ふ、不思議な話?一種のパラレルと思って読んだ方が良いかもしれません。




言葉と文字。どちらもうつろいゆくもの。しかし、言葉は時代を経るにつれ失われることが多いのに対し、文字は媒体がなくならない限り残ることが多い。文字はあらゆる事象、人物、文化などを線の重なりに変換し、紙に閉じ込める。時には個人の記録、記憶、想いさえも。故に、書物とは檻なのだ。変わりゆくものを一定に保ち続ける、頑丈な錠前がついた檻。



まだ両親が健在な頃、家にひっそりとあった広く古びた書庫。そこには大量の本がずらりと並んでいた。今は生活費の足しに数冊を残して売ってしまったけれど、小さい僕はカビ臭いその部屋に夢中になって通ったものだ。童話から英雄譚、恋愛小説から哲学まで。とにかくジャンルは豊富。そのなかでも今手元に残っているものが、特に僕の目を引いた数冊だった。その数冊、例えば解読不可能の黒いものだったり、絵本だったり、日記だったり。

この話を馬鹿正直に話すと、夢でも見たんだろうと笑われるだろう。最悪、変な奴だと白い目で疎まれたかもしれない。誰にも言わなかった当時の僕を褒めてやりたかった。誰にも話すことが出来ないない秘密、それは手元に残っている数冊と関係している。

僕は、それらの本にとりつく幽霊を見たことがあるのだ。



「イヴェール、お前よくその本読むよな」


ソファの背もたれに座った相方が、酒の入ったグラスを持ちながら僕の覗きこんだ。微酔い気分なのか、足をぱたぱたさせている。行儀悪い。


「よく読むのはこれだけじゃないけどね」

「ふーん。どんな内容?」

「…ところどころ赤紫がまじった銀髪で、シスコンで、実は泣き虫な英雄の、波乱万丈な一生の話」

「……やけに主人公について詳しくね?」

「あ、ああ。何回も読んでるから、」


まさか小さい頃、実際に本人に会って喋ったことがあるとは言えまい。いや、ローランサンにだったら言ってもいいのかもしれないけど。
久しく見ていない赤紫の外套が、ちらりと目の端で揺れた気がした。





檻=本、って考えたら楽しくなってきて出来た産物。ここでミシェル出したら小話どころではなくなると思って、敢えてエレフを初登場させてみました。そしたらメルヘンな方向に…←






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -