どうしよう、どうしよう。
**がなんか怒ってる。オレ、なんかしたっけ。冷蔵庫に入ってた**のプリン食べちゃったのがバレたとか?勝手に**の部屋入ったことか?あー、あとは借りてた教科書にラクガキしたのとか?思いあたることが多すぎてわかんねェ…。
「な、なぁ、**?」
「なに、佑?」
「や、あの」
**の顔、無表情なんだけど。なんでだよ、いつもなら笑って答えてくれるのに。ヤベー、マジでオレなんかしちゃったのか?
「用ないなら部屋行くけど…」
「ちょ、あ、きょ、今日の宿題一緒にやらねーか?」
「宿題ってあったっけ…あ、」
「な?今日数学の宿題あっただろ?」
「私、授業中にやったからもう終わってるよ?」
「な、ナニ!?そうなのか?じゃあ俺にも、」
「自分でやらないと意味ないよ、佑」
「う…」
ピシャリと言われてオレは黙ってしまった。いつもの**なら教えてあげるから一緒にがんばろ?とか言ってくれるのに。
「ごめんね、佑。私もう寝るね?」
「え?もう?」
「うん、おやすみ」
寝るったって今まだ22時だぜ?驚くオレにお構い無しでおやすみと告げた**は、宿題頑張ってね、といつもよりも覇気のない笑顔で俺の頭を撫でて階段を上がっていった。
「うーん、どういうことなんだろ?」
オレに怒ってたんじゃなかったのか?怒ってたらあんなふうに頭撫でないよな?ただ機嫌が悪いだけなのかな。
「どうかしたの?」
「わっ!梅!驚かすなよ!」
あら、ごめんなさい、と言ってにっこり笑った梅がオレの背後から姿を現した。1人で考えててもオレの脳ミソだとわかんねーから、冷蔵庫から飲み物を取り出してコップに注いでいる梅に聞いてみた。
「なぁ、梅ー」
「なぁに?」
「**の様子おかしいんだけどよー、オレなんかしたかな…」
「**ちゃんの様子?」
「なんか怒ってるみたいなんだけどさ、」
「…ああ、」
「!やっぱりオレのせいか!?なぁ、梅!」
「ちょっと、佑、落ち着いて」
俺が言ったことにピンと来た顔をした梅に詰め寄れば、苦笑されながら肩をポンと叩かれた。
「佑のせいじゃないわよ、きっと」
「ほ、ホントか!?」
「**ちゃん怒ってたの?」
「んー、なんつうかイラついてた感じ」
「佑には笑ってくれた?」
「ほとんど無表情だったけど最後はちょっと笑ってたかな?」
「ああ、なら大丈夫よ!」
自信満々に頷いた梅はちょっと待ってなさい、と俺に言ってケトルをコンロにかけた。梅の後ろから興味津々で顔を覗かしていると危ないから座ってなさいと一喝されてオレは大人しく座っておくことにした。だって、梅怒ったら怖いし。
「ハイ、これ**ちゃんに持って行ってあげなさい」
「これ、なんだ?」
なんかピンクっぽいオレンジ色してる液体を覗きこむ。くんくんと匂いをかげばよく知らない不思議な匂いだった。
「これはね、ローズヒップティーよ」
「ふーん、うまいのか、コレ?」
「うーん、紅茶だから佑には合わないかもしれないわね」
「オレ、紅茶よりコーラのほうが好きだぜ!」
「そうね、佑にはコーラがあってるわね。ほら、いいから**ちゃんに持って行ってあげたら?」
うん、梅が言うなら、と思って大きく頷いた。梅ってなんでもわかるからスゲー頼りになる。トレイに乗せて食堂を出ようとすると梅が思い出したように声を上げた。
「**ちゃんが許してくれたら、お腹さすってあげなさい」
その意味がよくわかんなかったけど、とりあえず頷いて階段をのぼった。**、まだ起きてるかな。カチャカチャと音を立てながら部屋の前で止まる。
「**ー、入るぞー…」
トレイを片手にノックもしないままいつものようにノブを回してそーっと覗くと今まさにベッドに入ろうとしていたとこだった。
「佑!?」
パタパタオレのとこまで走ってくるから、やっぱりオレのせいじゃなかったことを確信する。ふわっと香るシャンプーの匂いにちょっとくらっと来た。
「はい、**!ローズヒップティーだってよ!」
「え、と、」
「梅がコレ持ってってやれって言うからさ!」
「そっか…ありがとう、佑」
なんか久しぶりに見た気がするな、その笑顔。はにかんだよーな、かわいい**の顔。今日の**はずっと仏頂面ばっかりだっから。
**はオレからトレイを受け取るとベッドに腰掛けて、佑も来てって言ってくれた。それが嬉しくて勢いあまってボフンとベッドにダイブすると**の身体が宙に浮いて危ないでしょ!と怒られた。
「…あたたまるー」
「うまいか?」
「うん、私紅茶好きだし」
「ふーん、オレも今度飲んでみようかな」
「え、佑が?」
「うん!**がうまいって言うなら飲んでみてーし!」
そう言うと嬉しそうに笑ってくれた。うん、やっぱり**はそうやって笑ってたほうがカワイイ。
「なぁ、今日はどうしたんだよ?」
「…え」
「ずっと怒ってただろー?」
「あ、うん、いや、あの」
「オレ**のこと怒らせたんだと思ってたんだけど、違うんだよな!?」
「え、佑のせいじゃないよ!!ちょっと、ね…」
ティーカップを持ったまま黙ってしまった**の顔はちょっと赤かった。なんで赤くなるんだ?オレは首を傾げながら、さっき梅に言われたことを思い出した。
んーと、お腹って言ってたけど目の前に**の手があるから腰でいいかな。うん、ま、いっか。
「ゆ、佑!?」
「ん?」
「や、な、何して」
後ろに手を回して腰をさするとびっくりして恥ずかしそうにオレのことを見上げる**。あれ、やっぱりお腹のほうが良かったかな。
「梅がなんかお腹さすってやれって言ってたんだけどよ、目の前に手があったから腰でいいかなって思ったんだけどダメだった?」
「えっ…」
「あれ、梅になんかまだ言われた気が…」
うーんと唸りながらそのまま手を動かしていると、**はティーカップをサイドテーブルに置いてコロンと横になった。
「ん?眠くなったか?」
「ううん、佑、手貸して?」
「?」
オレの手を取って**は自分の腹にくっつけた。そして目を閉じてじっとしている。俺はどうしていいかわからなくて、とりあえず**の腹をゆっくりさすった。
ふにゃっていう腹の感触が、オレの熱を上げる。だっていつも触ってる**の肌が薄いパジャマ越しにあるってさ。襲ってもいいのかな、コレ。
「佑の手、あったかいね」
「そ、そうか?」
「うん、痛みがやわらぐ」
「えっ!痛み!?」
「…あ、」
なんだよ、どっか痛いのか!?だからずっと笑えなかったのか?ずっと、我慢してたのか?
オレがそうまくし立てると**は罰が悪そうな顔をして黙ってしまった。なんだよ、言ってくれたっていいじゃんか。オレ、なんも気づけなかった…。
「**、腹、痛いのか…?」
「…う、うん、でも、佑のおかげでだいぶ楽になったよ。ありがとね」
「おう!でもよ、薬飲まなくていいのか?拾い食いしたら危ねぇじゃん」
「……佑、私は佑じゃないから拾い食いなんてしないよ」
「えっ!違うのか!?じゃあなんで腹痛いんだ?」
「……」
**は眉を下げてずっと黙ったままだった。本当はすっげぇ聞き出したいけど、**が言いたくないんなら聞かないでおこうと思った。だって**の嫌なことしたくねぇし。
誤魔化すように、にって笑えばやっと**の顔が和らいでオレもほっとした。
「佑…ごめんね?」
「ん?なにが?」
「いろいろと。心配とかかけちゃって…」
「なんだ、そんなことか。気にしてないしよ、**が元気になればそれでいいし」
「…うん、ありがとう」
「おう!早く元気になれよ!」
ぐしゃぐしゃと髪を撫でれば、文句を言いながらも嬉しそうな**がいてオレも嬉しくなった。早く腹痛いの治んねーかな。そしたらイチャイチャできんのに。
「あ、もう11時すぎてる…」
「ん?ホントだ」
「佑、もう、大丈夫だから」
「そうか?オレはまだ**と一緒にいてぇな…」
「…!」
オレ、**がこういうふうに上目遣いでおねだりされるのに弱いって知ってるんだよな!思った通りに**は言葉を詰まらせて頭を悩ましている。
「なぁ、**、ダメ?」
「う、うーん…」
「いいだろ?別にナニするわけでもないしよ」
まぁ**は病人だし、そこんとこはわきまえてるつもりだ。好きだから一緒にいたいって思うのは当たり前だろ?って言えば**の顔からボン!と湯気が出るくらいに赤くなった。
「**かわいー」
「ちょ、佑ヤメテよ!」
「なんで?」
「髪ぐしゃぐしゃになるじゃない!」
「いいじゃん、もう寝るんだし」
そう言って布団に潜り込めば、**はオレの肩を押してを追い出そうとする。なんだよ、ケチ。いいじゃんかこれくらい。拗ねたオレは**を抱き締めた。**はやわらかいなー、やっぱ。早く治れ、腹痛!!
「ゆ、佑!」
「なんだ?」
「なんだじゃなくって…」
「いいじゃん、**は一緒にいたくないのか?」
「……一緒にいたい、ケド」
「じゃあいいじゃん。大人しくしてろよ?また腹痛くなるぞ?」
「…うん、わかった」
結局はいつもこうやって折れてくれる**にオレは我慢出来なくってキスをした。別に腹に影響ないからいいだろ、このくらい!唇を離したあとにそう言うと、オレたちは顔を見合わせて笑った。
やっぱ**のその顔見れねぇと落ち着かない。**がいつもの調子じゃないと、オレなんも考えられなくなるし。**が笑ってくれて、やっとオレも笑えるんだ。
「あ、ねぇ、佑?」
「ん?」
「…宿題は?」
「………あ、」
君しか見えなくて
「**ー!次の時間数学だから宿題見せてくれ!」
「佑、」
「今度からはちゃんとやるから、な?」
「……」
「サーンキュ!」
オレはいつだって**が一番だから、宿題なんて二の次なんだ。
なんて言ったら**に真っ赤な顔で怒られちった。
ホントのことなのになぁ。
end
女の子痛です。伝わったのかな…。
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