そんな中、急遽決まったアメリカ修行。
俺のせいで**ちゃんにそんな悲しい顔をさせているのはわかっていた。
「がんばって来てね…」
と笑う顔には覇気がない。
誉だったらそんな顔させないのかな…?
誉が他人のものに手を出すなんてヤツじゃないのはわかってる。
でもあんなところ見たら、やっぱり不安なんだよ。
他の男なら**ちゃんを繋ぎ止めとく自信はあるんだ。
けれど。
誉が本気になったら俺はきっと太刀打ちできない。
そんな不安を押し隠すように**ちゃんを力強く抱きしめる。
アメリカでも頑張ってやっていけるようにって。
「**ちゃん、ごめん…俺、行ってくる…」
「待ってるね…行ってらっしゃい」
向こうに行ってからの**ちゃんとの電話に誉という名前がたまに出てくるようになった。
それは俺に不安と焦りを募らせることとなったけれど、**ちゃんからの電話が嬉しくて素直に聞いていたんだ。
ある日を境にぱったりと連絡が途切れ、俺の心は崩壊寸前。
何があったかなんて、こんな遠い場所からはわからない。
そんなとき、俺の携帯に一本の電話。
ディスプレイには『誉』という表示。
「もっもしもし!?」
勢い良く出た電話に不機嫌な声が返ってくる。
『完治、煩い』
「俺に…用があったんでしょ?」
『お前こそ聞きたいことがあるんじゃないのか?』
なんだよ、
なんでもわかってますって言う口調で…。
「……」
『教えてやろうかと思ったけど聞かないならやっぱりやめた。じゃあな』
「えっ!?ちょ、ちょっと待って、誉!」
背に腹は変えられぬ。
俺のからっぽの頭にはその言葉が浮かんだ。
『…なんだ?』
「あ、あの…**ちゃんどうしてる…?」
メールをしても、電話もしても返ってこない。
もう5日は経とうとしていた。
『やっと聞いたな…。アイツ…なんか勘違いしてるぞ』
「えっ、勘違い!?」
『大方お前とお前のマネージャーの間になんかあったんじゃないのかってな』
電話ごしに聞こえた呆れた声。
「!! なんだそれ!なんでそんな…」
『知らないな。教えてやったからな』
ブツッと切られた電話。
なんで誉がそんなこと知ってるんだ…?
**ちゃんは誉を頼ったのか?
いや、それよりも俺のせいで**ちゃんを悲しませてる…!
アメリカで久しぶりに会った**ちゃんは、少し痩せていた。
誤解を解くと、**ちゃんにはいつもの笑顔が戻る。
この笑顔を誉が支えていたかと思うと、少し胸が傷んだ。
「…ね、誉から電話あったんだけどさ。**ちゃん誉に相談したの…?」
「あ…。学校の帰りに偶然会ってね、酷い顔って言われたの」
誉…、小学生じゃないんだからさ…
「でも口は悪いけど誉くんって優しいよね…。こうやって完治くんに連絡してくれるんだもん」
それは、**ちゃんが好きだからだよ…
「完治くんのこと大切なんだろーね!」
「えっ!オレ!?」
意外な言葉にすっとんきょうな声をあげた。
「誉くん言ってたよ?完治はできるのにやらないだけだって。それに今の完治はお前を裏切るようなことしない…って。
せっかく完治くんがやる気になってるのに、私がぐずってたら心配でなんも手がつかないだろうからって電話してくれたんだよ、きっと。
完治くんのことよくわかってるんだなーって私、誉くんに妬いちゃいそうだったもん」
本当なら、俺以外の男のことを嬉しそうに話す**ちゃんにどす黒い気持ちを持つはずなのに。
逆にじんわりと胸の奥があたたかくなるのは、誉のことだからかな。
なんか、もういいや。
誉にコンプレックスを抱き、
ヤキモチを妬いた自分が恥ずかしい。
俺は俺だし、誉は誉。
「**ちゃん、寂しい思いさせてごめん…。俺、頑張るから。誉にも誰にも負けないくらいカッコよくなるから…」
「完治くんはカッコいいよ!私は完治くんが好きなんだから」
誉、ゴメン。
やっぱり**ちゃんは渡せねーや。
こんなふうに俺を好きだって言ってくれる人、もういねーよ。
やりたいこと、見つけれたんだ。
それは**ちゃんのおかげなんだ。
今度こそ、俺、頑張るから。
誉が言った通り、がむしゃらにやってみるよ。