了を打たないお伽噺



別れ方がああだったから、次に会う時は、自意識過剰かもしれないけど、あなたが僕をまた探し出してくれようとするんじゃないかって思ってるんだ。




蹴りあげたボールが空に消えた。ジョミーは小さく笑いながらその光景を見つめる。

「おい、本当に言わなくていいのか」

隣に立って一緒に見ていた黒髪の少年が、共通の友人の名をぽつりと挙げて、一言悲しむぞと呟く。笑ったままその呟きに答えないでいると、少年の気分をいたく害したようで、白くまだ柔らかい額に不釣り合いの縦じわが二三本寄った。

そうしていると、知りもしない置き去りにしてきた時間が蘇ったようで、その時間の当人ではないというのに何だか感慨深い。しかしジョミーはその感慨が、当人ではなく自分が関係者であるところから来ていると確信していた。例えるなら、祖父母から両親へ、祖父母から祖父母の祖父母へ、大切に伝えられてきた内緒話のようなお伽噺。その表紙は、確かに今でもジョミーの中で捲られるのを待っている。

キースという名の少年は馬鹿馬鹿しい、と一言で切って捨てた。

「馬鹿すぎる。君の言い分をもう一度おさらいしてやろうじゃないか。今では名前も顔も分からない、どこにいるかも分からない。そんな人物を捜索範囲無限大から探すだって?」

「何度も言うけど。捜索範囲は無限大じゃなくて、きっとこのテラの内だけだ。あの人、フリークと言っていいほどテラが好きだったから、たぶん」

「きっとと多分がつく説明を誰が信じるんだ!」

「それは勿論君だよ、キース。君だって心の底では何となく、ぼくの探す人がこの星にいるって思ってるんじゃない?」

キースは不服そうな顔をしてぐっと押し黙った。明らかな無言の肯定にジョミーはにこりと笑い、風に乱れた蜂蜜色の金髪を手櫛で整える。風、そう今日は良い風がよく吹く日だ。

「それでもジョミー、テラだって狭くない。探し回るとしても数年は掛かるだろう。なのに、サムやスウェナ、君の両親にも黙って家出するなんて。共犯して手引きした、って真っ先に疑われるのは僕なんだぞ」

14歳になる今日まで、この友人とタッグを組んで起こしてきた騒動をジョミーは思い浮かべた。キースは巻き込まれただけと主張するだろうけど、嫌味な学長先生のカツラを嬉々としてすっ飛ばしていたキースは忘れられるものではない。今ここでいうのなら、30倍の愚痴を言われるので口をつぐむ。

しかしキースの板についてきた眉間の皺はそろそろ限界が近いみたいだった。そろそろ種明かししなくちゃなぁ、そんな風にのんびり考えていたジョミーは、微かな足音がこちらに向かって来ているのを聞きつけ、口元を引き締める。

そして何の脈絡もなく、そっと心の中の表紙に手を伸ばした。

「……別れ方がああだったから、次に会う時は、自意識過剰かもしれないけど、あの人が僕をまた探し出してくれようとするんじゃないかって思ってたんだ」

突然何をと言いかけたキースは、ジョミーと同様誰かが走ってくるような音を聞きつけて、目を丸くする。

「でも“僕”は、順番で言ったら次はこっちからで、ついでに別れるまでの恨みつらみを盛大に晴らしたいとも考えていた」

全ては過去形だけれどね、出発が遅かったのかもしれない。とジョミーは肩をすくめる。足音は、すぐ近く、公園の入り口近くまで迫っていた。風が吹く。今度はキースの黒髪まで揺らして、その向こうに銀色を垣間見た気がする。

「ジョ、ミー!」

再会はすぐそこ。お伽噺は息を吹き返して、新たにページを増やしていくだろう。

相変わらず無駄に美しいテノールで名前を呼んだと思ったら、間髪入れずに抱きしめる。

見ず知らずの他人が、それも成人も過ぎただろう青年が友人を腕の中に閉じ込めているのを見て、キースは警察を呼ぶべきなのだろうか一瞬迷ってしまったが。ほんわり幸せそうな二人に、無言で踵を返すしかできなかった。










敬老の日ということで、元おじいちゃんと孫が再開する話です(もののたとえ)。待つのに飽きて迎えにいこうとするショタじょみさんと、ぎりぎり間に合った大人ブルー。続きはウェブで。












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