お菓子より、アイツより---Luffy--- 2/2

「ひっでェカオ!」

「…………………。」


翌朝、靴を履きかえていると、聞きなれた声が後方からして、私はその方をぎろりと睨み付けた。


「お宅の弟さんのせいです。」

「そんなのわかってるよ。言ったろ?どうせすぐ別れる、」

「別れないって言われた。」

「はァ?」

「キスしたから別れられないんだって!」

「えええええ!?ルフィがキス!?うそだろ!?」


目を大きく見開いて、サボは全校舎に聞こえるんじゃないかというくらいの大声でそう叫んだ。


うそだったらどれほどいいか…


夜通し泣き通したまぶたの重さにまけて、私が目を瞑って大きく溜め息をついた、その時、


「おう***!おはよう!」


私とは正反対の表情で、なにごともなかったように声を掛けてきたのは、私のこのひどいカオの原因。


「おまえひっでェカオだな!腹痛治んなかったのか?」

「…………………。」

「チョッパーのとこ行けよ!きっとすぐ治るからよ!」

「…………………。」

「あ!***!今日は一緒にかえ、」


ルフィの話を最後まで聞くことなく、私はスタスタと教室への道を歩き出した。


「あっ、おい***!まてよ!一緒に行こ、」

「話しかけないで!」

「え?」


きょとん、と目をまるくしたルフィのかわいさに少しだけ心が揺れながらも、私は怒っている声のトーンをそのままに言う。


「ルフィとは絶交って言ったでしょ?もう話し掛けないで!」

「なっ、なんでだよ!」

「もうルフィとは一緒に帰らないし、話もしないの!それが絶交!」

「えええええ!?そうなのか!?」

「だからもう私のことは忘れて!」

「じゃ、じゃあおれぜっこうやーめた!!」

「ルフィはやめられないの!私が始めたんだから!」

「じゃあ***もやめよう!!」

「いや!」

「なんで!!」


徐々に苛立ちを表しながら、ルフィは噛みつくようにそう問い掛ける。


「ルフィが食いしん坊だからだよ!」

「な、なんだよそれ!意味わかんねェ!」

「わかんなくてよろしい!もういいでしょ!」


ふんっ、と鼻を鳴らして、思いっきりルフィからカオをそらした。


早足で歩く私に、ルフィは必死で着いてくる。


「***!じゃあぜっこうっていつまでだ?今日の放課後か?まっ、まさか明日までか!?」


あわあわと慌てながら言うルフィに、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、胸がときめく。


そんなに私と絶交するの、嫌なのかな。


ちょっとうれしい、


ほだされかけた脳裏に、ルフィとあの子のキスシーン(あくまで想像)が浮かんで、私の心はまた鬼と化した。


「今日でも、明日でもなくて、ずーっと、……………永遠に絶交!」

「え、永遠…」


ついにその場に立ち尽くしてしまったルフィに、私の胸はずきりと痛んだ。


だって、だって、ルフィが悪い、


私のほうが、もっともっと、


……………寂しかったんだから。


悲しい、つらい、みじめ、自己嫌悪、


いろんな感情が交互に訪れてきて、とうに枯れたはずの涙が、再びじわりと滲んだ。


―…‥


ルフィと絶交をして、早5日。


始めのうちはめげずに話し掛けにきていたルフィも、3日後くらいにはちらちらと遠くから私の様子を窺うだけとなった。


今日に至っては、ルフィのそんな遠慮がちな気配も感じない。


「このままほんとにルフィと会えなくなったらどうしよう…」

「絶交やめればいいだろ?」


呆れた様子で頬杖をつきながら、サボは深い溜め息と共にそんな言葉を吐き出した。


「……………やだ。だってルフィが悪いもん。」

「別にルフィは悪くねェだろ。付き合うのは自由なんだから。」

「…………………。」


わかってるよ、そんなの。


ルフィはなにも悪くない。


ヤキモチ妬いて、意地悪してる私が悪い。


だけど、だけどさ、


寂しかったんだよ、私。


ルフィには、私のほかにも、大切なものがいっぱい。


私は、だれよりもなによりも、ルフィが大切なのに。


ルフィにとっては、やっぱり私はただの幼なじみで。


それどころか、もしかしたらそれ以下かもしれなくて。


カオを歪めて深く俯いたら、サボは頬をかきながら、「悪かった、言いすぎた」と言って、私の頭をなでてくれた。


「でもなァ***、ルフィは………………あ。」

「?…なに?サ、……………………ボ、」


ふっ、とカオに影がかかったと思ったら、白いシャツが視界にとびこんできた。


その白シャツの正体を確かめようとカオを上げると、そこにいたのは3年に1回あるかないかと思われる真剣なカオをした、


「ルフィ…」

「…………………。」


するとルフィは、おもむろに私の机に大量の何かをばらまいた。


「わっ…!ちょ、なにこ、…………………お、お菓子…?」


あっというまに私の机は、お店でも開けるんじゃないかというくらいのお菓子で埋め尽くされた。


「…………………サンジが毎日つくってきてくれるお菓子だ。」

「サ、サンジくん?」


こくり、大きく頷いたルフィに、私もサボもカオを見合わせて頭にハテナマークを並べる。


「おれ、食べてねェぞ。」

「へ?」

「***が、……………おれが食いしん坊だからぜっこうするって、」

「…!!」

「だから、食べなかった。」


エースに怒られたから飯は食ってたけど、と、罰が悪そうに正直に白状するルフィ。


「これ、ぜんぶおまえにやるからよ、」

「ル、ルフィ、」

「だからさ、」


つらそうに眉を寄せて、ルフィらしくない弱々しい声で、呟くように言った。


「ぜっこう、もうやめてくんねェかな。」

「…………………。」

「たのむ。」

「…………………。」


机に置かれた、たくさんのお菓子に目を落とす。


こんなおいしそうなお菓子、


きっと、食べたかっただろうな。


みんながおいしそうに食べてるなかで、


ルフィはきっと、このお菓子たちと、一生けんめいにらめっこしてたんだろうな。


…………………私と仲直りするために。


胸に、暖かいものが流れ込んできて、


毎日下校をドタキャンされたこととか、


サッカーやお肉を優先されたこととか、


キスのことも、……………やっぱりそれは許せないけど、


なんだかすべて、どうでもよくなってしまった。


「……………ルフィ、」

「…………………。」

「屋上で、これ一緒に食べようか!」

「…!!」


ぱっとカオを上げたルフィに、にししっ、と、だれかさんの笑い方を真似る。


「絶交、やーめた!」

「…ほんとか!?やったー!!」


そう跳ねるように喜んだルフィが、おもむろに私の腕を強く引いて、私を逞しい胸のなかにぎゅうっと閉じ込めた。


「る、るるるるる、るふぃ…!!だ、だめだめ!!こ、恋人がいる人はそういうことしちゃ、」

「ん?あァ、あれやめた!」

「へ?」


ルフィの腕の中から、ぽかんと呆けたカオでルフィを見上げると、ルフィはいたずらっこのようなカオで笑う。


「お菓子とアイツ、どっちが好きかって聞かれてよー、」

「う、うん…」

「お菓子って言ったら、こいびとやめるって!」

「…………………。」


……………な、なんてこった。


そんなバカな。


私の涙を返してほしい。


「それにおれ、」

「?」


このあとのルフィの言葉に、私は失神することとなる。


お菓子より、アイツより


おまえのほうがすきだ!


[ 4/11 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -