28

 ……あ、れ?


 なんでベッドあそこにあるの? でも今布団の上にいるよね。布団かかってるよね、これ。


 それに、なんか……


 身体おもっ……!


 え、もしかして金縛り?


 ちょ、ちょ、ちょっ……! こわいっ……! 助けて誰か!


 助けて、


 エース……!


 ……ん? エース?


 も、もしかして……。


 人の気配がしている後方をゆっくり振り向くと、まさに今助けを求めた人がすやすやと子どものように眠っている。


 かっ、かわいい……!


 ……じゃなくて!


「んっ……***」


 かすれた吐息混じりの声で名前を呼ばれて、思わず身体がびくっとなった。


 ね、寝言か。


 なんか今の……エロいんだけど……! ドキドキしてきた……!


 エースの逞しい身体が、背中に密着している。


 筋肉の付いた太い両腕が、私の身体をぎゅっと抱きしめていた。


 どっ、どうしよう。


 このままじゃマズイよね。


 でも、エースの身体ちょっと気持ちいい……。


 ってバカ! 変態か、私は!


「……う、ん」


 エースは唸ったのと同時に、強い力でぎゅうっと身体をしめつけてきた。


 ちょっ……! ちょっと、待っ……!





「……殴ることねェだろ」

「ご、ごめん。びっくりしちゃってつい」


 むくれたエースのほっぺたが、少し赤くなっている。


 犯人は私です。


「あ、あのまま眠っちゃったんだね。ははっ」

「ははっじゃねェよ。ったく、だから警戒心を持てって言うんだよ。全然分かってねェじゃねェか」

「エ、エースだから安心しちゃったのかな。他の人なら気を付けるよ、大丈夫!」

「……安心しすぎだ、バカ」

「え、なんて?」

「……なんでもねェ」


 どうやら完全にご機嫌をそこねてしまったようです。


「あっ! エース、今日替えのパンツ持って行く? そうすれば足だけ海に入れるよ!」


 機嫌が直るようにと、努めて明るく話し掛ける。


「……いい」

「……まだいじけてるんですか」

「ちげェよ、バカ。子どもか、おれは」


 うん。


「入りたくないの?」

「……おれ泳げねェ」

「……は?」

「だから、泳げねェの。足もつけられねェ。力抜けるから」


 お、泳げない? 海賊のくせに?


 そんなことを思っていたら、エースにぎろりと睨まれた。


 おー、こわ。


「おれはメラメラの実っていう悪魔の実を食ってるから、海には入れねェんだよ」

「め、めらめらのみ? あくまのみ?」


 えーと、えーと。


『メラメラの実』

『悪魔の実』


 うん、しっくりくる。こうだな、たぶん。


「それを食べるとなんで海に入れないの?」

「よくはわかんねェけど、実を食ったヤツはみんな海に嫌われるんだよ。弟もゴムゴムの実っつーのを食ってるし、オヤジはグラグラの実っつーのを食ってる」


 どうやらいろいろな種類の実があるらしい。


 実によって使える能力が違うと、エースは教えてくれた。


「エースの、メラメラってことは……火?」

「あァ、おれは火を自由自在に使える」


 おおっ……! なんか、カッコいい……!


「今使えるっ?」

「いや、無理だ」

「え? なんで?」

「たぶん、世界が違うからだと思う。こっちに来て一日目の夜、使おうとしたけどダメだった」

「……なんで使おうとしたの?」

「鳥焼いて食おうとした」

「……」


 ……そうか。


『ひけんのエース』


『火けんのエース』か。


 けんはちょっとまだ分かんないけど。もしかして、剣とかかな。


「でも能力が使えないなら、もしかしたら海に入れるかもしれないよ?」

「……たしかに。それもそうだな」


 エースはそう呟くと、いそいそと替えのパンツを袋に入れた。


 その背中が心なしかうきうきしていて、小さく頬を緩めた。


 下着のパンツも入れようとしていたのを、私は全力で止めたのだった。


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