※愛妻の日な白ルキ







「……さて」

胡散臭い黒頭巾の男が本題を切り出したのは、実際微塵も興味のない此方の近況を聞くだけ聞いてそれに少しだけ揶揄混じりの感想を付け足してからだった。重厚な木目調の椅子に座っている男とは違い、この真冬に数十分立ったままで話に付き合わされていた白鴉は、内心盛大に溜息をついて見せる。

この地域が雪で閉ざされるまでの一か月、白鴉はこの男に無茶な命令を受けて外回りの仕事を熟していた。先日ようやく全ての行程が終わり、待ち人のいる教団に返ってこられたのが今日の朝方。それから旅の装いを解く暇もなく呼び出され、この男の話に延々と付き合っている。時刻を見るともう昼も過ぎており、長旅の疲れも相まっていつもより感情の制御が聞かない風がある。

(ルキア……)

待ち人、唯一の家族と呼べる少女を思い浮かべ、白鴉は会える距離にいるのにすぐ会いにいけないもどかしさに地団太を踏みたくなる。

一通りの任務が落ち着き帰る目途も経った頃、一度手紙が届いていた。白鴉の体調を心配していること、順調に勉強が捗っていること、いつか貰った懐中時計の話、それとやっぱり少しだけ寂しいということ。そんな、嬉しいものを呼んだなら、すぐ帰りたくなってしまうじゃないか。ということでもう数日ばかり掛かる予定を急きょ繰り上げ繰り上げ、素晴らしい手腕で終わらせて帰ってきたのだ。なのに。

男、ノアは先ほどから憎たらしい程の野卑な笑みに口元を歪めて白鴉を見据える。これは、絶対、この場から一刻も早く抜け出したいと思っている白鴉の心情なんてお見通しなのだろう。

「この度はご苦労だった。予定より数日も早く終わらせてくるとは、流石彼らの弟だね」
「……ありがとうございます」

お礼はルキアに一番最初に言われたかった。白鴉は舌打ちする。ちっとも嬉しそうではない礼の言葉は、更にノアの機嫌をよくしたようだ。

「この件について君にご褒美を与えようと思うのだが。如何かね?」
「結構です」
「既に部屋へ届けてある。それまで楽しみにしているといい」
「辞退は可能ですか」
「さぁ、引き留めて悪かったね。3日間は休日にしてあるから存分に休みなさい」

会話のキャッチボールが出来ないのは端から諦めていたが、分かっていても酷すぎた。白鴉は今度こそあからさまに溜息を押し出して、一礼してその場を退席する。部屋の扉を閉める前に、ノアはぼそりと呟いた。

「まぁプレゼントを見たら、辞退など絶対に辞退などありえないだろうがね」

嫌な、予感。背筋を冷たい汗が落ちた。


――果たしてノアの言っていたものは、白鴉の寝室で待っている間に寝てしまったのであろう少女の、幼気なフリフリエプロン姿。流石教団をまとめるノアだけのことはあり、そのご褒美は白鴉の心を的確に突いていたのであった。






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