27

 ごろん。


 ……眠れない。


 身体を起こして、隣で眠るエースを覗き見る。


 うん、いるいる。


 私はほっと息をつくと、窓の方へ向かった。


 エースを起こさないように、少しだけカーテンを開けた。


「……眠れねェのか?」


 その声にびっくりして振り向くと、エースも身体を起こしていた。


「う、うん。なんかちょっと……」

「……そうか」


 そう言うと、エースは立ち上がって私の隣に座った。


 二人で、まんまるの月を見上げる。


「……エースの世界にも月はあるの?」

「あァ、ある。この世界でも丸くなったり欠けたりするんだろ?」

「うん、するよ」

「じゃあ一緒だ」


 そう言って、エースは柔らかく笑った。


 それがなんだか照れくさくて、エースから目をそらしてしまった。


「今頃なにしてっかなァ、みんな」

「そうだねェ。エースのこと、探してるかな」

「だろうなァ。帰ったらオヤジに怒られんだろうなァ」

「ははっ。オヤジさんって怒ると怖いの?」

「まァな。おれたちは家族だから。心配かけたら、怒られんだろ」

「そうだね。……そういえば、エースってご両親は?」


 そう訊ねると、エースの肩がぴくっと揺れた。


 あ、あれ? なんかマズイこと訊いたかな。


「あ、い、言いたくなかったらいいんだけ」

「母親は死んだ。おれを産んですぐ」

「えっ……! あ……そ、そうなんだ。ごめん」

「いや、気にすることねェ。おれはおふくろを誇りに思ってる」


 ……そうなんだ。エース、お母さんいないのか。無神経なこと聞いちゃったな。


 お父さんのことは、とてもじゃないけど聞けな


「……もし」

「え?」

「もし、***の友だちの父親が」


 そこで言葉を詰まらせると、エースは大きく息を吸った。


「大犯罪者だったらどうする?」

「だ、大犯罪者?」

「たくさん人を殺してるような」

「ど、どうするって?」

「***は、その友だちをどう思う?」


『友だちをどう思う?』


「……友だちをやめるかってこと?」

「ん? ……まァそんなとこか」


 どうして、そんなこと訊くんだろう。


 でも、なんだか、エースの声。


 小さく、震えてる気がする。


「……関係ないんじゃないかな」

「……え?」

「関係ないと思う、親がどんな人でも」

「……」

「親は親、その子はその子」

「……」










「……エースは、エースだよ」










 エースの瞳を、まっすぐに見つめてそう答えた。


 今、少しでも瞳をそらしちゃいけない。そんな気がしたから。


「……***」


 エースが、今にも泣きそうな声で私を呼んだ。


 エースは深く俯くと、聞こえないくらいの小さな声で


「やっぱり、***はお人好しだな」


 そう言った。


「そ、そうかな」

「……あァ」


 そう言って笑ったエースは、もういつも通りのエースだった。


 でも、その表情はなんだかとても柔らかい。


「オヤジにも会わせたかったなァ」

「え?」

「***に、さ」

「私に?」

「あァ、きっと気に入る」

「そ、そうかな」


 エースが慕うオヤジさん。私も会ってみたかったな。


「……エース」

「ん?」

「明日、海に行こうか!」

「え? でも***、明日も仕事だろ?」

「うん、だから夜になっちゃうけど」


 それでもよければ、と言ったら、エースは「行く!」と元気よく答えた。


 それから二人でいろんな話をした。


 エースの世界のこと、仲間のこと、弟さんのこと。


 私の世界のこと、家族のこと、友だちのこと。


 今、隣にいるエースのすべてを忘れたくない。


「……***?」


 エースが、私の名前を呼ぶ。


 その声が、とても心地よい。


「う、ん……エース……」


 そう答えると、エースがとても柔らかく笑って。


 エースに、そっとキスをされる。










 そんな、切ない夢をみた。


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