コンコン、と控えめなノックがして、俺の耳はぴくりと動いた。カチャ…とゆっくり開いた扉から見せたのは俺のかわいいかわいい**ちゃん。
「こんにちはー!」
「**ちゃーん!!!」
ガバッと後ろから抱きついた。そんな俺に君は耳を赤く染めて少し抵抗する。
いいじゃん、俺ら付き合ってるんだし。
最初は抵抗してたけど、俺が絶対に離れないとわかって諦めたみたい。俺に抱きつかれたまま、差し入れ持ってきました!なーんてみんなの前でクッキーの入った紙袋を掲げる。
「**さんが焼いたの?」
「はい!」
「食えるのか?」
「海司は食べなくていいよ」
「あー!ちょ、俺も食うって!」
「…68点」
「やった!前より上がりましたよね!」
「でもまだまだだな。今度この俺様が徹底的に教えてやる」
「…や、あの」
「コラ、昴。脅しはやめろ」
「あ、桂木さんお疲れ様です。クッキー焼いて来たんでよろしければどうぞ」
「ああ、これはすみません。それではひとつ…」
「そらさん?そらさんは食べないんですか?」
抱きついたままの俺のほうへ体を捩ってクッキーを一枚差し出した。
俺はこの状況に不満爆発で。男ばっかりのこの部屋に来ちゃったことに、俺の心は落ち着かない。
「そらさん?」
「あ、食べる食べる!」
差し出された手を引っ張ってクッキーをそのまま君の指からパクっと食べると、それはもう真っ赤になっちゃって笑ってしまった。
だってここまで**ちゃんを真っ赤に出来るのは俺だけでしょ?
「…そらさんのバカ」
「えーなんか言ったー?」
「もう、いいです。そらさんが笑ってくれたから」
「…へ?」
あれ、俺笑ってなかった?いつも笑顔でいようとしてたんだけどな。
そんな俺に気づいた海司はからかうようにニヤニヤしていて、瑞貴が代弁するように俺に言った。
「そらさん、**さんが来てからずーっと目つり上がってましたよ」
「マジ!?」
「男のヤキモチはみっともないっすよ」
「うるせーよ!**ちゃんは俺のなの!!誰にも渡さないからな!」
ぎゅうっと抱きしめると、**ちゃんはますます赤くなって体を小さくした。
「あ、**さん真っ赤だ」
「俺が触ったらもっと赤くなるか?」
「あー!だからキャリア触んないでくださいって!!」
隙を見ては**ちゃんに触ろうとするキャリアをささっとかわす。
だから、こんなとこに**ちゃんを連れてきたくないんだ。みんなが**ちゃんを狙ってるなんて当の本人は全く気づいてないんだから厄介なんだよなぁ。
「班長!少し会議室借りまーす!」
「あっ、おい…」
もうこれ以上みんなの前に**ちゃんを置いときたくなくて班長の返事を聞く前に会議室に滑りこんだ。
「あー、やっと二人きりになれた」
「…もう」
さっきまでずっと後ろから抱きしめてたから、今度は真正面から抱きしめた。あー、癒されるー…。
顔が見たくなって覗き込むとピンク色に頬を染めて上目遣いで俺を見ていた。
なんでこの子はこういうことを平気でやるんだよ。平常心が保てないじゃんか。
「なんでそんな顔してんの?」
「…え」
「キスしたくなっちゃうじゃん」
俺の言葉に熱が上昇したようにみるみるうちに顔が赤くなっていく。っていうかキスするけどねー。
片手で顎を掬って甘い唇にキスをした。
開いた隙間から**ちゃんに侵入すると、ココアクッキーのほろ苦い味がする。それでもちゃんと甘くて…。
さっき一枚しか食べれなかった分、じっくりと味わう。
やっぱり久しぶりだからちょっと抑えが効かない。息が続かない**ちゃんは俺の胸をトントンと叩いて、それを合図に唇を離した。
「…大丈夫?」
「〜っ!」
「ははっ!**ちゃん真っ赤!」
「もう!そらさんってば!」
さっきの名残のうるうるした涙目で俺を睨む。それって逆効果なんだけどなぁ。
「**ちゃんがいけないんだよ。海司たちと仲良くしてるから」
「えっ?」
また俺は軽くその小さな唇に口づけを落とした。
「他の男に**ちゃんを見せたくない…」
「そらさん…」
「さっきだって海司たちと仲良くしてたの見たら、俺腹立ってさー」
「…思ったんです」
「ん?」
「差し入れを持っていけば、そらさんに会える口実ができると思ったんです…」
「**ちゃん…っ!俺っめちゃくちゃ嬉しいっ!!」
思わず**ちゃんに抱きつくと、小さな悲鳴をあげた。
それって俺に会いたいって思ってくれたってことだよね?俺ばっかり会いたいんだと思ってた!
なんて抱きしめたながら言うと、君は怒って拗ねたように呟いた。
「私だって会いたかったんです!そらさん仕事で忙しいし、こうでもしないと会えないんだもん…」
そんな子供が拗ねた口調で言う君がすごく愛しくなる。俺は**ちゃん頭から足先までじっと見た。今日の**ちゃん、いつもよりもかわいいんだよね…。
「じゃあ俺に会いにくるためにこんなにオシャレしてきてくれたの?」
「…そうですよっ」
プイッと横を向いてしまった君をまた腕の中に閉じ込めた。なんだかおかしくて笑いがこぼれた。仕草ひとつ取ってもホントかわいくて仕方ない俺の**ちゃん。だから気が気じゃないんだよなー。
「ね、俺のものだってシルシつけていーい?」
「え?」
「こーゆーこと!」
くるっと身体を反転させて、髪の毛をアップにして晒されたうなじに唇を寄せた。耳の下あたりの首筋にももうひとつ。
うん、これなら誰も寄ったこないっしょ。
「え、そらさんもしかして…」
「うん、キスマークつけちゃった!」
「うそ!なんでそんなことするんですかぁー!」
真っ赤になりながらポカポカと俺の胸を叩く。そんなの気にも留めず抱き寄せると一瞬で硬直しちゃって、ホントかわいい。
「だって俺のものだって言いたいじゃん?寂しくなったらこれ見て俺のこと思い出してよ!」
「…バカ」
「**ちゃんが大好きすぎて、俺、こんなふうになったんだから**ちゃんのせいだよ?」
「…」
「もしかして、照れてる?」
「〜っ!もう知らないっ!」
真っ赤な顔を俺の方へ向けてお互い見つめ合った。ちょっと拗ねた顔をした君はすぐにくすくす、と笑う。
やっぱりこの笑顔は俺だけのもの。
独り占めしたいんだけど君は他の男にも惜しみ無く振り撒くから、ちゃんと俺のものだっていう首輪をつけてなくちゃいけないんだからね?
君は俺のものなんだよ。
「…うん、これでいいかな」
「…なんで」
「そらさん?」
「なんで隠しちゃうのさーっ!せっかく俺のものだってシルシつけたのにっ!!」
「や、あまりにも目立ちすぎるし、今日はストール持ってきてたから…」
「ハイ、これ没収ー!」
「えぇっ!?」
「やっぱりないほうがいい!ちゃんと俺のだってわかるし。…それとも、もっとつけて欲しい?」
「え、遠慮しておきます…」
「ちぇ、ざんねーん!」
end