「ナギサくんの来たかったところってここ?」

「うん!僕あまり来たことないんだよね。学生って言ったらハンバーガーじゃない?」


そうなのかな…と思いつつ、マクドナルドに足を踏み入れる。

結構人多いけど、大丈夫かな?





私たちは注文をした商品を持って席に座る。

ナギサくんは相変わらずわくわくした表情で笑っていた。


「ふふ、なんか本当に放課後デートって感じだね!」


あどけない笑顔につい私も笑ってしまう。

「そうだね!ナギサくんいつも忙しいからゆっくりする暇ないでしょ?」


なんて返すと、今までの表情が嘘みたいに暗くなった。




「**…いつもさみしい思いさせてごめんね…」

「えっ…!?そんなつもりで言ったわけじゃ…っ」





彼は自分の手を私の手に重ねて強く握った。


「僕は…」




「あれ?**?」



ナギサくんが何かを言いかけたとき、男の人の声が被さる。


後ろを振り向くとそこにいたのはタケトくんだった。



「タケトくん?…わっ!」

「なに俺の知らないところで他の男といちゃついてんだよー!」

ぽんと私の肩に手を回して密着してくる。手をやんわりと外そうとしたとき、


「神崎くん…あまり僕の**に触らないでほしいな」




椅子から立ち上がって私を引っ張った彼は、今までに見たこともない顔でタケトくんを睨み付けていた。

タケトくんはすごく不思議そうな顔をして、

「え?……あ!お前市ノ瀬だったのかよ!知らないやつだと思ったから…ワリ!」





タケトくんの言葉も最後まで聞かずにナギサくんは私の手をひいて外へ飛び出した。




何も言わず、黙々と私の前を歩く彼。

後ろから見るナギサくんはいつもよりも大きく見える。


いつも横に並んで私の歩幅に合わせてくれてたんだ

と、彼のやさしさに今さら気づいた。



「ナギサくん…?」



彼は暗い細い路地に私を引き込み、私の背を壁に押しつけて両手を私の顔の横に置いた。



いつものナギサくんと違う…

どうして…?

怒らせちゃった?


その彼の行動が少し怖くてうつむいていると、顎を掬いいきなり激しく私の唇を奪う。





「んぁ…ふ、…ん…」



何度も角度を変えてほんの少しの隙間から私の口をこじ開けて侵入する舌。

激しく絡みついてまるで私を食い尽くすかのように口内を這い回る。







しばらくして身体が離れて顔を見上げると、

彼の顔は怒りと悲しみの入り交じった

泣きそうな複雑な表情を浮かべていた。






「**…神崎くんとは何もないんだよね…?」

「え…?え!?あるはずないじゃん!」






思いもよらない言葉に私は必死に首を横に振って否定する。

すると、ふわりと温かいぬくもりに包まれた。




「よかった…!**僕に愛想ついちゃったかと思った…ほとんど一緒にいれない僕よりもいつもそばにいれる人の方がいいのかも、とか思って」


私の上に安堵のため息とともに降ってきた。


「そんなことあるわけないよ!私が好きなのはナギサくんだし!好きだから、会いたくてもガマンできるの…!」






私がそう言うと、さらに腕に力が入った。

ナギサくんの腕の中は心地よくてそのまま身を任せる。






急に真剣な顔付きになって私を見下ろす。


「でもね**…、神崎くんみたいに**を狙う人はたくさんいるから気をつけて。僕はいつも一緒にいられないから気が気じゃないんだよ…」



そんなことないよ…と思ったけれど、

その眼鏡の奥の強い眼差しに見つめられたらひとたまりもない。

少し恥ずかしくなってうつむいてしまう。

「うん…」

「あ!その顔!絶対僕の前以外ではしちゃダメだからねっ!**は僕のものなんだから!」


あまりにも真剣に言うもんだから私はおかしくなってハーイと返事をした。




不安だなぁ…

なんて彼が珍しく不満をこぼし、また指を絡めて見つめあう。



クスクス笑いあいながらまた唇がやさしく触れあった。









私は帰り道、さっきの言いかけた言葉を聞いてみた。


「ナギサくん、さっきなんて言おうとしたの…?」


ああ、あれ。

と言って私にそっと耳打ちをした。



「この先仕事がもっと忙しくなっても僕は**を離す気はないから。だから左手の薬指は僕のために空けといてね」


ちゅっとリップ音を立てて繋いだ私の左手の薬指にキスを落とす。

思いもよらぬ愛の告白に私の体温は急上昇。

いたずらっ子のように笑う彼はとても男らしくて美しかった。



私は何も言えずにいた。



その代わりに返事を指に込めて

手に力を入れて握り返す。





『絶対に離さない』





意志が宿ったあたたかいあなたの手。

この手になかなか触れることはできない。



けれど今絡んでいる私たちの指先は、

きっと永遠にほどけない

赤い糸のようにいつでも繋がっている。








end





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