嘘つきたちの聖夜-Happy Merry Christmas!2012-2/2

「こんな日まで手伝わせちまってごめんな? ***ちゃん」


 シンクに置かれた大量の食器を洗いながら、サンジくんは申し訳なさそうにそう言った。


「いいんだよ、私これくらいしかサンジくんのお手伝いできないし」


 そう答えて、私はサンジくんの手元から運ばれてくる濡れた食器を、丁寧に、丁寧に拭いていく。なんてったってサンジくんが一枚一枚こだわって選んでる食器だからね!


「ほんと、いつも助かるよ。ありがとう」

「そ、そんな、こ、これくらい……」


 優しげに細められた瞳が恥ずかしくて、私は照れながら小さく俯いた。


 今日の料理はおいしかったとかルフィのお腹が風船みたいだったねとか実はルフィってゴムかなんかでできてるんじゃないかとか他愛もないことを話していると、私はふとさっきのことを思い出してしまった。


「そういえばサンジくん、あの人こんなところまで何の用だったの?」


 そう問い掛けると、サンジくんは一瞬なんのことかと考える素振りを見せた後、あァ、と思い出したように声を上げた。


「クリスマスプレゼントくれたんだ。今日会えねェからって、わざわざ」

「へェ! ……もしかして付き合ってるの?」

「いや、そういうんじゃねェんだけど……」

「あらあら、罪つくりな男だねェサンジくんは」


 おばさんのような話し方でそう言うと、サンジくんは困ったように笑う。


「そんなことねェんだけどさ」

「モデルさんで、すっごい美人だし、お似合いだと思うけど……あっ、もしかして、すっごく性格悪いとか?」

「ははっ、いや、そんなことねェよ。すっげェいい子」

「なら付き合ってみたらいいのに」

「そんなことしたら、おれの大切な***ちゅわんに寂しい思いさせちゃうだろ?」

「そっかそっか。それで、どうして付き合わないの?」

「ツレねェなァ、***ちゅわん……うーん、そうだなァ」


 泡まみれのシンクに視線を落としながら、サンジくんはこう続けた。


「レディはみんな大切だからなァ」

「……」

「一人の女だけをずっと想っていくなんて」

「……」
 
「おれには、できねェかな」

「……」


 ……あーあ。


 サンジくんは、うそつくの、下手だなァ。


 ゆらゆらと揺れるサンジくんの綺麗な瞳を見つめていると、私の胸まで痛くなってしまった。


「あァ、そうだ、***ちゃん」


 食器をすべて洗い終わったサンジくんが、おもむろに冷蔵庫を開ける。


「どうしたの? サンジくん」

「ここ、座って」


 言われるがままキッチンにある椅子に腰を掛けると、目の前に置かれたのは宝石と見まごうキラキラとした小さなケーキ。


「わ、あ……! 綺麗!」

「***ちゃん、いつも茶碗洗い手伝ってくれるから、そのお礼」

「えっ」

「他のヤツらには内緒だぜ?」


 そう小さめの声で囁くように言って、サンジくんは人指し指を口元に立てた。


 その表情に、きゅん、と小さく胸が鳴く。


「そんな、い、いいのかな。大したことしてないのに……」

「そんなことねェ、おれはいつもすっげェ助かってる。むしろこんなもんじゃ表しきれねェくらいに感謝してんだ」

「サンジくん……」

「いつもありがとう、***ちゃん」


 ふわり、笑ったサンジくんから慌てて目をそらして(だってきゅんきゅんしすぎて死にそう)私は眼下に置かれたそれを見つめた。


 私にだけ、なんて。どうしよう。……うれしすぎる。


「い、頂いてもいい?」

「もちろん! 召し上がれ、プリンセス」


 そう言われて、私は宝石箱を開けるようなドキドキした気持ちで、ケーキにフォークを刺した。


 口にいれると、私好みの甘さと酸味が口いっぱいに広がる。


「おっ、おいしい……!」

「ほんと?」

「うん! 今まで食べたケーキの中で、いっちばんおいしい!」

「ははっ、大げさ」


 そんなことないよ。ほんとだよ。サンジくんが、私のためだけを想って作ってくれたなんて……。


 最高のクリスマスプレゼントだよ。


 私の前の席に座って煙草に火をつけるサンジくんを、気付かれないようにそっとガン見する。


 ……カッコいいなァ。


 ほんと、見てるだけで、しあわせだ。


「***ちゃん」

「ん?」

「聖夜の最後に、***ちゃんと一緒にいられてよかった」

「……」

「メリークリスマス、***ちゃん」

「……メリークリスマス、サンジくん!」


 サンジくんと二人きりで過ごした初めてのクリスマスは、


 甘くて、少し苦かった。



 嘘つきたちの聖夜



 あなたも、私も、


 嘘ばっかり。


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