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恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
エースは布団の上で転がったまま、今日のことを思い出していた。
完全におれのわがままだ、あれは。
***にだって、生活がある。いつもいつも、おれに構ってるわけにはいかねェ。
そうじゃなくても、***はいろいろ尽くしてくれてるってのに。
それなのに、あんなことを言って困らせてしまった。
エースは、乱暴に頭を掻いた。
どうしたってんだ、おれは。
ただ、どうしても許せなかった。
***も、同じ気持ちでいてくれてると信じていたから。
限られたおれとの時間を、大切に思ってくれていると。
だから、おれと過ごす時間以外を優先されたことが、心底気に食わなかった。
主人を奪われて、拗ねた犬みてェだ。
「だせェな、おれ……」
きっと、どうしようもない時だってある。今日もそうだったんだろう。
***が同じ気持ちでいてくれてることくらい、ちょっと考えりゃわかることだったのに……。
エースは大きなため息をついた。
「う、ん……」
***がベッドの上で寝返りを打った。
エースは起き上がると、***の眠るベッドの傍らに座った。
***を起こさないように、そっとその頭をなでる。
アルコールが入っているからか、***は起きる様子もなくぐっすり眠っている。
毛先を、指で弄んだ。
傷んでるな。忙しいからだな、きっと。
いつもの生活に加えて、おれの世話だもんな。
***は、疲れたとかそういうことは一切口にしない。
おれが気にしないようにという、心遣いだろう。
きっと、疲れてるはずだ。
こんな境遇のおれと一緒にいるせいで、気も遣わせちまってるだろうし。
そう思ったら、ますます今日の自分の言動が悔やまれる。
エースはその恥ずかしさを打ち消すように頭を振って、***に再び視線を戻した。
……あ。
***、谷間見えてる。
……。
よくよく考えたらこの雰囲気、なんか、あれだ。
エロい。
隙だらけの寝顔。半開きの唇。あらわになっている白い太もも。
……やべェ。なんか、ヘンな気分になってきた。
そういえば、久しぶりに女の身体に触ったな。
いや、身体と言ってもまだ髪だけだけど。
……まだってオイ。
何を考えてんだおれ! ***は恩人だぞ! 恩人に対してやましい気持ちを持つなんてもってのほかだ!
せっかくおれを信用して泊めてくれてるってのに。
……そういや***って男いんのか? 聞いたことねェや。そんな素振りもねェしな。
でも、男がいたらおれを家に置くわけねェよな?
いや、わかんねェぞ。なんたって、***だ。類い稀にみるお人好しだからな。
しかし、この警戒心のなさには頭が下がる。
初めておれがここに泊まった日も熟睡してたな、コイツ。
出会ったばかりの素性も分からねェ男と一夜共にするってのに、よくぐーすか眠れたモンだ。
……。
なんだか真剣に***の将来が心配になってきた。
「……エース」
突然名を呼ばれて、ぎくりとする。
なぜか「スイマセン」と謝ってしまった。
おそるおそるカオを覗くと、***はむにゃむにゃと口を動かしている。
寝言かよ……。
幸せそうに眠る***に、思わずカオが綻ぶ。
吸い寄せられるように、***のまぶたに、触れるだけのキスをした。
……これ以上は、マズイ。
エースは自制するように頬を叩いて、自分の布団に潜り込んだ。[ 21/35 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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