別れ告げの花



「これをあげよう」


はい、とやせ細った手が渡してきたものは、小さい植木鉢。丸くて小さいそれは、土が入ってるだけで何にも生えていなかった。


「…何ですか、これ」

「見た通りの物だよ。植木鉢に土が入ってるものだ」

「種は入ってないんですか」


首を傾げると、横たわる彼は幼子を諭すように、僕の髪を手のひら全体で梳る。手袋越しの体温は予想以上に冷たくて、背筋に焦燥を含んだ冷や汗が流れた。
繊細な容貌も手助けして、ひとつでも大きな風が吹けばどこかえ消えて行ってしまいそうな、そんな儚さを彼は常時身に纏う。触れては離れていく指に、確かに流れているはずの血流を感じようと僕は躍起になった。まだ、まだこの人は生きている。


「ジョミー」


ゆっくり、一文字づつ噛みしめて呼ばれた名前に、耳を閉じてしまいたい衝動に駆られる。柔らかなテノールは僕の耳を抉って傷を残し、いつまでもじくじく痛みを残すのだ。せめて、彼の声がもっと高ければ良かった。高くて、聞いたその時は痛いけど、すぐに忘れ去ってしまうような軽い声。


「種は入っていなくともね、君が望めばこの花は咲く」

「なら、あなたが育てればいいじゃないですか。あなたの方が、」

「ジョミー、」


色素が欠落した血の色の両目。その両目は分かっているだろう?と語りかける。正直、彼の声より僕を抉る行為だ。


「目を閉じて寝てるとね、時々見えるんだ。多くの人の前に立ちはだかるたくさんの道がね。未来予知の力は全部フィシスに渡したはずなのに、おかしいな」

「…その道に、あなたがこの花を咲かせる場面は?」

「さあね。僕自身のこととなると、良く分からなくなる」

「嘘つき」

「ジョミー…」


困ったなぁ、嘘つきと呼ばれてしまったよ。
飄々笑う彼を、出来ることなら思い切り殴り飛ばしてみたかった。成層圏まで散歩しにいったことはあるけれど、あれ以来僕は彼を腫れもののようにしか接してない。もっと僕が早く生まれて、彼がもっと現役の頃に邂逅を果たしていたならば。今、このどうしようもなく感じる見えない溝は、もっと浅かったのだろうか。


「僕は、道とかそんなもの一切見えないので、あなたの言ってることは僕にとって嘘です。嘘なんだよ」


静かで冷たい部屋に、高ぶった感情をともしたサイオンがうねりを上げながら走り過ぎる。それを丸ごと受け入れて、嬉しそうにほほ笑む彼が憎たらしかった。


「だから、僕がこの花の色を教えてあげる。もしかしたら、愛してやまないテラの、あなたの名前でもある色かもしれませんよ?」

「それは、」


分かってるさ、だから嫌なんだ。この植木鉢が僕の願いを孕んで種を産み、花が咲く頃には、もう彼はいない。




「それは、すごく楽しみだ…」









わけわかめ文。ジョミーと、彼はブルーのことです。お互いナスカで別れる前に、何らかの形で予測がついていたら切ねぇ…!と思って暴走した模様。












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