12
その夜、エースは眠れずにいた。
やっぱり、船はなかったな……。
なんとなく予想はしていたものの、もしかしたら、と、少なからず期待もしていた。
こっちに来て、もう4日が経つ。さすがに焦りもしてくる。
どうしたら、戻れるのだろう。
考えれば考えるほど分からなくなる。
落ち着け。状況を整理しろ。
こっちにきたときのことを、もう一度思い出すんだ。
しっかりしろ。おまえは白ひげ海賊団の二番隊隊長なんだぞ。
己で己を叱責すると、エースはあの日のことを思い返した。
*
「白ひげの首を取れェェェッ!」
春島を航海中、一隻の血気盛んな海賊船が、無謀にも白ひげの首を狙って向かってきた。
「おーおー、命知らずなヤツらだねい」
パイナップル頭が、横目で船を一瞥する。
「よォし! 久しぶりの獲物だ!」
「宝は先に取ったモン勝ちだぞ!」
「暴れてやるぜ!」
我が白ひげ海賊団の船員も一気に士気が上がる。
「まァ、待てよ……おれ一人でいい」
「エ、エース隊長!」
エースは戸惑う船員を尻目に、一歩前に出た。
「身体がなまって仕方がねェ」
「し、しかしエース隊長! 相手はザコとは言え、すごい数ですよっ?」
「問題ねェよい。エースに行かせろい」
マルコが呆れたようにポリポリと頬を掻きながら、そう言った。
「マルコ隊長!」
「よォし決まりだ! 安心しろ、宝は山分けだ!」
そう言ってエースは炎をまとって敵船に乗り込んだ。
「火拳のエースだ!」
「首を取れェェェッ!」
エースは、口の端を不敵につり上げた。
「おまえらにゃ無理だ……火拳ッ……!」
数秒後、船が一隻炎に包まれた。
「ほらよ」
エースは戦利品を床にばらまいた。
「ひゃっほう! さすがエース隊長だぜ!」
「なかなか質のいい宝だな!」
船員がわらわらと宝に群がって、奪い合いを始める。
その様子を呆れたように笑いながらエースは見ていたが……。
「……ん?」
船員の足に転がっているものに目を奪われた。
それを拾い上げると、薄汚れたネックレスのようだった。
価値はなさそうに見える。船員たちも興味がなさそうだ。
エースはそれを、何の気なしにポケットにしまった。
*
あれからすぐに眠りについたんだ。
……そうだ。
あのネックレスは……?
エースは起き上がると、履いていたズボンのポケットを探った。
チャリッと、何かが指に触れる。
それをそっと引っ張りあげた。
なんてことない、ただのネックレスだ。特別何か不思議な力があるとも思えない。
「ただの偶然か……?」
でも、いつもと違うことをしたといえばこれくらいだ。
仮にこれが何か関係があるとしても、何をどうすればいいのかは検討もつかない。
エースは溜め息をつくと、ゴロンと布団に身を沈めた。[ 12/35 ][*prev] [next#]
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