――――帰り道はまだ雨が降っていなかった





この間と違うのはちゃんと折り畳み傘を持ってきたこと。


あのビニール傘はどうしていいかわからなくて玄関の隅に置いてある。


タオルは洗って一応鞄の中に。

















――正直びっくりした。

知らない人にそんなことを言われると思ってなかったから。




それと同時に悔しさも込み上げてきた。




顔に出てたかな?

なんでわかるの?

私の気持ちなんてわからないくせに…









今にも降りだしそうな中、空を見つめた











暗い雲に覆われていても

思い出すのは彼の笑顔





なんとなく、
この前通った道を進む







あぁ…ここで会ったんだっけ…







…このビルで雨宿りしたんだ








ビルの前を通りすぎようとしたら

鼻の頭に雫が当たった









と思えば一気に唸り声を上げて激しく降り出した。


一時避難のためあの時のようにビルの下に駆け込む。









私はビルの壁にもたれ掛かり考えていた。



――この間とは違うのは傘を持っていることだけじゃない。



私のこの前支配していた空虚な気持ちが


彼を思う切なさに変わっているんだ…







それでも心は陰る



「…―だから、だから嫌いなのよ。雨は―…」















そろそろ行こうかと、
鞄から折り畳み傘を取り出して体の前で広げたとき





前のほうから水を蹴る音が聞こえてきた。

肩に傘をかけ視界が開けたと思うと






あの日の再現のように笑顔の彼が立っていた―――
















―――急に雨が降ってきたからどこかで雨宿りしよーと思って走った。

でもどうせ雨宿りするならあそこがいい。











……そう思っていたらどうやら先客がいたみてーだ。










よく見ると、あの日からずっと俺の頭から焼きついて離れない彼女の姿があった。












赤い折り畳み傘から出した顔は目を真ん丸くさせ
お互いに見つめ合う

彼女も俺も何も言わずにいた。








今回も沈黙を破ったのは彼女。









彼女は肩にかけてた鞄に手を伸ばし、

柔軟剤の香りが残るもので俺を包んでくれた







「――あのときは、ありがとう」








背伸びをしながら遠慮がちに両手で俺の頭をふいてくれる

窮屈そうな姿勢を見かねて少し屈んだ





「…タオルやるって言ったのに持ち歩いてたのか?」


「…うん。傘…は?」


「今日は忘れた…」


優しく髪、肩、背中を擦るような感触が心地いい――――














―――雨が上がったら綺麗な空になるって言葉、信じていいかな。私の心も晴れるかな。


彼の頭、肩、背中をタオルで拭きながら意を決する。




「…ねぇ、今日は部活ないの?」


「あぁ。」


「…――じゃあさ、傘…貸してあげようか?

………家に透明のビニール傘があるから。」

これで終わりにしたくない。

玄関の隅で壁にもたれかかっている傘に希望を託す


近距離で彼の綺麗な瞳が私を射ぬいた―――――












――――彼女の言葉の意味を考えた。

言葉に隠された真意を辿る。


「……そうすっかな」


彼女の揺れていた瞳が輝きを増した。












彼女は先程たたみ直した傘を広げた


今傘はひとつ

俺と彼女をつなぐ傘





俺は傘を持つ彼女の右手を引き寄せ



開いた傘で雨音を遮るかのように地面に垂直にする



彼女の左手と俺の右手は自然と絡み合い



俺達は吸い込まれるように唇を重ねた――――












――――彼が隣にいる
実はまだ名前も知らない人。

でも本当の私に気づいてくれる人。



「…――少しは雨も好きになれそうだなぁ…」

彼の髪の毛から覗く雨雲を見上げる


きっとあなたの隣なら本当の笑顔も涙の私も見せることができる

そう思った






私の肩と彼の腕が触れあう

その身長差にどきまぎを隠せない

小さい傘からはみ出した彼の左肩

彼の優しさに笑顔が零れる




雨でも心が温かくなることを知った


これが私の初めての、相合い傘。












end


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