04
「***? どうしたの?」
「……え?」
「それ」
となりの席の同僚が私のパソコンの画面を指さした。
「さっきから全然進んでないじゃん」
「あ……う、うん、ごめん」
30分前とまったく同じその画面を見て、私は大きく溜め息をついた。
「なんかあったの? 大丈夫? 話聞くよ?」
「う、うん、ありがとう、大丈夫。ちょっと疲れたのかな」
はははっと、乾いた笑いを浮かべながらそう答えた。
まさか昨日自分の家にいた見ず知らずの男性のことを考えてます、とは言えない。
今日は、もう朝からずっとこんな状態だ。
朝起きると、コンロの上にはエースさんのために作ったチャーハンがあった。
どうやら夢ではなかったらしい。
あんな格好でうろついて、今頃捕まっていないだろうか。
いや、捕まったほうがいいのか。不法侵入には変わりないし。
……なんで自分の家に入った泥棒をこんなに心配してるんだろう。
でも、泥棒っていっても結局なにもせずに帰ったわけだし……。
それに。
昨日の、エースさんの笑顔を思い出す。
どうも、悪い人には思えない。それに、嘘をついているようにも見えなかった。……根拠はないけど。
「大丈夫かな、エースさん」
もっとちゃんと話を聞いてあげればよかった。
一日くらい泊めてあげればよかった。
自分がどこからきたのかもわからない状況だったのに、昨日の夜はどこで過ごしたんだろう。
あんな、不審者を見るような目で、見るんじゃなかった。
出ていく前の、あのハットの奥の表情を思うと、胸がチクリと痛む。
きっと、私が不審に思ったのを悟ったんだろう。
あんなに一生懸命、いろいろ話をしてくれたのに。
まったく取り合わないで、傷つけてしまった。
なぜか時間が経てば経つほど後悔が押し寄せてきて、気付けばエースさんのことばかり考えてしまっていた。[ 4/35 ][*prev] [next#]
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