幼なじみの告白 -Killer-
「怪しい。」
「どれだ?」
「ピンクのワンピース着た女。」
「そうか?どちらかというと殺される側だと思うが。」
「いや、そう見せかけて実は犯人でしたとか。」
久しぶりに我が家を訪ねてきた幼なじみと、コタツを挟んで二時間ドラマを鑑賞する。
相変わらず、コタツが似合わない男だ。
「今日は閣下様のお世話いいの?」
「たまにはいいだろう。」
「大変だねー。」
「あァ、アイツの世話は大変だ。」
「あ、なんか殺されそう。」
「誰だ?」
「ピンク女。」
「やはりな、怨恨の線が濃い。」
「二時間ドラマは大体怨恨だから。」
「違いない。」
お茶をズズっとすすりながら、キラーは小さく頷いた。
「そうなるとやっぱりあの男かな。」
「アイツだろう?お茶会で写真撮ってたカメラマン。」
「えー、ちがうよ。あのアイドルのマネージャーだよ。」
「だがヤツにはアリバイがある。」
「トリック使ったんだよ。」
「ほう、どんな?」
「…………………。」
「…………………。」
「キラー、みかん食べたい。」
「自分で持って来い。」
「…………………。」
「……………何個だ。」
「わーい、2個ー。」
両手を上げながらそう言うと、キラーはコタツから出て、キッチンへのそのそ歩いていく。
料理を作っている母と二言三言話をすると、キラーはすぐに戻ってきた。
「今日の昼飯は蕎麦らしいぞ。」
「またー?昨日の夜も蕎麦だったのに。」
「わがままを言うな。寒い中台所に立って作ってくれてるんだぞ。」
「キラーが来るとお母さんが一人増えたみたい。」
「おい、マネージャーも殺されたぞ。」
「うわ、しかもむごい。」
「恨みは相当根深いな。」
キラーが持ってきてくれたみかんを頬張りながら、テレビに釘付けになる。
「あのアイドル、ホステスやってたんだね。」
「やはり動機は痴情のもつれか。」
「キラーも行ったことあるの?」
「何がだ。」
「こういうクラブ?みたいなとこ。」
「あァ、キッドが好きだからな。」
「閣下様こういうところで散財しそうだね。」
「している。ところでどうして閣下なんだ。」
「キラーモテるでしょ。」
「…………………。」
「キラーって昔から嘘つけないよね、ほんと。」
「なに、コイツも殺されるのか?」
「誰?」
「カメラマン。」
「なんだって何人殺せば気が済むんだろうね。」
「推理は一からやり直しだな。」
みかんを剥きながら、キラーはテレビに向かってそう呟いた。
「キラーさ、」
「ん?」
「もういいんだよ。」
「何がだ。」
「気遣わなくて。」
「何に。」
「私に。」
「…………………。」
「キラーもさ、忙しいでしょ?」
「…………………。」
「こんな遠くまで、わざわざ休みのたびに来ることないんだよ。」
「…………………。」
「私はもう、キラーがいなくても大丈夫だよ。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「キラー、みかん持ってきて。」
「たった今おれがいなくても大丈夫とか言ったのはどこのどいつだ。」
「みーかーんー。」
「…………………何個だ。」
「3個。」
「1個だな。」
「さーんーこー。」
「食いすぎだ。腹壊すぞ。」
やれやれと溜め息をつきながら、キラーは再び重い腰を上げる。
ぼんやりテレビを見つめながら、私は台所にいるキラーを呼び掛けた。
「キラーキラー、」
「なんだ。」
「アイドルが殺された。」
「なに?どういうことだ。他に目ぼしいヤツはいないぞ。」
ちゃっかりお茶菓子も持って戻ってきたキラーは、おまんじゅうの袋を開けてそれを口に運ぶ。
「もうイヤ、もう分かんない。」
「自棄になるな。まだ可能性がある。」
「なんの可能性?」
「カメラマン犯人説。」
「いや、だから殺されてるから。」
「おまえ、」
「なに?」
「おれが気を遣ってここに来てると思ってるのか。」
「え、ちがうの?」
「ちがう。」
「じゃあなに?」
「そんなの、」
「…………………。」
「……………会いたいからに決まってるだろ。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「うまい煮付けを食わせてくれるからな。」
「ってお母さんかーい。」
綺麗にツッコミ終わったところで、私もおまんじゅうに手を伸ばした。
「今日のカレイは最高だったな。」
「私お肉のほうがいい。」
「おまえは贅沢だ。」
「クラブ行きまくってる人に言われたくない。」
「…………………。」
「あーあ、私は素朴な人と結婚しよー。」
「…………………おれだって素朴だぞ。」
「コタツが似合わない人は素朴ではありません。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………なに拗ねてるの。」
「…………………別に拗ねてなんかいない。」
「大丈夫だよ、キラーならどえらいべっぴんさんとすぐ結婚できるから。」
「…………………。」
「どういう人がいいの、キラーは。」
「…………………おれは、」
「うん。」
「…………………。」
「なに。」
「…………………うまい煮付けを作れる母親を持つ娘がいい。」
「…………………。」
「…………………。」
「範囲広すぎない?それ。」
「なぜ今ので伝わらない。」
「なにが、あっ、」
そんな会話を繰り広げていると、テレビでは衝撃的なラストを迎えていた。
「あれっ、カメラマン生きてるよ?犯人だし。なんで?」
「やはりな。遺体が見つからないなんて怪しすぎる。」
「それならそうと早く言ってよー。」
「ずっとそう言っていた。」
「……………あのさ、キラー、」
「あァ。」
「…………………。」
「な、……………なんだ。」
ジィっとキラーを上目遣いで見つめると、私はずっと心に秘めていた思いを告げた。
「私そっちのおまんじゅうのほうが食べたい。」
「…………………ぶん殴っていいか。」
幼なじみの告白[ 3/3 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]