地球へ…話

銭湯の番頭?ブルーとお客なシン様





今までさんざん厭ってきたし、煩わしささえ覚えていたはずなのに。その感情をいらないものと認識していた頭へ、まるで正反対な情報が上書きされたのは、つい最近のこと。

恋とは、落ちるものである。



「後30分で店だたみしますよ」

「ああ、分かった。もうお客さんは来ないだろうから、掃除の準備をしてくれないか?」

「了解です」


丁寧に一礼して背中を向けた青年へ言ったこととは裏腹に、僕は出入口の暖簾をちらりと見た。現在水曜日の午後八時半。もし毎週が同じ繰り返しであるのならば、多分、絶対にそろそろ来る。そして、僕のその予想は三分の誤差を伴って実現された。

かたり、からから。ガラス製の扉が躊躇うように開かれ、続いて現れたまばゆい色彩。


「すいません、まだやってますか?」


肩につかない程度に伸ばした金髪、無感情だけれど心なしか申し訳なさそうに細められたエメラルドグリーン。均整のとれた肢体と、極めつけはテノールとアルトの間をさ迷うよく通る声がとどめをさす。俗に言う王子様ルックを地で行く彼は、僕の「やってますよ、どうぞ」という返事に頭を下げ店内に入った。

すぐさま小声で先程指示を飛ばした青年、リオを呼び、リオも承知していたのか苦笑して掃除道具を脇にどけた。僕は重大な報告を聞く会社の重鎮みたく頷いて、数センチ浮いた腰を降ろす。さりげなく自分の髪を手櫛で整えたところで、彼が脱衣所から早足で歩いてくることに気づいた。
ひとつ、深呼吸。落ち着け、やればできることはこの25年間で学んだことじゃないか、僕。


「ごゆっくりどうぞ」


深呼吸でリラックス出来るとか、かなりの高確率で嘘だと思う。最後の最後、微妙に声が裏返ってしまった。どうだろう、不審に思われたかもしれない。あまりの情けなさに顔が熱くなって今すぐ俯きたかったけど、ぐっとこらえて笑顔を作る。しかし無情にも立ち止まった足並みに、一瞬で全身が凍りついた。ああ、その首筋のラインと鎖骨が素敵だ、なんて思っていたことがばれてしまったのだろうか。


「いつも無理言ってすいません」


にこ。ぺこり。
僕は一拍置いて解凍処理を施された。


「…いえ、ゆっくり浸かって疲れをほぐしていってください」

「ありがとうございます」


せめてもの、これまで積み上げてきたプライドで営業スマイルを絞りだし、湯煙漂う浴場に消えて行った彼の背中を見送った。がらがら、こちらとそちらの境界線が敷かれてすぐさま、僕は机に突っ伏す。ブルー?とリオの呼び掛けは聞こえてるのに、瞼の裏には無表情に一滴落とされた微笑みが横行していた。


「リオ」

「はい」

「……25歳で初恋って、遅いのかな?」

「……頑張ってください。応援してますよ」


何も聞かず、優しく肩を叩いてくれたリオは、本当に有能な右腕だと思う。僅かに聞こえるお湯が流れる音を極力聞かないようにして、僕は腕にくっつけた緩んだ顔をどのように引き締めようか途方にくれた。






見直しなんか、してないっ!時間がないくせに妄想はふくらむんだから困ったさんだな…^q^
暇が出来たら続きを…!







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