18

「エース! ど、どうしたの?」

「おう、おかえり」


 帰宅すると、エースがちゃんと家にいた。


 どうしたのエース。なにがあったのエース。


 あんなにじっと待ってるのがキライな人なのに……!


「な、なにかあったの? エース」

「なんでだよ。べつにいいだろ、いても」


 いや、いいんだけど。全然構わないんだけど。


 なんか昨日からちょっとおかしい気がする。


 なんか変なものでも食べたのかな。


「……すぐご飯作るね」


 着替えも早々に、夕飯の準備に取り掛かる。


 今日はカレーだから、まず野菜を切ろう。


 にんじん、にんじ


 ……ん?


 気配を感じてカオを上げると、エースがジィッとその様子を見ていた。


「……今日はカレーだよ、エース」

「だいたいわかる」

「……ちゃんとお肉もいれるよ、エース」

「おれも一緒にやる」

「へ?」

「だめか?」

「い、いや、だめじゃないけど」


 そう答えるとエースはうれしそうに横に立った。


 なんだかやっぱりちょっとおかしい。


 おかしいけど、なんか、あれだ。


 ……うれしい。


「なにすればいい?」

「じゃあ、野菜切ってくれる?」


 よしきた、と張り切って包丁を握った。


 おおっと、握り方がややおかしい。


「エースって、料理したことあるの?」

「ねェ!」


 そうか。でしょうね。うん、潔い。


 私はまず、包丁の握り方から教えた。


「包丁ってこう持つのか」

「船ではだれが料理するの?」

「コックがいるんだ」


 へェ。意外とリッチなんだな、海賊って。お抱えコックがいるとは。


「コックが作るメシもうまいけど」


 エースが、野菜と格闘しながら呟いた。


「おれは、***がつくるメシの方が好きだ」

「……」

「……」

「あ、ありがとう」


 聞こえてるのかないのか、エースはなおも野菜と格闘している。


 皮と一緒に身がねこそぎ落ちているけど、見なかったことにしよう。





「おおっ! できた!」

「よしっ! 食べよう、エース!」


 エースは盛り付けながら、誇らしげに自分の切った野菜を私に見せた。


 かわいいなァ、もう。


 ……やっぱり、エースと毎日一緒にいれたら楽しそうだ。


 席について、二人で、いただきます、と手を合わせる。


 なんかいいな、この感じ。


 甘くて暖かいものが、胸によぎる。


 ……だめだな。油断するとすぐこれだ。


 それを振りきるようにテレビをつけた。


 テレビでは、主人公が過去にタイムスリップするアニメがやっていた。なんてタイムリーな。


 ついつい二人で見いってしまう。


 エースは多分タイムスリップではないけど、状況的にはかなり近い。


 なんか手がかりがあるといい


「そういえば……」

「え?」


 エースがテレビに視線を向けたまま呟いた。


「やけに眩しかったな、落ちた時。あの時はてっきりガラスの反射かなんかだと思ったんだけど……」


 テレビでは、主人公の女の子が現代の世界へ戻るために光の中へ吸い込まれていくというシーンが映し出されていた。おそらくラストシーンだろう。


 言われてみれば、なんかこういう類いのドラマとかマンガってタイムスリップする瞬間とかやたらと光ってる気がする。ドラ○もんのどこでもドアとか。


「もしかしたら、それが戻れるタイミングなのかもしれないね」

「……そうだな」


 なんとなく、二人で押し黙ってしまった。


「よ、良かったね! また手がかりが見つかって」

「あ、あァ、そうだな!」


 なぜか空気がぎこちなくなって、そのあとは二人でひたすら黙々とカレーを食べた。


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