隷*やさ竜 *まどーおーとそのペット 言葉には力が宿る。その音の色は玉響の振動を伴い魂を共鳴させ、在るべき形をどろどろに溶かし、内包する定義に寄り添う形へと変化させる。特に自分自身の本質そのものである真名を言霊で縛られたとあっては、鎖で檻に繋がれ自由に空を羽ばたくことも叶わない。竜にとって、交わした誓約は絶対の理。故にたとえ己の矜持が傷つけられる音にでも、耳を塞ぐことは、竜としての誇りが許さないのだ。 「おいで、“ラーサルグフル”」 躊躇いもなく呼ばれた、一言一句間違えもない流暢な発音の真名。ぐ、と見えない鎖が首を絞め、抗いようもなく男の前に引き寄せられる。 豊かにウェーブのかかった金髪、うっそり妖しく細められた翡翠の双眼。造作の整いすぎた男はただ立っているだけで、容赦なく威圧感を発する。古の世界を去ったというエルフと古代人の血を引く彼は、白皙の美貌に凄絶な笑みを浮かべて己の竜と相対した。 「…何の用ですか、我が君」 「何の用?君、私の誓約者だと良い張るなら聞かずとも当ててごらん」 「あなたの考えてる事など、一度たりとて理解したことはない」 刹那、声もなく彼の意を受けた風霊がラーサルグフルの頬を切り裂く。ぷつり、肌が切れてあかい滴が静かに垂れて白い衣装を汚す。その感触を知覚した白銀竜の化身は、暗欝としたものが下腹に溜まっていくのを堰き止める術が分からなかった。 数百年を生きたこの奇特な人間の内心は、きっと自分ではない者にしか埋め尽くされていないのだろう。そんなの、ラーサルグフルは知りたくもなかったし、そもそも彼の感情は。かつて魔導王として世界を統一し、数百年経ってから今度は混乱に陥れようとした彼の、美しすぎる面にひた隠しにして表されない。そんなことでは、理解できようもない。(壊そうとした世界はしかし、彼自身の孫である聖武王と、彼が唯一愛した竜女王によって壊せないものとなってしまったのだが) どうせ己は使役される地に堕ちた、矜持ばかり高い愚かな竜だ。 そんな愚かな竜の、酸化されてない鮮烈な赤の流れる傷口へ、優雅に人差し指が伸ばされる。 「…理解できないくせに。私を愛してるなどと言うのは100年早いね」 もう片方の手がまるで恋人を愛撫するかのように、頸動脈を撫でた。例の人差し指は、そのまま爪を立てて傷口をぎりぎり抉った。更にあふれ出る鮮血。この状態で治癒の力を使おうものなら、余計に男の神経を逆なですることは知っていたので、このまま耐える。いくら本体が頑丈とは言え人型をとってる場合、肉を掻きわけ口腔内へ直接指を突き立てるような行為は辛い。 「せめてもう少し、私を楽しませる甲斐性を身につけてからだったら、その言葉をいうことは許すかもしれない。けど、」 最後のの囁きは、唐突に興味が失せた、と言わんばかりに手を離したダンタリオンの後ろ姿に霞む。 なんで。ウルアを勉強しよーとして、この二人に飛んだのか。いや、メモリアル読んだのがまずかった。あああでもまだ気分が落ち着かない! |