君を、ひとりじめ---Thanks 10,000---

「あっ!***ねーちゃんだっ!」


***を迎えに行って帰る途中、突如小さな男の子どもが勢いよく走ってきた。


「ひさしぶりだなっ!***ねーちゃんっ!」

「ほんとだね、元気そうでよかった!」


そううれしそうに言って、***はくしゃくしゃとその子の頭をなでた。


……………だれだ?


エースは一人、ポツンと佇んでその様子を見つめている。


「……………***ねーちゃん。」

「ん?」

「このでっかいおとこ。だれだよ、コイツ。」


呆然と突っ立っているエースを睨みつけながら、その子は***に問いかけた。


……………コイツだと?


このくそガキ、なめやがって。


「こら、コイツじゃないでしょ。このお兄ちゃんはね、エースお兄ちゃんっていうんだよ。」

「ふーん、ヘンななまえ!」

「んな…!」


こっ…!このやろうっ…!


「オイこらくそガキ、」

「エ、エースごめんね、落ち着いて。」


どうどうと、***がエースをなだめる。


くそ…


でも***がそう言うなら…


エースはイラつきをぐっと我慢して、なんとか自分を抑えた。


「***ねーちゃんっ!きいてくれよっ!おれきょうとびばこ4だんとべたんだっ!」

「へェ、頑張ったねェ!えらいえらい!」


そう笑って、***はその子の頭をよしよしとなでた。


……………………。


ふん。


箱4つ飛んだことのなにがすごいんだよ。


おれなんてそんなの軽く100段は飛べるぞ。


いまだふわふわと頭をなでている***に、エースのイライラが頂点に達した。


「……………オイ、***、」

「どうしたの、エース。」

「そろそろ行くぞ。」

「へ?……………あっ…!ちょっと…!」


そう言って、エースは***の手をぐいぐいと引いた。


「あっ!なにすんだよっ!コイツっ!」


そう叫んで、その子はエースとは逆の***の手を掴んだ。


「うるせェ、くそガキ。おれたちはガキみたいにヒマじゃねェんだ。」

「ちょ、ちょっとエー、」

「おまえがうるせェ!***ねーちゃんにさわんじゃねェよ!」

「ちょ、ちょっと待っ、」


ぐいぐいと両方から引かれて、***の身体はいっぱいいっぱいに伸ばされている。


「だいたいてめェ***ねーちゃんのなんなんだよ!さっきからえらそうにしやがって!」

「おれか?おれは***の…」


……………なんだ。


「あ、あのね。このひとは私の、その、お、おともだち!そうっ!おともだちなの!」


その不穏な空気に耐えきれず、***は横から口を挟んだ。


「ふんっ!ただのダチかよ!おれなんてな、***ねーちゃんのこんやくしゃなんだぞっ!」


そう言って、その子どもは偉そうに胸を張る。


「あァ?こんやくしゃだァ?」


その言葉に、エースは思いきり眉をしかめた。


「アホかくそガキ。てめェみてェなチビスケが***と結婚なんかできるか、バーカ。」

「ふんっ!ただのダチのくせに!そういうのをまけいぬのとおぼえっていうんだぞっ!おまえがバーカ!」


こっ…


コイツっ…!


もうダメだ、完全に頭きた。


エースは***の身体を、ぐいっと自分に引き寄せた。


「ちょっ、ちょっ、ちょっ…!エースなにっ…!」

「おれなんてな、***と一緒に住んでるんだよ。」

「……………え?」

「ちょ、ちょっとエースっ!!」


バーカ、ざまーみろ。


ショックうけてやんの。


「エースっ!なんで言うのっ!」

「なんだよ。ほんとのことだろ。」

「そっ、それはそうだけどっ…!事情があるからでしょっ!」

「言えんのかよ、その事情。」

「そ、それは…」


そう問いただすと、しゅんっと***が小さくなる。


「***ねーちゃんをはなせっ!ヘンタイうそつきやろうっ!」

「うそじゃねェよ。な?***。」

「だ、だから、それは、………えーっと、」


なんだよ、さっさと言っちまえよ。


はっきりしねェヤツだな。


おれとこのガキどっちとるんだよ。


エースはますますおもしろくなくなって、***を引き寄せている腕に力をこめた。


「ちょっ…!ちょっとエースっ!」


なんとかそれからのがれようと身体を捩ったが、エースはそれを許さなかった。


「はなせヘンタイっ!!じゃあおまえは***ねーちゃんとキスしたことあんのかっ!?おれはあるぞっ!!」


んなっ!!


「ほんとか***!!」

「へ、あ、あァ、お誕生日のときほっぺたにね。」


な、なんだ、ほっぺたか。


ちょっとあせっちまったじゃねェか。


………………………。


いや、いまちょっと想像したけどほっぺたもムカつく。


……………ん?


ムカつく?なんで?


「おまえのはいりこむスキはねェんだよヘンタイ!!わかったらさっさと***ねーちゃんをはなしやが、」

「あるよ。」

「……………は?」

「……………へ?」


***が目をまるくしてエースを見上げた。


「あるよ。***とキスしたこと、ある。」

「なっ!!」

「ちょっ、なっ、エース…!!うそつかないでよっ…!!」


あるよ。


……………寝こみ襲ったときだけど。


「……………***ねーちゃんの…」

「え?」

「***ねーちゃんのウワキものーっ!!」


うわあああんと、泣きながらその子どもは走り去っていった。


「あっ!!待って!!」


***の右手が、寂しく宙に浮いた。


「あーあ、コンヤクハキだな、こりゃ。」

「……………エース…」


カラカラと楽しそうに笑うエースを、***は睨みつけた。


「もう、…いくらお腹空いて早く帰りたいからって、子ども相手にあんなにムキにならなくても…」

「…………………。」


……………ちげェよ。


おまえおれをなんだと思ってんだ。


いや、たしかに腹は減ってるけど。


「……………それより***、おれにもしろよ。」

「へ?なにを?」

「おれだっていろいろ頑張ってるぞ。野菜切ってるし、おまえのこと迎えに行ってるし。……………あっ!昨日なんて洗濯機のボタン押したぞ!」

「う、うん。そうだね。いつもありがとう。」


そうじゃねェ!


この鈍感!


「……………もういい。」


エースはいじけたように唇を尖らせて、スタスタと歩き出した。


***はエースの言っている意味がわからず、呆然とした。


……………んだよ。


***のバカ。


鈍いヤツ。


そんなんだから襲われてても気づかねェんだよ。


もっとすごいことすんぞ。


しちまうぞ、こら。


「エース、」


いつのまにかとなりに並んだ***が、いっぱいいっぱいに背伸びをしてエースに手を伸ばす。


「いつもありがとう、エース。」


少し照れながら、***はその大きな子どもの頭をなでた。



君を、ひとりじめ



気持ちいい。***、もっと。


エース、私足つりそう…!


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