12

 その夜、エースは眠れずにいた。


 やっぱり、船はなかったな……。


 なんとなく予想はしていたものの、もしかしたら、と、少なからず期待もしていた。


 こっちに来て、もう4日が経つ。さすがに焦りもしてくる。


 どうしたら、戻れるのだろう。


 考えれば考えるほど分からなくなる。


 落ち着け。状況を整理しろ。


 こっちにきたときのことを、もう一度思い出すんだ。


 しっかりしろ。おまえは白ひげ海賊団の二番隊隊長なんだぞ。


 己で己を叱責すると、エースはあの日のことを思い返した。





「白ひげの首を取れェェェッ!」


 春島を航海中、一隻の血気盛んな海賊船が、無謀にも白ひげの首を狙って向かってきた。


「おーおー、命知らずなヤツらだねい」


 パイナップル頭が、横目で船を一瞥する。


「よォし! 久しぶりの獲物だ!」

「宝は先に取ったモン勝ちだぞ!」

「暴れてやるぜ!」


 我が白ひげ海賊団の船員も一気に士気が上がる。


「まァ、待てよ……おれ一人でいい」

「エ、エース隊長!」


 エースは戸惑う船員を尻目に、一歩前に出た。


「身体がなまって仕方がねェ」

「し、しかしエース隊長! 相手はザコとは言え、すごい数ですよっ?」

「問題ねェよい。エースに行かせろい」


 マルコが呆れたようにポリポリと頬を掻きながら、そう言った。


「マルコ隊長!」

「よォし決まりだ! 安心しろ、宝は山分けだ!」


 そう言ってエースは炎をまとって敵船に乗り込んだ。


「火拳のエースだ!」

「首を取れェェェッ!」


 エースは、口の端を不敵につり上げた。


「おまえらにゃ無理だ……火拳ッ……!」


 数秒後、船が一隻炎に包まれた。


「ほらよ」


 エースは戦利品を床にばらまいた。


「ひゃっほう! さすがエース隊長だぜ!」

「なかなか質のいい宝だな!」


 船員がわらわらと宝に群がって、奪い合いを始める。


 その様子を呆れたように笑いながらエースは見ていたが……。


「……ん?」


 船員の足に転がっているものに目を奪われた。


 それを拾い上げると、薄汚れたネックレスのようだった。


 価値はなさそうに見える。船員たちも興味がなさそうだ。


 エースはそれを、何の気なしにポケットにしまった。





 あれからすぐに眠りについたんだ。


 ……そうだ。


 あのネックレスは……?


 エースは起き上がると、履いていたズボンのポケットを探った。


 チャリッと、何かが指に触れる。


 それをそっと引っ張りあげた。


 なんてことない、ただのネックレスだ。特別何か不思議な力があるとも思えない。


「ただの偶然か……?」


 でも、いつもと違うことをしたといえばこれくらいだ。


 仮にこれが何か関係があるとしても、何をどうすればいいのかは検討もつかない。


 エースは溜め息をつくと、ゴロンと布団に身を沈めた。


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