幼なじみの決意 -Shanks-
「よォ、久しぶり。」
「…………………。」
ある冬の日、家に帰ったら、しばらく会っていなかった幼なじみのおっさんがコタツでぬくぬくしていた。
「……………どうしたの、突然。」
「ん?いやァ、別に何ってことはねェんだけどよ。おっちゃんとおばちゃんのカオも久しぶりに見たかったし。」
「あ、そう。じゃあごゆっくり。」
「あー、待て待て!」
「なに?」
「いいから座れよ。」
「ええ、いいよ別に。」
「そんな冷てェこと言うなよ。ほら、早く早く!」
そう言って、ペラリ、コタツを捲ったシャンクスに嫌そうなカオを向けながら、私は渋々そのとなりに座った。
「で?なにか用なの?」
「んー?……………いやァ、別に。」
「あ、そう。」
「あァ。」
「…………………。」
「…………………。」
「ベンさん元気?」
「おー、元気元気。白髪白髪。」
「へー。シャンクスは?」
「元気元気。」
「だろうね。そうじゃなくて、白髪。」
「あァ、おれはまだねェなァ。」
「このあいだ私一本見つけた。」
「おれの?」
「なんでよ。私の。」
「おまえもそんな歳かァ。」
「やめてよ、ショックだったんだから。」
「だっはっは!気にすんな!」
「記念にとってあるの。後で見る?」
「おー、見る見る。」
そんな中身のない会話を繰り広げながら、二人でぼんやりテレビを見つめる。
すると、ニュース番組を放送していたテレビ画面に、となりのおっさんがよそいきのカオで映った。
もうすっかり見なれてしまったので、大した衝撃はない。
「儲かってますねー、レッドフォースのしゃっちょさん。」
「おー、おかげさまでな。」
「やっぱり副社長が優秀だからだねー。」
「おう、そうだぞ。」
「……………そこ偉そうに言うとこ?」
呆れ顔でそう言うと、シャンクスは楽しそうに笑う。
笑ったカオは、やっぱり少年の頃のまんまだ。
「……………ところでよー、」
「んー?」
「おまえ、今も男いねェのか?」
「…………………。」
「……………だっはっは!いねェんだな!」
「ほっといてください。」
「かわいそうなヤツ。」
「自分だってモテるわりにまだ余ってんじゃん。」
「余ってる?」
「結婚してないってこと。」
「あァ、そういうことか。」
「いつまでもふらふらしてごまかしてたら、愛しのあの子はあっというまにいなくなっちゃうんだよ。」
「そういうもんなのか。」
「そういうもんです。」
シャンクスの女の噂は、たびたびメディアで取り上げられる。
会社も大きいし、本人もこのルックスだから、当然と言えば当然なんだけど。
「……………いやー、実はよォ、」
「うん。」
「そろそろしようと思って。」
「なにを。」
「だから、結婚。」
「…………………。」
「いなくなられたら困るしなァ。」
「…………………。」
「そろそろここいらが潮時だろ。」
「……………それはそれは。」
「なんだよ、それはそれはって。」
「いや、別に。……………オメデトウ。」
「心こもってねェじゃねェか。」
「こめてるこめてる。」
「嘘つけ。」
…………………あーあ、
全然痛くないな。
やっぱり歳とったから、痛みを感じるのも時間差なのかな。
筋肉痛のあれみたいに、心もきっと、あとで痛くなってくるんだろうな…
そんなことをぼんやりと考えていたら、シャンクスが「なァ、」と呼び掛けてきた。
「なに。」
「子どもは何人がいい?」
「…………………は?」
「やっぱり二人か?男の子と女の子一人ずつ。」
「……………いや、それは私に聞かれても。」
呆れた表情を見せながら、私はテーブルの上に置かれたみかんに手を伸ばす。
「なんでだよ、おれとおまえのことだろ。」
その言葉に、ピタリ、みかんを剥く手が止まった。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………なに言ってんの?」
「なにが。」
「だって、……………それじゃまるで、」
「あァ。」
「…………………シャンクスと私が結婚するみたいじゃん。」
「だってそうだろ。」
「…………………。」
「…………………。」
沈黙をそのままに、私は再びみかんを剥き始める。
「…………………。」
「…………………。」
「シャンクスもみかん食べる?」
「おう、食う。」
「はい。」
「サンキュ。」
「…………………。」
「…………………。」
「……………あのさ、」
「あァ。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………………冗談だよね?」
「…………………。」
手の中のみかんを見つめながら、震える声でそう問い掛けた。
すると、シャンクスはおもむろにスーツのポケットに手を入れる。
みかんの皮の横に、小さな箱が置かれた。
その中には、
ダイヤのついた、綺麗な指輪。
「…………………。」
「…………………。」
「で?」
「…………………なにが。」
「子どもは何人がいいんだ?」
そういたずらっこのように笑ったシャンクスに、
どうしようもなく胸がむず痒くなって、
泣きだしそうなのを悟られないように、私は俯きながら小さな声で「二人」と答えた。
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