あかい、夢。


あおい、夢。



周囲が赤い油絵の具で塗り潰されている。俺は大切な少女の手を握って、その中を走っていた。息をきらせてただひたすら、逃げる場所なんて何処にもないのに。ふと後ろを振り向くといつの間にか少女はいなくて、少女の手の汗ばんだ温もりの代わりに冷たい宝石を握っていた。周りのどろどろとした赤も、気が付けば鬱蒼とした暗緑色だ。


緋い宝石は、ゆるさない、と言って笑う。




青い空を見上げていた。水彩絵の具を薄く伸ばしたような、雲ひとつない空。動けない俺のすぐそばには、喋らない冷たい天使が微笑む。風がさあっと丘を駆けあがって、名も知らない花を揺らしていく。この世界に未練はない。焼けつくような後悔ならたくさん残しているけど。


天使は、忘れないで、と呟いた。





「おい、いつまで寝てるんだ!」

「……ん゙ん…」

「ローランサン?」

「……、夢?」

「…僕に確認されても困るんだけど」

「そっか…」

「?」



夢、ともう一回口にして、イヴェールと自分の手を交互に見た。


見えなくてもこの手に持っているものは多い。夢の内容はあんまり覚えてないけど、今度こそ手を離さないという気持だけが胸の奥でうずいていた。






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