僕の相方は、音痴。
音程がずれるのはまだ愛敬で済まされる範囲、と言える。けれどローランサンの場合、リズムが変なところで滑る跳ねるこける飛ぶ。歌詞や旋律がおぼろ気な箇所に至っては自分で適当に編曲して繋げるから、最悪原形を留めない程滅茶苦茶になることも度々あった。


「…、…」


僕が読書する傍ら、求人広告とどこぞの屋敷の見取り図をまとめて見ながら、相方は歌う。無意識の鼻唄程度のものを。やっぱり今日も、目の端から涙がこぼれ落ちそうなくらい下手くそだ。


「……、…」

「そこは、…、……。じゃなかったか」

「ん?そうだっけ。…。…、?」

「……はぁ」

「何だよその溜め息!」


ついつい我慢できなくなって、ローランサンの歌に訂正をいれるのは既に習慣として身についている。こいつの音痴には相当年季が入っていてすんなり直ることは少なかった。
今回もそのようで、僕は音を立てて本を閉じた。相方はむっと眉を寄せて、僕の口ずさんだフレーズをなぞろうとへんてこな音符をまき散らす。慌てて止めた。


「ほら、ローランサン。あー」

「あー、?」

「そう、その音から歌って。ドレミファソラシドー」

「…ドミファソシドー」


吹き出した。睨まれた。
本人はちゃんと音の階段を正確に上ってると思ってるみたいだが、はたから見れば一段飛ばしのしすぎで転がり落ちそうになっているのがまるわかり。ローランサンは僕の反応が気に入らないようで、持っていた書類一式を丸めてつきつけてきた。藍色の目の下が仄かに赤くなっている。


「文句言うならイヴェールやってみろよ、俺が歌ってたやつ!」

「いいよ?」



僕はあっさり頷いてさっきの歌の曲名を一応確認する。それは最近酒場でよく歌われているもので、安酒を求めて足を運ぶうちに覚えてしまった歌。
僕は足を組みなおしてから、頭をよぎる旋律に合わせて言葉を乗せる。数分後の相方の反応を楽しみにして。





「もう一回、もう一回歌って!」

「…これで四回目なんだけど」

「だってイヴェールの声、歌うとすごくきれい。きらきらしてる…!」

「……しょうがねぇな」






イヴェールの方が歌うのうまいよ、て話だったはずなのにロラサンが音痴になった\(^o^)/!
ロラサンは、物でも何でもきらきらしたものが好きそう。






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