さわさわと頬を撫でる風が気持ちいい。舞い上がる髪の毛を押さえて、膝にある温もりに目を向けた。
目をつむったままの、綺麗な顔立ち。寝ている間も少しだけ眉間にしわが寄ってるのがいっちゃんらしい。
少し伸びた髪の毛に触れる。もうそろそろ切るのかな。
「……なんだよ」
「わっ!い、いっちゃん起きてたの!?」
「誰かさんが動くからな」
「が、頑張って止まってたんだけど」
しゅんとした私をじっと見上げて、胸元まで伸びた髪に触れた。人差し指にくるりと巻き付けて弄ぶ。
「髪、伸びたな」
「うん、こっち来てから一度も切ってないもん」
「もっと短かったよな、確か」
「もう少し伸ばそうかなって思ってるんだ」
「ふーん…」
「……ロング、嫌い?」
少し不安になった。いっちゃんはあまりそういうこと言わないから。
いっちゃんはまだ私の髪の毛に手を伸ばしながら、気のない返事をする。
「…別に」
「ホント?」
「ああ」
その一言で私の心は浮上する。
ああ、変わってないなぁ、私。
いっちゃんの言動に相変わらず振り回されてばかり。これでもだいぶ慣れたと思ったのに。
「…いっちゃんは変わったよね」
「は?」
「…一年前よりかっこよくなった」
「……」
なんか、悔しいな。
こうやって二人一緒にいるのにいっちゃんはどんどん前を進んでく。
こんなふうにセンチメンタルになるのは、改めて今までの月日を思い返してるからなのかな。
むくりといっちゃんが身体を起こして私の隣に座り直した。
「……お前も変わっただろ」
「…え?」
「…かわいくなった」
「……え、え?」
空耳かと思うほど小さな声で言ったその言葉は、私の頭を混乱させる。
するといっちゃんは私を抱き寄せて腕の中に閉じ込めた。
「もうあまりかわいくなるなよ」
「……」
「他のやつに見せたくねぇんだよ…」
ギュウッと抱き締められて、私の心臓は相変わらずうるさい。もうそろそろ慣れてもいいのに、全く慣れない。
そっと背中に腕を回すと、一瞬だけ力強く抱き締められて。それからスッと立ち上がった。髪から覗く耳が少しだけ赤くなってる。
「…帰るぞ」
「えぇっ!まだ午後の授業残ってるよ!?」
「いいんだよ今日くらい!」
「でも…」
「行くぞ!」
「えっ、まっ待ってよいっちゃん!」
ギュッと手を握り引き留めて見上げれば、少し不機嫌そうな顔をしていて。
「…今日は一日中俺といるんだろ?」
「……」
「どうなんだよ」
「…いる」
そう返せば満足そうに、でもいつもみたく意地悪な顔じゃなく優しい笑顔で私を見つめた。
「ほら、行くぞ」
「…うん」
そのやわらかくて優しい瞳に見つめられたら、頷くしか選択肢はないじゃないか。
私はぶっきらぼうに差し出されたその手を苦笑しながら取った。
結局私はいつまでたっても、
勝てっこない
ずるいよ、いっちゃん。
end
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