小さなため息を吐き、パタンと後ろ手でドアを閉めた。


「あ、**ちゃん」


突然かけられた一磨さんの声に私の身体は硬直する。


「亮太知らない?」

「え、あ、見てない、です」

「だよなー。ありがと!じゃあね!」


ぶつぶつ一人言を言いながらすぐに離れて行った一磨さんを見て胸を撫で下ろした。
辺りをキョロキョロ見渡して背中にある私の楽屋のドアに手をかける。


「…もう、行ったよ?」

「ホント?」

「うん」


助かったー!と言って私の手首を引っ張り込んでドアの鍵を締める。

いたずらに笑う亮太くんの考えることは相変わらずわからない。



レッスンさぼるなんて、亮太くんらしくないよね…。

何かわかるかもしれないと思って亮太くんの瞳の奥をじっと見つめた。

そんな私に亮太くんは困ったように笑う。


「…俺がレッスンさぼるなんて、って思ってる?」



私の考えを全て読み取った亮太くんは私の髪を撫でた。

あ、その手、久しぶり…。



「うん…どうしたの?」
「ん?ちょっとねー」



そう言うと亮太くんは私を抱きすくめた。

急に強くなる爽やかな亮太くんの香りに私の心臓は早くなる。

それと同時に込み上げてくる不安。

いつもと違う行動の亮太くんが心配になる。



「…どうした、の?」

「ん」


小さく相槌をして私をさらに抱き締めた。


少し、痛い。

二人の間に隙間もないくらいきつく抱き締められる。

私の肩口に顔を埋める亮太くん。

息が、出来ない。

苦しい。

亮太くんの痛みをわかってあげられなくて苦しい。


ねぇ、亮太くんの襟足しか見えないよ。

今どんな顔、してるの?



「…うん」

「…?」

「充電完了〜!」


痛いくらいに抱き締められた身体は意図も簡単に離された。

私に微かな温もりを残して最後に右手が離れてく。



嫌なことがあったことくらい、私にだってわかる。

でもそれを亮太くんは言わない。

なんとか自分の中で昇華しようとする。

頑張り屋さんの亮太くんだから、なんでも一人でやろうとするのはわかる。


でも、今のその笑顔は素の亮太くんじゃなくって、『芸能人』の笑顔で。

そんな顔をさせてしまう私はなんだかもどかしくってやるせなかった。



「…ずるい」

「何がー?」



そうやって私に心配かけるくせに勝手に立ち直ってるとことか。

もっと話して欲しいって思うのになかなか本音を言わないところとか。

すぐになんでもその笑顔の下に隠そうとするところとか。


頼ってくれてるのかくれてないのかわからない。

それが悔しくって悔しくって。

今度は私から亮太くんの胸に顔を埋めた。



「…どうしたの?」

「…今度は私が充電する番だもん」

「……」



亮太くんは無言のまま、また背中に手を回してきつくきつく抱き締めてくれた。


亮太くんも私のこと少しは心配すればいいんだ。

そんな意地悪いこと思ったけど。

亮太くんの胸から直接伝わってくる心音の速さと、私の頭を撫でるリズムが心地よくて私は頬を擦りつけるように抱きついた。

お互い忙しくて久しぶりに触れるぬくもりは嬉しさだけじゃなくちょっと切なかった。








「…充電終わった?」

「…まだ、もうちょっと…」


困らせるのはわかってたけれど、まだ離れたくなくて背中の服を掴んだ。

私を撫でていた手が止まり、少し身体を離される。


レッスンさぼるなんて言ってたけど…やっぱりもう行くのかな。

…困らせてごめんね。


そう思ったら悲しくて、私は俯いた。

瞬間、ふわっと大きな手のひらが私の頬に触れて上を向かされる。



「…こっちのほうがよくない?」



いたずらっ子のように大きな瞳を細めて笑う亮太くんが瞳いっぱいに映って、私は自然に目を閉じた。



唇に触れるぬくもり。

それは少しずつ深くなり体温があがる。

片腕で私の腰を引き寄せてもう片方の手は私の頬を撫でた。

いつもは可愛い亮太くん。

私に触れる手はやっぱり男の人だと感じる。

…離れたくない。

縋るように亮太くんのシャツの胸元を掴むと、ゆっくり離れて行った。




「…どっちがよかった?」


呼吸を整えてるとニヤッと笑ったいつもの亮太くんがいて、なんだかしてやられた感じがして悔しい。

でも今は自分に正直になる時。


私は少し背伸びをして亮太くんの唇に軽く触れた。



「…こっちのほうが、いい」



一瞬真剣な表情になり、かち合った目が優しくふっと笑った。



「…今日は素直じゃん」

「…亮太くんこそ」

「俺?俺はいつも素直だけどー?」


クスッと無邪気な笑みを見せる亮太くんは、私の心をさらってゆく。


…もう、いつもの亮太くんに戻ってる。


意地っ張りな亮太くんは、なかなか自分をさらけ出さない。

きっと自分を圧し殺すのに慣れてしまったんだ。

それでもつらいことがあった時には私のところで羽を休めてくれる。




自分のことを器用だと思ってるけれど、ホントは不器用な亮太くん。

そんな亮太くんがたまらなく愛しいのに、うまく気持ちを表わせない私も不器用だ。



似た者同士の私たちは


…素直になるのも一苦労なんです。




「やっぱもうちょっとこうしてよ?**ちゃん抱き締めてると安心する」

「…うん、離さないで」

「ホントかわいー」

「…亮太くんこそ」

「…そんなこと言っちゃうんだ」

「…ふんだ」

「ははっ!かーわいー」










end





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