コンコン、と控えめな音が控え室に響いた。読んでいた台本を伏せてドアへ向かう。
返事をすると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「**ちゃん」
私を見た瞬間嬉しそうな笑顔を浮かべて、後ろ手でドアを閉めると抱き締めてきた。
「な、夏輝さん!?」
「ヤバイ!めちゃくちゃ嬉しい!」
いきなり抱き締められて、当然私は心の準備なんかしていなくって。うるさい鼓動と恥ずかしさを静めようとうつむいた。
ふわっと香る夏輝さんの匂いにくらくらする。
「今日会えると思ってなかったから…すごく嬉しいよ」
「…夏輝さん…」
「ホントはさ、ここによる予定なかったんだけど…まぁいろいろあって。いるかなと思って探してたら楽屋見つけてさ」
無邪気に歯を覗かせながら笑った。そっと、優しく頬に触れた手が少し冷たくて気持ちいい。
「……会えて…嬉しいです」
「うん、オレも」
久しぶりに会えて笑みをこぼせば、夏輝さんは会えなかった分を埋めるようにギュウッと抱き締める。
甘えるように顔を擦り寄せれば、はぁ…と悩ましげなため息が落ちてきた。
「…離したくないなぁ…」
「ふふっ」
「あ、笑ったな!」
両手で私の頬を包みこんで、顔を覗き込んでくる。久しぶりの綺麗な顔がこんな至近距離で私を見つめる。恥ずかしくて、思わず目をそらした。
「…なんでこっち見ないの?」
「だ、だって…」
「…**」
二人でいるときでも滅多に呼ばないその呼び方に反応してしまう。
そっと顔を上げれば絡み合うその視線はやわらかくて。細まった目が、私を愛しそうに見つめる。
「な、つきさ…」
「黙って…」
近づいてきた唇にそっと瞳を閉じた。重なったところから、二人の熱が混じり合う。
優しく、でも強く。開いた隙間から二人の吐息が漏れる。
「…はぁ…なんかこれからあいつらの顔見なきゃいけないと思うと…」
「…ふふ」
「もー…なんで仕事なんだよ…」
残念そうな顔で紅潮させた頬を掻き、私をまたその瞳に映した。
「確か来週オフの日あったよね?」
「あ、はい」
「オレも取れそうなんだ。だから…今日出来ないお祝い、一緒にしない?」
「ホントですかっ!?」
飛び付く勢いで詰め寄ったけれど、夏輝さんは肩に腕を乗せてさらに抱き寄せた。
「ハハッ!ホントホント!だからさ、もう少し頑張ろ?」
「はいっ!」
「あー…でも、」
歯切れの悪い夏輝さんに首を傾げると、ふっと目を細めて笑って私の顎を掬った。
「とりあえずもう一回…」
「なつ、……ん」
長い長いキスのあと、じっと見つめる瞳はやさしくて熱を帯びている。
少し照れくさそうに私を見つめて、コツンと額を合わせた。
「…これからもよろしくね?」
「…はい!」
見つめ合い、ふふと笑ってまた自然と引き合うように唇を寄せた。
描くのは同じ未来だから。
これからも、一緒に
同じ歩幅で歩いていこう。
end
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