痣は数日経ってからの方が酷く見える。特に目の周辺、皮膚の薄いところに内出血ができたものなら、人相まで悪くなって外を出歩くのも嫌になる。

「ローランサン……お前それ…」

怪我した当日はバレなかった。翌日は「隈か?」で寝不足になるまで遊んだという不名誉な疑いだけで済んだ。しかし3日目からは流石に頭脳明晰かっこわらいな相方を、かくかくじかじかとごまかすことはできなかった。

隈じゃないな。うん隈じゃない。落書きか?今インク切れてるのお前だって知ってるだろ。

そんなやりとりを交わして黙り込んだイヴェールに、俺はニヤニヤする。ちょっぴり見えてしまったのだ。前髪から覗いた眉間による皴がくしゃっと下がるのを。自惚れじゃなかったら、多分この表情のサインは「したくないけど心配してしまった」って意味で。イヴェールの機敏を何で読み取れるのかは、そこはほら、そこそこの付き合いの為せる技ってものだ。

「こないだ派手に喧嘩してさー。めっずらしく油断したから一発食らっちゃったの」

可愛くきょるんと上目遣いで言ったら、キモ…とドン引きされる。酷い。あ、そうか現在酷い面なのは俺だな。顔の半面パンダな男に至近距離で上目遣いされても寒いだけだろう。そう思って身を引こうとしたら、ここでイヴェールのツンデレ発動。逆に腕を掴まれてぐいっと引き寄せられた。勿論一ミリもその行動を予測してなかった俺は勢いよく相方の腕の中に飛び込む。さっきイヴェールの機敏がどうって言ってごめんなさいやっぱり嘘だったようです。それにしてもイヴェール、イヴェールのくせにすごく良い匂いがするんだけど。

「……こんな跡、つけられてきて…」

むっすり口をつぐんだイヴェールは、ぐいぐい人差し指で患部を突き刺してくる。痛い。治りかけの今、半端なく痛い。そっぽを向くようにしてイヴェールの手から逃れようとしたら、その瞬間に顎をぎゅいっと捕まれました。どうしてこうなる?

「ひへーる、いひゃい、ひひゃひぎっ!!?」

抗議も押し止めて、顔を近づけてきた不機嫌な相方は俺の痣に思いっ切り歯を立てる。俺は飛び上がる。……当然ついて来た俺の膝はイヴェールの腹筋を強打する。


フランスの昼下がり、閑静でもないアパルトマンが立ち並ぶ坂道に変な叫び声が響いたのは、気のせいにしてほしい。







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