「ん…」

隣で華奢な肩を出して眠る君は無意識なのか僕に擦り寄ってくる。それがすごく猫みたいでそっと毛を撫でた。


こうやって**が僕の腕の中にいる時が僕の安寧になっている。


僕は生きてる、って感じるんだ。





『瑞貴、』

そう呼ばれるだけで、僕は救われてきたんだ。**はきっとわかってないだろうけどね。


あの頃の僕は居心地のいい桂木班でさえ、きっと心のどこかでは信用しきれてなかった。

仕事の面では尊敬してるし、みんなのことを信用はしている。こういう仕事はお互いを信用していないと務まらないと思ってるから。でも人間を信じることは出来なくて。







「…みず、き……」

「…ふふっ」

かわいい顔してよく寝てる。僕の夢を見てるのかな。…そうだと嬉しいな。僕はいつも君のことを考えてるから。



あの時、僕には失うものがなかった。人に、自分に失望していたから。大切なものなんてなかった。守るものもなかった。

人は馬鹿じゃないかと嘲笑うかもしれないけど、僕は本気で死んでもいいって思ってたんだ。このまま虚像の僕を演じてるくらいならその方がマシだと思えた。

だから、仕事もどこか投げやりだったと思う。



「…**」

「…ん……」

ツンツンと白いほっぺをつつくと眉を寄せてまた寝息を立てる。そっと肩までシーツを上げてやると**は僕の胸に顔を埋めた。顔が見えなくなって、その代わりかわいいつむじが見えた。



**が、僕の世界に色をつけてくれたんだ。今までは全てどうでもよかったから僕の目にはモノクロの世界が映っていた。

この仕事について、また僕は人間の汚い部分を見てきた。私利私欲に溺れる人、自分自身がかわいくてしょうがない人、…僕たちを人間だと思ってない人。

それなのに**は僕なんかを心配してくれて、身体を大事にしろって言ってくれた。生きて、って言ってくれた。

こんな、僕に。




「**、」

つむじにキスをして頭を撫でる。本当は違うとこにもしたいけど起こしちゃうから、我慢我慢。



いつからかな、僕の身体は自分だけのものじゃないって思ったのは。

自分が生き残るだけじゃ意味がない。そう言った**の瞳は不安の中にも凛々しさが見えて僕は息をのんだ。

その姿があまりにも綺麗だったから。

僕はその言葉に頷いてしまったんだ。




僕はSP失格かもしれないね。

だってマルタイを守るのが僕の役目なのに僕も死にたくないって思っちゃったから。警護対象とSPじゃなく、ただ1人の男として**の隣にいたいって思ったんだ。

班長にはこっぴどく怒られたけど。あの桂木スペシャルはもういいかなぁ…。





「**…ありがと」

優しく**の頭を抱きしめた。いくら言っても足りない。感謝してもしつくせない。僕にまた、生きること、誰かを愛することを教えてくれた君に、一生かかってもきっと、足りないな。



「…なに、が…?」

「あれ、起きちゃったの?」

「ん…なんか、瑞貴の手気持ちくて…」

「ふふ、そっか」

目をこすりながら僕を見上げる**はまだ寝ぼけた不思議そうな顔してる。

そんな顔、海司さんやそらさんの前でしないでよね。あの人たち隙あれば**にちょっかいかけてくるんだから。…なんて、**に言ってもわからないもんなぁ。



「ね…なんでありがとって言ったの?」

「んー」



**が、僕自身を見てくれる人はちゃんといたってことを教えてくれたんだよ。あんなにもみんなが僕のために必死になってくれたことだって、**がいなかったら気づけなかった。あの場所にいていい、って言われた気がしたんだ。


ねぇ**。

僕は生きてて、本当によかったって心から思えたんだよ。


くすっと笑みを漏らすとわけわかんないって顔で僕を見る。まぁそうだろうね。いいんだ、僕が思ってることを**がわからなくっても。


「…急に**にありがとって言いたくなったんだ」

「…そうなの?」

「うん」


だってさ、どうやって伝えていいかわかんないんだ。全部話したら、僕、泣いちゃうかも。


「**…好きだよ」

「瑞貴?」

「好き。だからずっと僕のそばにいてね?」

「…うん」


**は嬉しそうに目を細めて僕の頬を撫でた。この笑顔も、全部僕のもの。誰にも渡さない。いや、渡せない。

**が僕のじゃなくなったら、僕はきっと僕じゃなくなる。息も出来ない。


「私も…瑞貴が好き」

「うん」

「私の居場所は、瑞貴だって思っていいよね…?」

「もちろん。僕の帰る場所も**だよ。**じゃなきゃ、生きてる意味がないんだ」


**はハッと目を見開き、僕をじっと見つめた。そして、ゆっくりと僕の頭を抱きしめる。


「…ありがとう」

「…どうしたの?」

「…急に瑞貴に言いたくなったの」

「…まねしたでしょ」

「いいじゃない…」




**が何を思って言ったのかはわからないけど、こうやって僕の何かを感じてくれている。僕自身を見てくれている。

そんな**がやっぱり大好きで。





こうしていられて幸せだな、って思ったんだ。





新しい歓びを
与えてくれた
のはあなたで
した





隣に君がいて

笑顔でいてくれたら

それだけで僕はハッピーなんだ。




「…たまには**からもキスしてほしいなぁ」

「えっ」

「今だってこうやって抱きしめてくれてるんだからキスくらいいいでしょ?」

「っ、…目、閉じて…?」

「はい、閉じたよ」

「…」

「**ー?」

ちゅっ、

「…し、したよっ」

「…」

「瑞、貴…?」

「…やっぱり足りない。**は全部僕のだからね?」

「…んんっ」




僕を感じて?

もう僕のそばじゃないと生きれないくらいになってよ。

僕は**なしでは生きていけないくらい好きなんだから。





end







 




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -