21

 恥ずかしい。


 穴があったら入りたい。


 エースは布団の上で転がったまま、今日のことを思い出していた。


 完全におれのわがままだ、あれは。


 ***にだって、生活がある。いつもいつも、おれに構ってるわけにはいかねェ。


 そうじゃなくても、***はいろいろ尽くしてくれてるってのに。


 それなのに、あんなことを言って困らせてしまった。


 エースは、乱暴に頭を掻いた。


 どうしたってんだ、おれは。


 ただ、どうしても許せなかった。


 ***も、同じ気持ちでいてくれてると信じていたから。


 限られたおれとの時間を、大切に思ってくれていると。


 だから、おれと過ごす時間以外を優先されたことが、心底気に食わなかった。


 主人を奪われて、拗ねた犬みてェだ。


「だせェな、おれ……」


 きっと、どうしようもない時だってある。今日もそうだったんだろう。


 ***が同じ気持ちでいてくれてることくらい、ちょっと考えりゃわかることだったのに……。


 エースは大きなため息をついた。


「う、ん……」


 ***がベッドの上で寝返りを打った。


 エースは起き上がると、***の眠るベッドの傍らに座った。


 ***を起こさないように、そっとその頭をなでる。


 アルコールが入っているからか、***は起きる様子もなくぐっすり眠っている。


 毛先を、指で弄んだ。


 傷んでるな。忙しいからだな、きっと。


 いつもの生活に加えて、おれの世話だもんな。


 ***は、疲れたとかそういうことは一切口にしない。


 おれが気にしないようにという、心遣いだろう。


 きっと、疲れてるはずだ。


 こんな境遇のおれと一緒にいるせいで、気も遣わせちまってるだろうし。


 そう思ったら、ますます今日の自分の言動が悔やまれる。


 エースはその恥ずかしさを打ち消すように頭を振って、***に再び視線を戻した。


 ……あ。


 ***、谷間見えてる。


 ……。


 よくよく考えたらこの雰囲気、なんか、あれだ。


 エロい。


 隙だらけの寝顔。半開きの唇。あらわになっている白い太もも。


 ……やべェ。なんか、ヘンな気分になってきた。


 そういえば、久しぶりに女の身体に触ったな。


 いや、身体と言ってもまだ髪だけだけど。


 ……まだってオイ。


 何を考えてんだおれ! ***は恩人だぞ! 恩人に対してやましい気持ちを持つなんてもってのほかだ!


 せっかくおれを信用して泊めてくれてるってのに。


 ……そういや***って男いんのか? 聞いたことねェや。そんな素振りもねェしな。


 でも、男がいたらおれを家に置くわけねェよな?


 いや、わかんねェぞ。なんたって、***だ。類い稀にみるお人好しだからな。


 しかし、この警戒心のなさには頭が下がる。


 初めておれがここに泊まった日も熟睡してたな、コイツ。


 出会ったばかりの素性も分からねェ男と一夜共にするってのに、よくぐーすか眠れたモンだ。


 ……。


 なんだか真剣に***の将来が心配になってきた。


「……エース」


 突然名を呼ばれて、ぎくりとする。


 なぜか「スイマセン」と謝ってしまった。


 おそるおそるカオを覗くと、***はむにゃむにゃと口を動かしている。


 寝言かよ……。


 幸せそうに眠る***に、思わずカオが綻ぶ。


 吸い寄せられるように、***のまぶたに、触れるだけのキスをした。


 ……これ以上は、マズイ。


 エースは自制するように頬を叩いて、自分の布団に潜り込んだ。


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