意外とベタで甘めです
船長は、カッコいい。
なにがってそりゃあもう、存在すべてがカッコいい。
射抜くような藍の深い瞳、細身でほどよく筋肉のついた身体、セクシーな声、曲がらない信念…
シャチやベポはおろか、あのペンギンだって船長に心酔しきっているのだから、その魅力たるや山の如しだ。
それに男の人だけじゃなくて、船長は女の人にもモテる。
そりゃあもう半端なくモテる。
どのくらいって言ったらそりゃあもう街を歩けば5秒に1回は綺麗なお姉さんに声を掛けられるほどモテる。
船長が綺麗な女の人と一緒にいるのを見るのが、私は好きだ。
だって、絵になるくらいに美しいから。
この前停泊した街で船長がご執心だった踊り子さんは、今まで船長が相手をしてきた中で***ランキングベスト3に入るくらいのお似合いぶりだった。
密かに一緒に船乗っていかないかな、なんてわくわくしてたけど、なぜかその夢は叶わなかった。
船長が本気で好きになる女の人ってどんな人だろう。
きっと、どこぞの女帝のような、倒れちゃいそうなくらいに綺麗な人なんだろうな…
その光景を想像して、一人にやにやとしたある日の午後。
―…‥
久しぶりに大きめな街に辿り着いたことで、船員たちのテンションはそれはもう最高潮に高かった。
シャチなんてスキップまじりで船を下りたら、もののみごとにはしごから落ちた。(かわいすぎる)
人数の少なくなった船は、いつもより片付けがしやすい。
いつもの倍以上の速さで自分のやるべきことを終えると、早々にシャワーを浴びてお酒と一緒に甲板へ出た。
今夜は月が綺麗だ。
こんな日はしっぽり一人で月見酒をしよう。
いつもの喧騒が嘘のような音のしない船内で、一人盃を傾ける。
遠くに見える街の明かりがとても賑やかで、ちょっとだけ寂しくなった。
みんな楽しんでるかなー、
シャチはともかく、ペンギンって女あそびするのかな、
うちのクルーはみんなカッコいいから、モテていいなー、
…………………船長は、
今日も綺麗な人と、一緒かな…
容姿がいいって、うらやましい。
だってきっと、振り向かない人なんていないもん。
まぁ、うちのクルーは容姿だけじゃなくて中身もいいんだけどね、えっへん!
私も容姿はともかく、中身を充実させて素敵な男性をゲッツしよう。
船長やペンギンみたいなカッコいい人じゃなくて、まぁシャチくらいのレベルでもいいから…
そんな、シャチに失礼極まりないことを考えながら一人酒を楽しんでいると、つん、としたアルコールの匂いが鼻を掠めた。
それと同時に、ドカリ、私のとなりに座った男性の影。
その正体に、私は目をまるくした。
「せっ、船長…!!」
「…………………。」
ここにいるはずのない我がハートの海賊団・ロー船長は、愛刀を傍らに置いてじっと海を見つめている。
その焦点が合ってないような気がして、私は不安を憶えながらまじまじと船長を見つめた。
「ど、どうされました?街は、」
「酒。」
「……………はい?」
「ん」と、かわいらしく手を出した船長は、私の横に置いてある酒瓶を顎でしゃくった。
「その酒、よこせよ。」
「い、いや、今日はもうやめたほうが…」
「…………………。」
明らかに、もはやへべれけな船長の身を案じておそるおそるそう口にすれば、一層鋭くなる船長の瞳。
その勢いに圧されて、私は素直にその酒瓶を船長の手に握らせた。
瓶にそのまま口を付けてぐいぐい煽るその姿を、唖然と見守る。
それもそのはず。
船長がこんなに酔っぱらっているのを、私は見たことがない。
ちらりと周りを見ると、他のクルーもぽかんとだらしなく口を開けたまま、船長を見ている。
その中に、これまたここにいるはずのないシャチやペンギンがいて、おそらくこんな状態になってしまった船長が心配で一緒に帰ってきたんだろうと悟った。
これはただごとではない。
あとは頼んだぞ***的な、シャチとペンギンの視線に、こくり、頷くと、私はおそるおそる船長に声を掛けた。
「せ、船長?」
「…………………。」
「あ、あのー…」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「……………つ、」
「…………………。」
「……………月が綺麗ですね…」
視線の端で、シャチがずっこけるのが見えた。
だってしょうがないじゃないか!(えな○くん風)
言っとくけど私、船長とそんなに話したことない!
ただならぬその空気と、船長と二人きりという緊張からか、だらだらと汗をかいていると、ぽつり、小さく呟く声が耳に届く。
「……………そうだな。」
「へ?」
「綺麗だ。」
「き、きれい?……………あ、あぁ…」
そうだ、月が綺麗ですねって言ったんだった。
船長も綺麗だとか、素直に言うんだ、………………な、
そこで、私の思考が止まる。
なぜなら、船長が月ではなく、私をまっすぐに見つめていたから。
初めて見るその目に、ドクンと胸が大きく高鳴った。
「***、」
「はっ、はいっ、」
「おまえは、……………惚れてる男、いんのか。」
「……………はい?」
この深刻な状況にふさわしくない船長のその問い掛けに、私は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「だから、惚れてる男、いんのかよ。」
「え、あ、い、いや、……………いませんけど…」
「…………………。」
「…………………。」
「……………そうか…」
そうぼそりと答えて、船長はふらふらと頭を揺らしながら深く俯いた。
「じゃあ、……………この前のあれはどうだった。」
「こ、この前のあれ、ですか?」
どれですかとは聞けず、押し黙っていると、船長が焦点の合わない目で私を睨む。
「この前の、あの女だよ。踊り子。」
「へ、あ、あぁ…」
「あの街で、おれはあの女とずっと一緒だった。」
「そ、そうでしたね…」
「イイ女だったろ。」
「はい。」
「そんな女が、おれを独占してた。……………どう思った。」
「ど、どうって…」
……………どうしよう。
どんな意図でこんなことを聞いてくるのか、さっぱりわからない。
も、もしかして心理テスト的な?
おれへの忠誠心を試してやるぜ的な?
「お似合いだなって思いましたよ。」
「…………………。」
「てっきり船に乗せるんだと思ってました。」
「…………………。」
「どうして乗せなかったんですか?」
「…………………。」
「え、も、もしかして、……………ふ、振られたんですか…?」
「…………………。」
そう問うと、あからさまに落ち込んだ様子の船長。
えええええ!?うそ!?
船長振られたの!?
もしかして、だからヤケ酒!?
「げ、元気出してください!」
「…………………。」
「た、たしかにお綺麗な方でしたけど、その、……………船長にはもっとふさわしい方がいます!」
「…………………。」
「世の中にはもっと素敵な女性がいますよ!」
「…………………。」
「船長がどんな女性を連れてきても、私は心から応援します!」
「…………………。」
「だから、」
「てめェ…」
「!!」
クルーとしては完璧すぎる言葉を贈ったつもりが、なぜか船長は額に青筋を立てて私をギロリと睨みつけた。
なぜ!!
「ここまで言ってなんでわかんねェんだよ。馬鹿なのかおまえは。」
「なっ、なにがですかっ、」
「妬くとこだろうがそこは。」
「……………は、」
……………はい?
「おれが他の女に盗られて嫉妬に狂うところだろうが、そこは。」
「い、いや、ち、ちがうと思います、」
「あァ?」
「そうですね!そういえば嫉妬しました!いやだな私ったら!あははははっ…」
まったく納得がいかないまま、即座に謝る。
ご乱心!!
船長がご乱心ですよ!!
助けてペンギン!
助けてシャ、
……………っていないし!
先ほどまでざわざわと賑わっていた甲板は、いつのまにか人っ子一人おらず、もはや私と船長二人きりだった。
なぜ!!なぜなの!!
「そうか、やっぱり妬いたか…」
「せ、船長…?」
「そうかそうか…」
どこか安堵したように呟きながら、船長はおもむろに私の頭を自分の方へ引き寄せる。
「せっ、せせせせせっ、船長…!!ちょっと…!!」
「安心しろ、***…」
柔らかく頭をなでながら、船長は呂律の回らない口で囁くように言った。
「おれは、おまえのもんだ。」
「……………は、」
「それから、」
大きな手で私の両頬を包むと、こつん、と私のおでこに船長のそれを合わせる。
その仕草がかわいくて、思わず胸がきゅんと鳴いた。
「おまえは、おれのもんだ。」
「せ、せん、」
「な、……………いいだろ、***…」
上目遣いですがるように、潤んだ瞳が私を見つめる。
そして、そのまま端正なカオが近づいてきた。
「ちょ、まっ、せっ、船長、」
「もう黙れよ…」
「っ、」
少しかさついた唇が優しく重なった瞬間、心の中が満たされていくのを感じた。
……………私、もしかして、
船長のこと、
唇が離れてそっと目を開けると、そこには初めて見る船長の柔らかく笑うカオ。
なぜか、涙がでた。
「***、……………月なんかより、おまえのほうがずっと綺麗だ。」
意外とベタで甘めです
あァ?『月よりおまえのほうが綺麗』だァ?おれがそんなうすら寒ィこと言うわけねェだろ。いつまでも寝惚けてんじゃねェよ、不細工が。
………………………。(お酒の力ってすごい…ぐすん。)[ 2/5 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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