06
「おいっ! ***! まだハンバーグが……!」
「エースさん! ハンバーグのことはもう忘れてください!」
未だ駄々を捏ねるエースさんの腕をぐいぐい引っ張って、とりあえず近くの公園にあった公衆トイレに駆け込んだ。
「エースさん、とりあえずそのカオ洗ってください」
「***、ここ男子便所だぞ」
「私が戻ってくるまで、ここから出ないでくださいね」
「どこ行くんだ?」
ソースまみれのカオを洗い終わったエースさんが、カオを水浸しにしながら問い掛けた。
「すぐ近くにメンズのセレクトショップがあるので、そこに行ってエースさんの洋服買ってきます」
「めん? せれく?」
頭に?を浮かべたエースさんをそのままに、絶対に出ないでくださいねと念を押して男子トイレをあとにした。
*
目的のセレクトショップに着くと、すぐにロンTの並んだ棚へ向かった。
サイズ……わかんないや。男の人の洋服なんて買ったことないしな。
エースさんの上半身を思い浮かべた。
……がっちりしてたよね。かなり筋肉質だった気がする。
比較的シンプルなデザインのものを二着、レジへ持って行く。
痛い出費だが仕方ない。給料日の後で良かった。
店員さんから洋服の入った袋を受け取ると、公園への道を走っていった。
*
息を切らしながら男子トイレ戻ると、待っているはずのエースさんがいない。
あれだけ念を押したのに……!
慌てて公園を見渡すと、少し離れたすべり台にエースさんはいた。
「おお、***! 早かったな!」
「エースさんっ! 動かないでって言ったじゃないですか!」
悪ィ悪ィと、まったく悪びれる様子もなく、エースさんがすべり台を楽しげに滑ってきた。
「エースさん、とりあえずこれを着てください」
買ってきたうちの一着を手渡すと、エースさんは意外にも素直に袖を通してくれた。
……良かった。サイズぴったりだ。
服を着たエースさんを見て、安心する。うん、普通だ。
普通の男の子に見える。
……なんだかバタバタしたな。安心したらいっきに疲れた。
ヘタヘタと、近くのベンチに座った。
これからどうしよう。とりあえずうちに帰るか。ご飯は……あ、昨日作ったチャーハンある。あれまだ大丈夫だよね。スーパーに買いに行く体力もないしな。
今後のことは、家に帰ってからゆっくり考え
……ん?
ふと視線を感じてカオを上げると、エースさんが私のカオを覗きこんでいた。
「な、なにか?」
「もしかして***……おれを探してくれてたのか?」
そう問いかけるエースさんの瞳があまりにも真剣だったので、不覚にもドキッとしてしまった。
余裕がなくてよく見てなかったけど、エースさんかなりイケメンだな。ちょっとタイプだ。
「あ、え、ええっと……はい」
なんだか恥ずかしくなって、俯きながら小さく答えた。
「……***」
「?」
エースさんの言葉が続かなかったので、不思議に思ってカオを上げた。
するとエースさんは、ニパッと笑って、「ありがとう!」と言った。
私、この笑顔に弱いな。
そんなことを考えながら、なんだか私も笑ってしまった。[ 6/35 ][*prev] [next#]
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