がいるぞ」


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