狼少女の夜明け

宛先 サンジくん
件名 サンジくんへ。
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お久しぶりです。お元気ですか?

お仕事忙しいときにごめんね。

でも、これが最後のメールになるので許してください。

サンジくんと連絡が取れなくなってすごく心配してたけど、友達にそれを相談したらそういうお別れもあるんだと言われました。

私たちに限ってなんて親ばかみたいなことを最初は思っていたけど、時間が経つほど現実味を帯びてきて、今は理解しています。

私たちはきっともう恋人同士じゃないんだよね。

この前、街で偶然あなたを見かけました。

とても綺麗な人が隣にいて、サンジくんにお似合いの人で、そこはもう私の場所ではないんだと実感しました。

でも勘違いしないで欲しいのは、私はサンジくんを恨んでいるわけではないんだ。

たくさんの幸せをもらったから、たくさん幸せになって欲しい。

今日メールしたのは、実は結婚が決まったからその報告。

私も前に進まないとね。

だからけじめをつけるために連絡しました。

相手はサンジくんほどかっこよくはないけど(笑)

とても優しい人です。

きっと幸せになれると思います。

優しいといえば…覚えてますか?

付き合い初めの頃に










長いな。ちょっと長いな。


しかもなんかこう…じめっとしてる気がする。


最後のメールなんだしもっと、アイツいい女だったな的な感じであっさりさっぱりいけないもんかな。


これはなしだな。うん。よし。










宛先 サンジくん
件名 結婚します。
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お元気ですか?

結婚することになりました。

お互い幸せになりましょう。











……………年賀状?


これは短すぎか。あっさりすぎか。


もう少しもっとこう…あれだよね。


なんか顔文字とか☆とか入れてみた方がいいかな。


明るめにね。明るめに…










宛先 サンジくん
件名 ***だお☆
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サンジくん久しぶり〜(o^∀^o)元気!?

この前新カノと歩いてるの見ちゃったぞぉ(≧ε≦)

このこのっ☆

私も実は結婚決まったんだぁo(`▽´)o

相手はサンジくんほどかっこよくないけど(゜∀゜;ノ)ノ

優しい人っ(^з^)-☆Chu!!

お互い幸せになろうNE☆










誰だ!!


別人じゃん!!


明らかに誰か代わりにメール打ってるじゃん!!


私そもそも顔文字あんまり使わないし!!


なんだこの(゜∀゜;ノ)ノ


「あほかっ!!」


勢いよく携帯をベッドに投げ捨てた。


「はぁ…」


時計を見ると、もう午前3時を指していた。


昨日の夜からこんな調子だ。


「そりゃ変なテンションにもなるな…。」


付き合って3年になる彼とは、もう何ヵ月も前から連絡が取れなくなってしまった。


連絡が取れないというと語弊はあるが、あんなにマメだった彼にしては返事が極端に少なくなっていった。


私だって、『自然消滅』の4文字が浮かばなかったほど馬鹿じゃない。


それでもやっぱり、私たちに限って…サンジくんに限ってそんなことないって本気で信じてた。


あの光景を見るまでは。


最初はまた困ってる女性を放っておけなかったんだろうなんて思ったけど…


二人は幸せそうに宝石店に入っていった。


あの時のサンジくんの緩みきった表情が答えだ。


対抗しようっていう気持ちもなかったわけじゃない。


でもそれよりも、サンジくんの重荷にならないように…


そう思って結婚するなんて嘘までついて、終わりにしようと思ったのに…



「何やってるんだろ、私…」


バカバカしくなってきた。


一人でなにやってるんだか…


「……………寝よ。」


少し冷静になろう。


今は頭が疲れすぎてる。


ゆっくり寝て明日また考え、


……………………ん?


拾い上げた携帯の画面を見て思考が止まる。


『送信完了しました』


……………………え?


何の話?


何言ってるのこの子。


私がいつそんなこと頼んだ?


え、ちょっと待って。


どれ?


どれを送信したの?


まさか、……………あれじゃないよね?


汗が滝のように流れている。


さぁっと血の気が引いていくのが分かった。


確かめなくても分かる。


最後に作ったあのふざけたメールがサンジくんに送信されてしまったのだ。


「あああああっ!!ちょっ、ちょっと待って!!今のなし!!戻して!!今のメールこっちに戻して!!」


無論時既に遅し。


私は携帯を片手に崩れ落ちた。


「そんなぁ…」


終わった…


いろんな意味で。


きっと今頃新しい彼女と私のメールを見て笑ってるんだ。


バカな女だって…


視界が歪んで、携帯の画面に涙がぽたぽたと落ちた。


サンジくんが悪いんだ。


ぜんぶぜんぶ、サンジくんが悪い。


何も言わないでいなくなるなんて、あんまりだよ。


そうだよ。


あんな人、別れてよかった。


サンジくんなんて…


「っ、だいすきだよぉ…」


いやだよ。


別れたくない。


こんなに好きなのに。


でも、サンジくんの心はもう私にない。


優しく髪を撫でるあの細い指も。


名前を呼ぶあの柔らかくて甘い声も。


日だまりのようなあの笑顔も。


もう私に向けられることはない。


「いかないでよぉ、っ、サンジくん…」


誰よりも幸せにするから。


私にしてよ…


気づいたら、声をあげて泣いていた。


サンジくんと会えなくなってからどれだけ経っても、最悪の結末を認めたくなくて、決して泣かなかった。


信じてたから。


でも、もうだめだ。


本当に終わってしまった。


せめて、もう一度会いたい。


名前を呼んでほしい。


笑ってほしい。


嘘でもいいから、愛してるって言ってほしいよ。


サンジくん…


会いた、


ピンポーン…


ピンポーン…


身体が固まる。


午前3時。


人が訪ねてくるような時間ではない。


ピンポーン…


恐る恐る玄関に向かう。


ピンポーン…


もしかして…


でも、…そんなはずはない。


だって、彼は今新しい彼女と夢の中にいるはずなのだから。


でも…


もしかして…


もしかしたら…


「……………***ちゃん…」


心臓が、どくんと鳴った。


「***ちゃん…そこにいるんだろ?…開けてくれよ。」


サンジくんだ…


ほんとに、サンジくんだ…!


急いで鍵を開けると、待ち望んでいた、金髪の王子様。


その表情が私よりも泣きそうだったから、思わず言葉を失ってしまった。


気づいたら、サンジくんの腕の中にいた。


「……………や、やだっ、離し、」

「離さねェ。」


ぎゅっと、抱きしめる腕に力が込もって苦しくなった。


「***ちゃん、……………おれのこと、嫌いになったの?」


何言ってるの?


それはサンジくんでしょ?


「でも、……………おれは***ちゃんが好きだ。」


……………うそだよ。


だって…


「誰にも渡したくねェ。……………渡さねェ。」

「……………サ、サンジく、」


ふっと、腕の力が解かれて目の前にはサンジくんの真剣な顔。


「他のやつと結婚なんて、許さねェ。」

「サ、サンジくん、あの、」

「おれは別れるつもりないから。」

「あのね、わっ!!」


急に抱き上げられたもんだから、なんとも情けない声をあげてしまった。


展開が早すぎる。


ちょっといろいろ考える時間がほしい。


なんでこんなことに。


そっとベッドに降ろされて、両手首を拘束される。


私を見下ろすサンジくんが色っぽくて、ドキドキする。


いや、ときめいてる場合じゃない。


めちゃくちゃ怒ってらっしゃる。


「どこのどいつ?」

「え?」

「浮気相手。」

「う、浮気なんてしてないよ!!」


なに言ってるの?


理解できない。


「嘘つくなよ。あんな嬉しそうなメール寄越しておいて…。」


メール?


なんのはな、


…………………あ。


状況を整理するのに必死ですっかり忘れてた。


あれだ。


「あ、あの、あれは、」


どうしよう。


とても嘘でしたとは言えない雰囲気なんですけど。


「おれが今までどんな気持ちでいたと思ってんの?」

「……………それは私の台詞だよ。」

「え?」

「浮気者はサンジくんの方でしょ?」

「……………なんの話?」

「この前見たの!!綺麗な女の人と宝石店入っていくところ!!」

「………………あ。いや、あれは、」

「それに連絡もないし!!電話してもメールしても素っ気ないし!!」

「あ、いや、***ちゃん、それはね、」

「私我慢してたんだよ?サンジくんの邪魔にならないようにって…なのにっ、なんで私が怒られるの…」


溜まってたいろんな感情が一気に溢れだして、子供のように声をあげて泣いた。


「***ちゃん、……………ごめん。そんなに不安にさせてたなんて気づけなかった…」


そう言って、細く綺麗な指で涙を拭う。


「連絡がなかなかできなかったのは、準備で休みが取れなかったからなんだ。」

「……………準備?」

「***ちゃん。おれ、自分の店持つことになった。」

「……………うそ。」


小さい頃からの夢だと、サンジくんはいつも目をきらきらさせて話してくれた。


「……………本当に?っ、サンジくん、おめでとう…!!」


ありがとう、と言ってふわりと笑った。


「ほんとはもう少し後の予定だったんだけど、…早くほしくて。」

「…お店?」


そう問うとサンジくんは静かに首を振った。


「***ちゃん。…おれと結婚しよう?」

「……………え?」

「決めてたんだ。自分の店持ったらプロポーズしようって。」


そう言ってサンジくんは愛しそうに私を見つめる。


……………私、


夢でも見てるのかな…


「おれ、***ちゃんを早くお嫁さんにほしくて…だから予定つめこんで準備してたんだ。それから…


そう言ってポケットから取り出したのは、きらきらした可愛らしいリング。


「***ちゃんが見た女の人は宝石店の店員さん。いろいろ相談に乗ってもらってたんだ。***ちゃんのイメージ伝えてさ。…おれ、***ちゃんの話してる時、すげェだらしないカオしてるみてェ。よく笑われたよ。」


恥ずかしそうに眉をハの字にして笑った。


……………どうしよう。


言葉が出ない。


幸せすぎる。


涙で歪んで、せっかくのサンジくんのカオが見えない。


「***ちゃん…どこのどいつか知らないけど、おれのほうが君を愛してる。だから、……………今から君の心を奪い返すよ。」


答えるより早く、甘いキスが降ってくる。


とりあえず、嘘を白状するのは夜が明けてからにしよう。


狼少女の夜明け


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