いつも私がそれを目にするとき、必ず着信があったことを意味するランプがついている。前なんて平気で私の目の前で電話に出てたし。仕事中なはずなのにそんなことしてるあの人の神経を疑ったわ。

動揺する心を落ち着かせるために深く息を吸い込む。


ほんと、どうかしてる。



「**ちゃーん!ご飯まだー?俺もうおなかぺっこぺこ!」


こんな人にドキドキするなんて。



「あとちょっとです。もう少し我慢してください」

「はいはーい!あー、楽しみだなー!**ちゃんの手料理!」

「……あっ」


…オムライス崩れちゃった。

そらさんが楽しみだとか言うからだ。…もう1つは上手くいったけど少し冷めてるんだよね。崩れてるのよりはいいかなぁ。

先に出来上がっていたオムライスをそらさんが座っている目の前にコトンと置いた。



「そらさん、ちょっと冷めてるかもしれませんけど、どうぞ」

「オムライスじゃん!俺これ好きー!いただきまーす!」



そらさんはスプーンを持ってオムライスに手をつけようとしてぴたりと止まった。なんとか形を整えたオムライスとサラダボールを手にそらさんの向かいに座ると私の顔を見てテーブルにあったケチャップを指差した。


「ねぇ、**ちゃんがケチャップつけてくれないの?」

「え?私がつけたほうがいいですか?量とか好みがあるからかけなかったんですけど」

「うん!てゆーか普通ハート書くっしょ!?」

「は、はーと!?」


ほら、俺への愛ってことでさ!なんて無邪気に笑ってケチャップをつつくそらさん。

またわけのわからないことを言うんだ、この人は。



「…なんで私がそらさんへの愛を表現しなきゃいけないんですか」

「えー、いっつも俺はちゃんと**ちゃんへの愛を伝えてるじゃーん!」

「そんなのしりません。ご自分でどうぞ」



そらさんの目の前までケチャップをスライドさせて拒否した。

声が上ずりそうになった。いつもの私はどこ行ったのよ。こんな言葉ひとつで取り乱すなんて…。

私への愛って言ったって、いろんな女の子に言ってるんでしょ?誰にでも言うなら私には言わないでよ。他の子は喜んでも私はそんな言葉欲しくない。

私はそらさんの隣に置いてあるちかちか光る携帯を見た。バイブ音はラグマットに吸収されてるみたいでそらさんは気づいてない。


「…そらさん、携帯」

「えっ、…あ」

「どうぞ」

「んー、今**ちゃんといるし」

「私は気にしませんよ。出てください」

「…わかった」



私は目の前の破れた黄色皮がかぶったご飯を見つめながら口へ運ぶ。そらさんの口調がなんか真剣に聞こえたけどそれは気のせいだったみたい。

だって、ホラ。


「あっ、まきちゃん?久しぶりー!!うん、どーしたのー?」


やたら高めのテンションが私を苛立たせる。なんでこんな人に掻き乱されなきゃなんないの。別にそらさんが誰にどんな言葉を投げ掛けたって、愛を囁いたって、私には関係ないことなのに。


「あー、今日?」


聞こえてきた会話にふと目線を上げる。携帯の向こうではやたら甘い女の子の声が聞こえてきた。

そらさんは私をちらっと見てふわっと笑った。

え、何、その笑顔。思わずスプーンを落としそうになって固まる。



「まきちゃんごめん!今日行けないわ。…ってかこれからももう会えない。ただ1人大事にしたい人が出来たから」


だから、ごめん。

そう言ってしばらくして何度か頷いたりしてから私の目の前で電話を切った。私はそのまきちゃん、という子に対してのそらさんの対応が今までと違っていてびっくりした。すごく、真剣な表情だった。

ってか大事にしたい人、ってことは好きな人が出来たんだ。あのそらさんをこんな表情にさせるなんてすごい。

…あれ、別に、気にしてるわけじゃ、ないよね。ちくっとする胸の痛みは気のせいだよ、きっと。



「…ってことでわかってもらえた?」

「…は?」

「え!なにその反応!俺ちゃんと言ったじゃん!大事にしたい人ができた、って」

「…」



えーと…。



「…どういうこと?」

「…マジかよ」



大げさにため息をついてるそらさんから目を逸らしてまたスプーンを口に運ぶ。もそもそと口を動かしているとそらさんは意味のわかんないことを言い出した。



「だから!俺は**ちゃんが好きなんだって!」

「んぐっ……!?」

「ちょ、大丈夫!?水、みず!」



手渡された水を片手に咳き込みながら回らない頭で考える。そらさんが、好き?私を?いや、まさか。だって私かなり冷たかったし。私を好きになる要素なんてないはずだし。



「…冗談やめてください」

「だーかーらーっ!冗談じゃねーって!!」



この人は、本気で言ってるのだろうか。またいつもの調子で言うから、わけがわかんなくなる。



「…信じてくれないの?」

「…だってそらさん、いつも軽く言うし」

「…それは、」

「いつも女の子から電話かかってくるし」

「……、」

「や、私は別にいいんですけど」

「…」



急にだんまりになったそらさんを見ると、私をじっと睨んでいた。内心、戸惑いながらも気まずくてサラダを食べた。ドレッシングがかかってなかったところなのか、味が良くわからなかった。



「…**ちゃん、」

「…」

「なんでそんなに諦めてるの?いつもはなんでも最後まで諦めないのに、恋愛にはどこか諦めてる感じがする」


…さすがSP。


「なんででしょうね?」

「答えになってないじゃん!」

「…自分で答え出せてたら私だって今頃彼氏いますよ」

「……、」

「……好きって感情、よくわかんないんです」



私の言葉に反応示さないそらさん。失礼なことたくさん言っちゃった気がする。なんて答えようか迷ってるんだろうな。冷たい烏龍茶を飲み干して一息ついた。



「…変なこと言ってごめんなさい。さ、食べちゃいましょ?そらさんおなか空いてたんじゃないんですか?」

「あ…うん」



ぼーっとしながらもぐもぐと食べるそらさんはなんかリスみたいでかわいくて面白かった。

別に恋することを諦めてるわけじゃないんだけど、誰かに私の感情を左右されるのが嫌なの。そんな自分に戸惑ってしまう。だから、恋する前にブレーキをかけるんだ。

恋ってどういうものだっけ?どうやってするんだっけ?もう、いつからしてないんだっけ?


「ねぇ**ちゃん?」

「なんですか?」

「俺もさー、わかんなかったの。好きって感情」



あっという間にオムライスを平らげて腕を後ろについて満腹の身体を支えるそらさん。



「でもさ、**ちゃんを警護しててドキドキするんだよね。もっと一緒にいたいなとか、海司に触れさせたくないとか、思ったりするんだ」



んー、あとはチューしたいなとか?

へへっと笑うそらさんの顔が少し赤くて、この人は本当にそう思ってるんだ、と思った。



「あんなに女の子が好きだった俺が、今は**ちゃんにしか欲情しないんだよねー」

「欲…、!?」

「それってさ、恋ってことだよね?」

「…!」

「俺は**ちゃんといるとドキドキする。マルタイとSPとか関係なく一緒にいたいって思う。これって、**ちゃんが好きってことでしょ?」



ここまでストレートに気持ちを伝えてくれた人、今までいたかな。いつものおちゃらけた雰囲気は一切ない。まっすぐに、私だけを見つめている。今までのそらさんじゃない。



「ねぇ、**ちゃんは俺にドキドキしない?」


するよ、今、すごくしてる。


「一緒にいたいって思ってはくれない?」


そらさんといたらうるさいけど、…楽しい。


「そう思うようになったら、それが好きってことだよ。…なーんて、俺が偉そうに言えないんだけどね」



アハハ、と照れたように笑って体勢を元に戻した。

ドキドキして一緒にいたい、って思ったら、恋なの?

じゃあ、この気持ちは…



「これから**ちゃんに好きになってもらえるよーに頑張ろっと!」

「!!」

「あ、言っとくけど最近他の女の子とは会ってないからね?**ちゃん一筋だから!」


ぱちんとウインクしたそらさんを見て固まった。

うそ、だ。

そんなことあるわけない。

私が、そらさんを…。



「んーと、じゃあ手始めにチューしてみる?」

「…ばかっ!」

「…だよねー」



ちぇー、と口をとんがらがせて拗ねるそらさんはどこか嬉しそうだった。

そんなそらさんを見て、私の鼓動は早くなる。口ではいくら嘘を言えても、頭でどんなに心を否定しても、心臓が真実を語る。

あり得ない。

絶対にあり得ない!

こんなのって…!


「**ちゃん?どうかした?」

「…なんでもないです」

「そう?あ、俺皿洗うの手伝うよ!**ちゃんの手料理食べさせてもらったしー」



鼻歌を歌いながらシンクにお皿を運ぶそらさんがかわいいと思ってしまい、我に返る。



「…うそ、でしょ」



そらさんを見て笑ってしまった自分に呆然としてがっくりと肩を落とした。







誰か、
嘘だと言って







「ん?何がうそ?」

「! いえなんでも!」

「あやしーなぁー」

「いやいや、早く片付けちゃいましょっ」

「はいはーい!」



なんか悔しい。

久しぶりに恋をした相手は超女の子好きで手の早い背の低い女顔。

そらさんを好きになるなんて思ってもみなかった。

しかもなんか諭されちゃったし。

悔しい。

絶対に私の気持ち教えてやらないんだから。





end







 




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