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……あ、れ?
なんでベッドあそこにあるの? でも今布団の上にいるよね。布団かかってるよね、これ。
それに、なんか……
身体おもっ……!
え、もしかして金縛り?
ちょ、ちょ、ちょっ……! こわいっ……! 助けて誰か!
助けて、
エース……!
……ん? エース?
も、もしかして……。
人の気配がしている後方をゆっくり振り向くと、まさに今助けを求めた人がすやすやと子どものように眠っている。
かっ、かわいい……!
……じゃなくて!
「んっ……***」
かすれた吐息混じりの声で名前を呼ばれて、思わず身体がびくっとなった。
ね、寝言か。
なんか今の……エロいんだけど……! ドキドキしてきた……!
エースの逞しい身体が、背中に密着している。
筋肉の付いた太い両腕が、私の身体をぎゅっと抱きしめていた。
どっ、どうしよう。
このままじゃマズイよね。
でも、エースの身体ちょっと気持ちいい……。
ってバカ! 変態か、私は!
「……う、ん」
エースは唸ったのと同時に、強い力でぎゅうっと身体をしめつけてきた。
ちょっ……! ちょっと、待っ……!
*
「……殴ることねェだろ」
「ご、ごめん。びっくりしちゃってつい」
むくれたエースのほっぺたが、少し赤くなっている。
犯人は私です。
「あ、あのまま眠っちゃったんだね。ははっ」
「ははっじゃねェよ。ったく、だから警戒心を持てって言うんだよ。全然分かってねェじゃねェか」
「エ、エースだから安心しちゃったのかな。他の人なら気を付けるよ、大丈夫!」
「……安心しすぎだ、バカ」
「え、なんて?」
「……なんでもねェ」
どうやら完全にご機嫌をそこねてしまったようです。
「あっ! エース、今日替えのパンツ持って行く? そうすれば足だけ海に入れるよ!」
機嫌が直るようにと、努めて明るく話し掛ける。
「……いい」
「……まだいじけてるんですか」
「ちげェよ、バカ。子どもか、おれは」
うん。
「入りたくないの?」
「……おれ泳げねェ」
「……は?」
「だから、泳げねェの。足もつけられねェ。力抜けるから」
お、泳げない? 海賊のくせに?
そんなことを思っていたら、エースにぎろりと睨まれた。
おー、こわ。
「おれはメラメラの実っていう悪魔の実を食ってるから、海には入れねェんだよ」
「め、めらめらのみ? あくまのみ?」
えーと、えーと。
『メラメラの実』
『悪魔の実』
うん、しっくりくる。こうだな、たぶん。
「それを食べるとなんで海に入れないの?」
「よくはわかんねェけど、実を食ったヤツはみんな海に嫌われるんだよ。弟もゴムゴムの実っつーのを食ってるし、オヤジはグラグラの実っつーのを食ってる」
どうやらいろいろな種類の実があるらしい。
実によって使える能力が違うと、エースは教えてくれた。
「エースの、メラメラってことは……火?」
「あァ、おれは火を自由自在に使える」
おおっ……! なんか、カッコいい……!
「今使えるっ?」
「いや、無理だ」
「え? なんで?」
「たぶん、世界が違うからだと思う。こっちに来て一日目の夜、使おうとしたけどダメだった」
「……なんで使おうとしたの?」
「鳥焼いて食おうとした」
「……」
……そうか。
『ひけんのエース』
『火けんのエース』か。
けんはちょっとまだ分かんないけど。もしかして、剣とかかな。
「でも能力が使えないなら、もしかしたら海に入れるかもしれないよ?」
「……たしかに。それもそうだな」
エースはそう呟くと、いそいそと替えのパンツを袋に入れた。
その背中が心なしかうきうきしていて、小さく頬を緩めた。
下着のパンツも入れようとしていたのを、私は全力で止めたのだった。[ 28/35 ][*prev] [next#]
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