06

「おいっ! ***! まだハンバーグが……!」

「エースさん! ハンバーグのことはもう忘れてください!」


 未だ駄々を捏ねるエースさんの腕をぐいぐい引っ張って、とりあえず近くの公園にあった公衆トイレに駆け込んだ。


「エースさん、とりあえずそのカオ洗ってください」

「***、ここ男子便所だぞ」

「私が戻ってくるまで、ここから出ないでくださいね」

「どこ行くんだ?」


 ソースまみれのカオを洗い終わったエースさんが、カオを水浸しにしながら問い掛けた。


「すぐ近くにメンズのセレクトショップがあるので、そこに行ってエースさんの洋服買ってきます」

「めん? せれく?」


 頭に?を浮かべたエースさんをそのままに、絶対に出ないでくださいねと念を押して男子トイレをあとにした。





 目的のセレクトショップに着くと、すぐにロンTの並んだ棚へ向かった。


 サイズ……わかんないや。男の人の洋服なんて買ったことないしな。


 エースさんの上半身を思い浮かべた。


 ……がっちりしてたよね。かなり筋肉質だった気がする。


 比較的シンプルなデザインのものを二着、レジへ持って行く。


 痛い出費だが仕方ない。給料日の後で良かった。


 店員さんから洋服の入った袋を受け取ると、公園への道を走っていった。





 息を切らしながら男子トイレ戻ると、待っているはずのエースさんがいない。


 あれだけ念を押したのに……!


 慌てて公園を見渡すと、少し離れたすべり台にエースさんはいた。


「おお、***! 早かったな!」

「エースさんっ! 動かないでって言ったじゃないですか!」


 悪ィ悪ィと、まったく悪びれる様子もなく、エースさんがすべり台を楽しげに滑ってきた。


「エースさん、とりあえずこれを着てください」


 買ってきたうちの一着を手渡すと、エースさんは意外にも素直に袖を通してくれた。


 ……良かった。サイズぴったりだ。


 服を着たエースさんを見て、安心する。うん、普通だ。


 普通の男の子に見える。


 ……なんだかバタバタしたな。安心したらいっきに疲れた。


 ヘタヘタと、近くのベンチに座った。


 これからどうしよう。とりあえずうちに帰るか。ご飯は……あ、昨日作ったチャーハンある。あれまだ大丈夫だよね。スーパーに買いに行く体力もないしな。


 今後のことは、家に帰ってからゆっくり考え


 ……ん?


 ふと視線を感じてカオを上げると、エースさんが私のカオを覗きこんでいた。


「な、なにか?」

「もしかして***……おれを探してくれてたのか?」


 そう問いかけるエースさんの瞳があまりにも真剣だったので、不覚にもドキッとしてしまった。


 余裕がなくてよく見てなかったけど、エースさんかなりイケメンだな。ちょっとタイプだ。


「あ、え、ええっと……はい」


 なんだか恥ずかしくなって、俯きながら小さく答えた。


「……***」

「?」


 エースさんの言葉が続かなかったので、不思議に思ってカオを上げた。


 するとエースさんは、ニパッと笑って、「ありがとう!」と言った。


 私、この笑顔に弱いな。


 そんなことを考えながら、なんだか私も笑ってしまった。


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