嘘つきたちの聖夜-Happy Merry Christmas!2012-1/2

 12月24日。


 この町一番の大きな一軒家、通称『サウザント・サニー』は、今日も朝から大忙しです。


「ウソップー! ここの飾りちょっと寂しいんじゃない? もう少し頑張りなさいよ!」

「そんなこと言うんならおまえも手伝えよなァ! ナミ!」

「なに言ってんのよ! 私は指揮官! アンタたちが手となり足となり働きなさい!」

「フランキー、あなた自分の装飾はいいから玄関の方頼めないかしら?」

「アウッ! ロビン! 変態だなんてそんな褒めちぎるなよ! 照れるじゃねェか!」

「安心して。1ミリも褒めてないわ」

「おう、酒はまだか?おまえらダラダラやってんなよ」

「ヨホー! ゾロさんまだお昼前ですよ! ところでナミさん、クリスマススペシャルパンツ、見せて頂いてもよろ――」

「見せるかァァァァァ! そしてゾロ! アンタも手伝いなさい!」

「その前に酒を寄越せ。話はそれからだ」

「ねェ、ルフィはどこへ行ったのかしら。さっきから姿が見えないけど」

「えっ? さっきまでここに……さてはアイツ、またキッチンで盗み食いしてるわね!」


 ムキーッ! と、頭が沸騰しそうな勢いで怒り心頭のナミちゃんを、私と本日の主役はソファに座りながら一緒に見守っていた。


「今日もナミちゃんは大変そうだねェ、チョッパー?」


 そう言うと、かわいい小柄な青っ鼻トナカイは、小さな手でミルクを持ちながら、くふくふと笑う。


 かっ、かわいすぎる……!


「んもう! かわいいんだから! 食べちゃいたい!」


 そう言って、そのぷにぷにした頬を突くと、カオまで青くして怯えた表情のチョッパー。そんなカオもたまらなくかわいい。


「ちょっとチョッパー、耳だけ! 耳だけでいいからちょっとだけ、はむってさせて!」

「――!」


 いやんいやんと抵抗するチョッパーと、お決まりのじゃれ合いをしていると、


「アンタはそこで、なァにしてるのかしらァ? ……***」


 ドスの利いた声が上から聞こえてきて、私は小さく、ひっ、と声を上げた。


「ナっ、ナミちゃん……! ちっ、ちがうの! 私は今日の主役の心のメンテナンスをっ」

「メンテナンスどころか、びびらせてんじゃないのよ!」

「そ、そんなことないよ! も、もう! チョッパーったら照れ屋さん!」

「バカなこと言ってないで、さっさとキッチンにいるちがうバカを連れてきなさァァァァァい!」

「はいィィィィィ! ただいまァァァァァ!」


 そう叫ぶように言って元気よく立ち上がると、私は一目散にキッチンへと向かった。


 *


「お、おじゃましまーす……」


 裏番長に言われるがままキッチンを訪れると、いい匂いがそのなかを満たしていた。これはルフィじゃなくても釣られちゃいそうだ。


 すると、私の控えめな声が聞こえたのか、ひょっこり、キッチンからカオを覗かせたのは、ここの主。


 そして、私はその姿に悶絶した。


 んっ、んなっ……! なんてこと……!


 黒のVネックニットに、緩い腕まくり。おまけに咥え煙草と、眼鏡というオプション付きだ。


 はっ、鼻血出そう……! あ、ちょっと出てる。


「***ちゅわァァァん! どうしたんだい? もしかしておれに会いたくなっちゃった?」


 メロリンメロリンくねくねさせながら、サンジくんはいつもの神がかり的な動きをして見せた。


「ううん、裏番長の任命を受けてルフィを連行しに来ただけでーす」

「えェ……なァんだァ」


 ぐるぐる眉をハの字に寄せて、わざとらしくしょんぼりしてみせるサンジくん。


 表情がコロコロ変わるのが見たくて、たまに意地悪したくなってしまういけない乙女ゴ・コ・ロ。


「盗み食いバカならここだよ、***ちゃん。煮るなり焼くなり意のままに」


 そう言ってサンジくんが指し示した先には、サンジくんお手製の罠にまんまとかかってる哀れな盗み食いバカ。


「***ー、たーすけてくれェ」

「大変、ルフィ。ナミちゃんが激怒りしてるよ」

「なっ、なにィっ? なんでだっ? おまえなんかしたのかっ」

「おまえだよ! このあほう!」


 サンジくんの綺麗な踵落としがルフィの頭にみごとに決まったのを見計らって、私は罠からルフィを救い出す。


「大丈夫だよ、ルフィ。今ならきっとデザート抜きくらいで許してくれるよ」

「なにィっ? 全っ然大丈夫じゃねェじゃねェか!」

「さっさと土下座でもなんでもしてこい」


 紫煙を、ふーっと吐き出しながら言ったサンジくんの言葉を最後まで聞かず、ルフィは一目散にキッチンを出ていった。


「ったく、しょうがねェなァ、アイツは」

「ご飯なくなっちゃった? サンジくん」

「とんでもない、姫君たちの料理はバッチリお守り致しましたよ、プリンセス」


 そう言って恭しく頭を下げるサンジくん。


「ならよかった! 私お腹ペコペコだもん!」

「なに? それはいけねェ」

「へ?」


 するとおもむろにサンジくんはお皿を出してお料理を盛り付け始めた。


 しまった、気を遣わせてしまった。


「あっ、大丈夫だよサンジくん……! ご飯の時間まで待てるからっ」

「いいんだ***ちゃん、ちょうど初めて作ったメニューがあってさ。味見がてら食ってくれると助かる」


 そう言って、サンジくんはふわりと笑った。


 な、なんてジェントルメン。私に気を遣わせないようにフォローもいれるなんて……!ゾロやルフィには絶対できない。(失礼)


「あ、ありがとう、じゃあ遠慮なくいただきます!」

「召し上がれ」


 初めて作ろうがなんだろうが、サンジくんが作った料理がおいしくないはずがない。


 案の定、口の中に運んだそれは今まで食べたことがないくらいおいしくて、私の頬は自然と緩んでしまった。


「おっ、おいしい……! サンジくん、これすっごいおいしいよ!」

「ほんとかい? ならよかった!」


 そう言って、少し照れたように眉をハの字にして笑うサンジくん。


 どうしよう、サンジくんも食べちゃいたい。


「クリスマスケーキも楽しみだなァ、もう作り終わったの?」

「あァ、基礎は完成したよ。あとは飾り付けるだけ」

「へェ! どんなケーキ?」

「まだ秘密」


 その妖しげな瞳に、私は白目を剥きそうになるほどの目眩を覚えた。


「まァ、うちの非常食仕様だけどね。ヤツが好きそうなもんばっか乗せちまって甘さ控えめじゃねェからナミさんに怒られそうだ」
 
 
「でもチョッパーは喜ぶね」

「だといいがなァ。もっと太らせて非常食っぽくしねェと」


 そう言いながら、サンジくんは目を細めて小さく笑う。


 口ではそんなこと言ってるけど、サンジくんはチョッパーのことをもんのすごく大切にしてる。だってメニューがほとんどチョッパーの好きなものばかり。


 もう、素直じゃないんだから!


 そんなあなたを今夜私が非常食。


「***ちゃん、大丈夫かい? よだれ出てるよ?」

「えっ、うそっ、じゅるる、ごめんごめん」

「足りなかった? もっと食う?」

「だっ、大丈夫大丈夫! あとは夕飯の楽しみにしておくね」

「あァ、楽しみにしてて」


 そう言ってにっこり笑ったサンジくんにときめいたり茶碗洗いを手伝ったりたまに鼻血をちょこっと噴き出したりしてクリスマス&チョッパーのバースデーパーティーの準備時間は過ぎていった。


 *


「チョッパー、ハッピーバースデー! そしてメリークリスマース!」


 かんぱーい! と、盛大にジョッキのぶつかる音がしたかと思うと、即座になくなっていくテーブルの料理たち。


 特にルフィとゾロ、チョッパーは、いつものとおりすごい勢いだ。


「おいおまえら! おれたちの分まで食うなよなァ!」

「うほっふんぐんぐほほほはひゃくひくひょうひょふはんはひょ!(ウソップんぐんぐこの世は弱肉強食なんだよ!)」

「ルっ、ルフィのくせに四文字熟語を……!」

「ほらチョッパー、落ち着いて食べなさい? 喉に詰まってしまうわよ」

「……! んぐっ」

「ヨホー! ほうら、ロビンさんの言わんこっちゃない」

「おいゾロ! おれの酒取ってんじゃねェぞ!」

「黙れ変態」

「お、おいおい褒めるなよ!」

「おいぐる眉エロコック、酒が足らねェぞ。持って来い」

「うるせェマリモマン! 自分で持ってきやがれ!」

「あァ? やんのか? コラ」

「やめなさい、アンタたち!」


 ナミちゃんの鉄拳がみごと二人の頭に決まったところで、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。


「あら、どなたかしら? こんな日に」

「私出てくる!」

「ふぁんふぁはっははふぉへほほんへふへ!(サンタだったらおれも呼んでくれ!)」

「わかったー!」


 ハムスターのように頬を膨らませたルフィにそう答えて、私は玄関へと向かった。


「はーい、どちらさ、ま……」


 玄関のドアを開けると、そこにはとっても綺麗な女の人が立っていた。


 あ、あれ、この人……。


「ごめんなさい、夜分に」

「いっ、いえいえ!」

「サンジ、いるかしら?」


 やっ、やっぱり……!


「あ、しょっ、少々お待ちを!」


 あわあわとそう答えると、私は小走りでリビングへ戻った。


「サンジくんサンジくん!」

「ん? どうしたんだい、***ちゃん。新聞の勧誘ならおれが――」

「ちがうの! あの人あの人!」

「あの人?」

「ほら! サンジくんのお店に最近通いつめてるモデルさん!」


 そう伝えると、サンジくんは大きく目を見開いて、困ったように笑った。


「あァ……ありがとう、***ちゃん」


 そう私に向かって言うと、サンジくんは玄関へ向かった。


「おい***、例の女か?」

「あれっ、ウソップくん知ってたの?」

「あァ、この前サンジの店に行ったときにたまたまいたんだよ。他の女押しのけてサンジのこと口説いてるヤツ!」

「あの人最近いっつもなんだよ。相変わらずモテモテだよねェ、サンジくん」


 ひそひそとウソップくんとそんな噂話をしていると、ゾロが私の耳に口を寄せた。


「いいのか、***」

「へ、な、なにが?」

「捕られんぞ」

「い、いや、そ、そもそも私のじゃないし、私はサンジくんのただのファンだから」

「……へェ?」


 からかうような見透かすようななんとも言えない視線を私に投げて、ゾロはまたグラスに口を付ける。


 な、なにさ、ほんとだもん。……なにさ。


 そんなゾロからぷいっとカオをそらして、私はかわいい桜色のケーキを一口頬張った。


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